「業務を引き継げない」担当者の課題と対策
企業の適切な運用に際した課題感を表す言葉として、属人化や省人化、省力化といった表現があります。現代におけるそうした課題への対策としては、人材の調整だけではなく、多種多様なツールへの置き換えも考えられます。
同時に、その置き換えもしくは、リソースの追加や調整に際しては、その対象が人かツールであるかを問わず、スムーズで効果的な業務の引き継ぎが必要ですが、このプロセスは時に難航することがあります。特に「業務を引き継げない担当者」が直面する課題は多岐にわたります。
課題を残したまま実施される業務の引き継ぎは、プロジェクトの遅延や品質の低下にもつながり、最終的には顧客満足度にも影響します。そこでこの度は、引き継ぎに際した課題と、それに対する有効な対策について検討します。
引き継げない担当者が直面する主な課題
業務理解の不足、情報の属人化
現担当者自身が業務の全体像や詳細を完全に理解していないことが、引き継ぎの障害となる場合があります。また、特定の個人だけが持つ知識や情報が文書化されていない状況下では、引き継ぎ以前の作業を必要とする場合があります。
文書化の不足
業務管理についての明確なルールが定められていなかったり、業務を効率的に引き継ぐための適切なツールや仕組みが導入されていない場合、引き継ぎ時にその情報を伝えること自体が困難になることがあります。
コミュニケーションスキル
業務の知識が豊富であっても、その知識を他の人に効果的に伝達する能力が不足している場合、業務の引き継ぎがうまくいかない可能性があります。コミュニケーションスキルの不足は、情報の誤解を招いたり、必要な知識が適切に伝わらないことで、引き継ぎ後の業務品質にも支障をきたす危険性があります。
業務プロセスの複雑性
業務プロセスの複雑性が引き継ぎを難しくする場合があります。複雑なワークフローの背景には、多数のステップや、複数の部署やチームを跨ぐ依存関係、専門的な知識や技術の必要性などが挙げられます。これらの要因は、業務の引き継ぎを困難にする他、新しい担当者が全体像を把握し、各プロセスの細部まで理解する為に多大な時間や労力を必要とします。
課題への有効な対策
業務理解の不足と情報の属人化に対する対策
業務理解の不足や情報の属人化に対しては、業務の詳細を記載したマニュアルの作成や、定期的なレビューを通じて情報の最新化を図ることが有効です。状況により、レビューには客観的な立ち位置でその役割を担う協力者の選任が必要となりますが、これにより業務の全体像は把握しやすいものとなり、引き継ぎも容易になります。
・マニュアルの作成
業務の全体像や詳細なプロセスを文書化し、業務マニュアルを作成します。
・定期的なレビュー
定期的に業務プロセスのレビューを行い、更新が必要な箇所を識別し、情報の最新化を図ります。また、レビューにより明らかになる業務理解の不足部分について、改善策を検討し実施します。
文書化の不足への対策
文書化の不足への対応としては、業務管理ツールの活用や業務フローチャートの作成が挙げられます。初動としては面倒かも知れませんが、要件を整理して一度型を作ってしまえば、あとのタスク管理はルーティン作業として落とし込める為、引き継ぎにおける障壁を低減する他、業務品質の安定にも繋がります。文書化によって得られるメリットには、再現性の確保やミスの減少、トレーニング時間の短縮などが挙げられます。
・ツールの導入
業務に関する情報を一元的に管理し、アクセスしやすくするための管理ツールを導入します。Excelでタスク管理シートを作成し、スプレッドシートで関係者が閲覧・編集できる環境を備えるだけでも一定の効果を見込めます。ツールを使って、業務手順やガイドライン、よくある質問などを共有し、業務の引き継ぎをスムーズにします。
・フローチャートの作成
複雑な業務プロセスをフローチャートで視覚化し、業務の流れを容易に理解できるようにします。
コミュニケーションスキルの不足への対策
コミュニケーションスキルの不足は、トレーニングプログラムの提供やメンタリング制度の導入により克服できます。これにより、担当者は業務知識を効果的に伝達する能力と共に、傾聴スキルや透明性のある指示の出し方、フィードバックの受け方や与え方などの感性を養うことができ、業務の引き継ぎも円滑に進められるようになります。
•トレーニング
コミュニケーションスキルを高めるためのトレーニングやワークショップを実施し、担当者が他者への効果的な情報伝達能力を身につけるよう支援します。必ずしもかしこまった場を設ける必要はなく、評価を目的に業務内容や運用上の工夫について説明してもらうような機会を重ねることでも、他者へ伝える力を養うことができます。
•メンタリング制度の導入
経験豊富なメンターが担当者を支援し、業務理解を深めるとともに、適切なコミュニケーション方法を指導します。
業務プロセスの複雑性への対策
業務プロセスの複雑性への対策としては、プロセスの簡素化やクロストレーニングの実施が効果的です。これらの取り組みは、業務プロセスの理解を深めると共に、不要なステップの洗い出しや、自動化できる業務の特定にもつながります。
•プロセスの簡素化
不必要なステップを削減し、業務プロセスを簡素化します。
•クロストレーニング
異なる部署やチームのメンバーが互いの業務を学ぶ機会を設けることで、業務プロセスの理解を深めます。適切な部署間の周知により、複数の部署やチーム間における連携強化の効果にも期待できます。
まとめ
担当者が業務を正しく理解し、知識を組織の財産とするためには「担当者自身が知っている」だけでは十分といえません。業務を一人で抱え込むことは、担当者が今後も継続して稼働できることを前提としており、それはチームや組織全体にとってのリスクです。たとえば、私自身の手元では、給与計算担当者の急な退職や急病をもとに、従業員への給与支払いが滞るといった事案を確認しています。
文書化し適切なツールを用いることは、情報の共有とアクセスを容易にし、引き継ぎ時における障壁の低減にも役立ちます。専門知識には価値がありますが、それを伝えられなければ、その価値は半減します。コミュニケーションスキルの向上は、担当者の専門性を最大限に活かすためにも必要です。また、複雑なプロセスは新しいメンバーにとっても大きな壁になり得ます。プロセスを簡素化し、それを共有することで、新しいメンバーが迅速に戦力化する手助けができます。それは、現担当者の負担を減らすことにもつながります。
「業務を引き継げない担当者」には、個々に直面している課題があります。業務を引き継げる環境が組織全体に与える影響や、積極的に課題に取り組むことの重要性をもとに、現状を考慮し、適切な対策を講じていくことは、課題への対処はもとより、組織全体の効率化と持続的な成長を実現するための基盤を築くことにつながります。❀
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