「Samnolence」の午前2(サムライバニーが来た)。

「レッドちゃん、おはよー」
「おはよう、ネイビー、今日はそこそこの時間ね」
「最近、暑くて、ここ亜空間のはずなのにぃ~、ん?今日は何を読んでるの?」
「『V3』、メロンブックスの通販ページ」

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2465261

「あぁ、コミケのやつだ、もう1冊あるんでしょ?」
「『推しの新衣装が1日に2着発表された件ッッ』はこっち」

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2483921

タブレットの画面を見せながら、レッドは悟ったような顔をしていた。

「レッドちゃん、設定が壊れたね…」
「そうね、こんなはずじゃなかったのだけど…」

レッド、ネイビーの二人は、公式の供給が足りず、眠りについたご主人様(イトウ)を目覚めさせるため、所縁のある人物からイトウの欠片を回収していた。それが主人を目覚めさせるヒントだったからだ。しかし、数ヵ月前、突然、公式の供給過多が起こり、ご主人様は普通に目覚めるし、衣装作りの修羅場が始まるし、怒涛の撮影があって、もう今週末(0811)のイベントで写真集になって頒布されるのだ。

「ん~、どうするの?」
「どうするって、外には出られないし、Fantiaで通販かしら?今回はBOOTHと分けて販売するそうよ」
「そうなんだ~って」

そういうことじゃねーよ!

「確かに、現地民が手加減してくれないと、忍びクリーク(ほぼ現地限定)のアクスタは手に入らないわね」

それはそう!だけど、そうじゃねーよ!

「レッドちゃん、帰って来て!」
「ネイビー、コウシキノキョウキュウカタって怖いわね…」

公式の不遇はしばらく続くと踏んでいたからの設定で、プロレスだった。年内は余裕では?そんな思い込みが崩れたのだ。公式さん、ありがとう。ただ、新たな発見もあった。公式の供給が多過ぎると、それはそれで困るのだ。ちょっと壊れるのだ。乱れたご主人様を眺めながら、これを静めるためにもイトウの欠片の回収は必要なのでは?そうして、新たな設定が生まれた。

「そうなったんだ」
「世界線が別というパターンも考えたけど…」
「それは滑りそうだから、止めよう」

「お二人とも~、お客さんですよ~」

ミノが、キラキラ光りながら来客を告げた。先日、ミノ(イトウの欠片)になった謎ジャージ姉さんはまだ普通にいるのだった。もう目覚めちゃったし、本当に要るのか?イトウの欠片よ…

「え?ファミマの入店音はしなかったけど?」
「ごめん、レッドちゃん、あれ変えちゃった」
「何にしたのよ?」
「JRAの払戻確定チャイム」

馬券が当たった奴にしか聞こえない音にするんじゃない!(偏見)

「とりあえず、案内しちゃいますね~」

ミノ姉さんに連れられてやってきた少女は、バニーガール姿だった。着物を羽織っていた。そして、帯刀していた。侍バニーがやってきた。

※侍バニーはイトウさんのインスタに固定されているので、そこで御覧ください。Twitterでも検索すれば出てきます。

帯刀、この状況は初めてだった。和平の使者は武器を持ってこない。そんな考えが頭を過る。主人に所縁のある人物のはずなので、危険はないと思いたいが、緊張が走ったのは…

「お着物、向こうのトルソーに掛けておきます~?」
「あ、助かります」
「その刀も、預かりましょうか~?」
「いいですか?お手数かけます」
「いいえ~」

謎のミノパワーで、ふわっと浮かせて、ミノ姉さんは着物と刀を奥の部屋へと運んで行った。鍛え上げた筋肉の力なのだろうか。そして、残されたバニーガールと、沈黙。す~っと戻って来るミノ姉さん。

お姉ちゃん!そろそろプロレスを覚えようよ!バニーにしてどーすんだよ!バニーにして!

「ホント、ごめんなさい~」
「まぁ、まぁ、ネイビー、分かっていたことだから、それより…」

ミノ姉さんの方がメイドっぽいことをしていることが危機だわ…

「レッドちゃん、私たち、このままじゃ破廉恥メイドのまま…」

「あの~、ここって、相談ができると聞いたのですが?」
「あ、ごめんなさい、大事なお客様を放置して」
「この屋敷に辿り着いたなら、大丈夫、相談でも、何でも」
「あぁ、良かったです」
「因みに、どうやって、来たの?」
「舎人ライナーで来ました」

そこは、みなとみらい線だろぉ~、また空気が読めないパターンかよ~

「ネイビー、落ち着いて、そのネタ引っ張り過ぎな上に、何も始まらないわ…」
「ごめん、みんな、とりあえず、一息付こうか?」
「綾鷹があると聞きました」
「あるよ!」

何故誇らしげなのかは分からないが、ネイビーは嬉しそうにお茶の準備を始めた。と言っても、メイドらしいものではない。いつもの紙コップにペットボトルの綾鷹をトクトク注いでいくスタイルは変わらなかった。それぞれが口に含み、香りが鼻から抜けていく。ミノ姉さんは紙コップにフルダイブして、ちゅぽん、ちゅぽんという音を立てていた。二人にはもう見慣れた光景だ。侍バニーだけが、こうやって飲むんだと、若干引き気味に見ていた。

「どう?綾鷹?」
「そうですね、綾鷹の豊かなうまみと、かろやかな後味が、紙コップの臭いで台無しです」

もう飲ませねーぞ!

そうは思ったが、あまりにも正しい事実の指摘だったので、次回からせめてティーカップは用意しようと決意したネイビーだった。その様子を眺めながら、この娘、きっと次は600㍉のペットボトルの綾鷹をそのまま出すわねと、レッドは思っていた。

綾鷹ブレイクの後、侍バニーの来訪目的が明らかになった。現在、映画の脚本を考えているそうで、侍バニーはその主人公の姿だそうだ。基本はできているが、新しいアイデアを取り入れて、より良くしたい。今回はその相談にやってきたらしい。それだけで、欠片が回収できるのか?は分からないが、とりあえず、協力することになった。

「ふ~ん、なるほどね」
「もうタイトルは決まっているの?」
「『サムライバニー~The MOVIE 外伝 ネオ川崎を取り戻せ~』です」

勝てる要素が何もないわね

「わかるよ~、外伝と言いつつ本編とか無いんでしょ?」
「何で分かるんですか!」
「まぁ、通ってきた道なのよ」
「私はいいと思いますけどねぇ~」
「味方はミノだけ、始まったわね!」
「とりあえず、ざっくりあらすじを教えて」

侍バニーが、本当にざっくり語ったあらすじの概要を説明すると、舞台は謎の災害後の川崎で、通称はネオ川崎、あらゆる機能が停止した都市で、侍バニーは正体不明の用心棒(便利屋)として活躍していた。そんな中、1つの依頼が舞い込んで来て、それがネオ川崎の危機に繋がる。侍バニーはネオ川崎を守れるのか?その運命は?というような内容らしい。

「治安が悪そうだねぇ~普段から用心棒をしてるってこと?」
「普段は闇カジノでバニーガールをしています」

ばかやろう!

「治安の悪化に影響しそうなことをしているわね」
「それで、バニーガールなんですねぇ~」
「そこは変えられないのかぁ…」
「一応、育ての父親が経営している闇カジノで恩義はある設定です」
「お父さん、何してんのよ…」
「依頼があったら、着物を羽織って、刀を持って、出陣って感じかぁ」
「それで、正体がバレないんですかぁ~?」
「まぁ、そこはお約束よね」
「ライバルはいるんでしょ?」
「いますよ、ストイック亀二郎です!」
「えぇっと、もう1回お願い」

ストイック亀二郎です!

「次男ですかぁ~?」
「当然、次男です!」

それはどうでもいいわ!

「まぁ、レッドちゃん、一応、ウサギとカメだよ」
「分かっていただけましたか!」
「同意しにくいわ…」
「どんな風貌のキャラなの?」
「今日は画がないので~、とりあえず、全裸の成人男性を思い浮かべて下さい」

ばかやろう!

「早く服を着せてあげて下さ~い」
「ほら、レッドちゃん、お姉ちゃんはちゃんとしてるよ」
「くっ、どうしてこんなことに」
「いいですか?そこにブーツを履かせて下さい」
「下から、行くのね…」
「頭にゴーグルをして」
「はい」
「股間に亀の甲羅を装着!」
「はい」
「以上でーす」
「……ん?」

ド変態じゃねーか!亀二郎!


「レッドちゃん、真っ赤だよ」
「もう嫌、泣けてくるわ」
「次男で良かったですねぇ~」
「全国の次男さんに謝りなさい!」

「亀二郎も正体は不明だよね?」
「そうですね、普段は闇カジノに客として来ています」

どうしようもねーなこの町!

「はぁ~、そういえば、侍バニーの普段の名前は何なの?」
「そこはシンプルにイトウですね」
「いいわね」
「レッドちゃんの活力が戻ってきたよ」
「亀二郎さんはそのままですかぁ~?」
「そこはまだ仮なんですが、暫定として、川田将雅(仮)で」
※川田将雅、2022年度JRA最多勝利騎手

おこられろ!

「リーディングジョッキーに何させてんだ!」
「いや、まぁ、仮名ですから」
「レッドちゃん、レッドちゃん!」
「どうしたのよ?」
「今まであやふやだったけど、完璧に出来上がったよ!」
「どういうこと?」
「ブーツはね、ジョッキーブーツだったんだよ、ゴーグルもジョッキーゴーグルだよ!股間の亀もあのプロテクターみたいなやつだよ!」

おこられろ!

「いや、キャラ名を考えるのは大変なんですよ」
「だからって…」
「漫画家さんにもそういう人がいるじゃないですか…」

甲斐谷忍先生と一緒にするな!

※甲斐谷忍先生、『ソムリエ』・『ONE OUTS』・『LIAR GAME』など。競馬ファンで知られ、作品には度々競馬関係者に由来する名前のキャラクターが登場する。

「他にもいそうだけど、とりあえずはいいわ」
「川田さんはどんなキャラ何ですかぁ~?」
「亀二郎がストイックなので、普段はナンパな感じですね」
「イトウは硬いキャラよね?」
「そうですね、そこにウザく絡む感じです」
「殴りたい」
「落ち着いて、レッドちゃん」
「ネイビー、ちょっと楽しそうね」
「亀二郎、意外と愛せるよ」

ライバルキャラに続いて、映画に出てくる依頼の概要が説明された。今回の依頼主はネオ川崎競馬場の内馬場に住んでいる妖精たち。その羽が何者かに狙われていて、誘拐された仲間も出ている。自分たちの力では限界があるため、護衛と仲間の救出に協力して欲しいとのこと。

「ファンタジー要素もあるのね」
「ネオ川崎ですから」
「ネオみなとみらい線もあるよね?」
「それは…ないです、交通機関はあまり機能していない設定で…」
「そっかー」
「露骨にやる気をなくさないの」
「羽が目的なのはセオリーですね~、妖精の羽と言えば、万病の薬だったり、使役できたり、そんな感じですかぁ~?」
「いえ、いい感じの覚醒剤が作れる設定です」

絶滅してしまえ!

「そこから離れられない理由があるやつ?」
「モツ煮、タンメン、カツ丸くん焼きないと生きていけないので…」
「妖精が、川崎競馬場ガチ勢過ぎる」
「せっかくだし、この妖精の羽で飛ぼうよ!」
「あぁ~、いいですね、空中バトルは映えますね」
「……」
「お姉ちゃん?どうしたの?」
「これって、亀二郎さんも飛ぶんですかぁ~?」
「まぁ、ライバルも飛ばないと駄目じゃない?」
「そうですよねぇ~う~ん…」

亀二郎さん、下からのアングルがやばくないですかぁ~?

「レッドちゃん、真っ赤だよ」
「うるさいわね」
「何を想像したのかなぁ?」
「うるさい、うるさい」

それは亀二郎さんのキンタマーニですよ~

※キンタマーニ、神の山(インドネシア語)

「お姉ちゃん、レッドちゃんが蒸発しちゃうよ」
「もう無理、掃除して、ワインを浴びたい」
「レッドさん、そういう方なのですか?」
「レッドちゃんは、掃除とアルコールで生きてるよ」
「いいキャラですね、映画に出ませんか?」
「絶対に嫌だわ!」
「しゅん…」
「でも、ほら、魔法少女とかならいいんじゃない?」
「それは…悪くないわね、使い魔とかいたりして?」
「あぁ、動物は結構面倒臭いんですよね…」
「そお…、しゅん」
「なら、私が使い魔をやりますよ~、光れますし、飛べますし、しゃべれますし、これはもうインテリジェントディバイス、完璧では~?」

ミノを連れた魔法少女がいてたまるか!

「残念ですぅ~、あぁ、でも、妹からの全否定はゾクゾクしますねぇ~」
「レッドちゃんが出るなら、キンタマーニに会えたのになぁ」
「会いたかったですね、キンタマーニ~」

あたしのライバル、キンタマーニって呼ぶの止めてもらえます!

「もう仕方ないわ、この流れは止められない」
「亀二郎は、本当にストイックに平和を守るキャラなんです!」
「格好に説得力が無さ過ぎて…」
「そのギャップがいいんです!」

もう、キンタマーニ亀二郎でいい思うよ

「ネイビー、なんてことを…」
「私もそう思いますよ~」
「姉さんまで…」
「レッドちゃんも分かっているはずだよ」
「それは…」
「キンタマーニなら」

亀も二郎も抜群の働きをしますからねぇ~

「ぐすん、ちょっとお腹切ってきます」
「ごめん、ホント、ごめんってば!」

一通り、侍バニーを慰めて、物語の核心部分を説明してもらった。妖精への嫌がらせはネオ川崎競馬場を潰して、そこに大型のカジノを建設する手段の1つだったことが発覚する。横浜の計画が頓挫しかけた結果、災害の混乱に乗じて、ネオ川崎が標的になったのだ。侍バニーはその計画を阻止できるのか?が物語の軸になっていくようだ。

「ショックドクトリンってやつね」
「え?」
「こういうのショックドクトリンって言うんですよぉ~」
「へぇ~?」
「大丈夫、私も分かってないよ」
「威張ることじゃないわ」
「それは分からないけど、育ての親が悪玉なのは分かるよ」
「まぁ、その流れよね」
「ベタですけど、シンプルでいいんじゃないですかぁ~」
「あれ?侍バニーさん?どうしたの?」
「ぐすん、斬新なやつと思ってたのに…」
「あぁ、もう2万回は見てるやつよ」
「ぐすん、ぐすん」
「あなた、よく泣くわね!」

「まぁ、でも、育ての親の出し方で新しくもなるわよ」
「そうだね、名前はまた例のやつ?」
「小林祥晃(仮)です」
※Dr.コパ氏の本名、馬主登録名
「もう慣れたわ」
「小林には実の娘が一人いて、その子とは仲がいいんです」
「小林って言うな」
「あぁ、その子と板挟みになるんだね」
「え?それもベタですか?」
「いや、そんなことはないわよ」
「そう…だよね、お姉ちゃん?」
「はい、そうです…ね~、あぁ、これがプロレスですね~」

それは言ったらダメ!

侍バニーはまた少し泣いた。

「その子は姉妹みたいな幼馴染ってわけね」
「名前は?」
「稲垣好(仮)です」
※ウマ娘、コパノリッキーの中の人
「何で小林と名字が違うのよ?」
「一応、芸能をやっている設定なので、芸名です」
「交通機関が死んでるネオ川崎で芸能?」
「う、ぐす」
「レッドちゃん、泣かさないで!」
「こまけぇことはいいんですよぉ~」

侍バニーは、小林、稲垣の板挟みになりながら、キンタ…ストイック亀二郎の助けもあって、何だかんだ最後は稲垣と結託して、小林を倒し、ネオ川崎の平和は守られる展開になるようだ。お悪の親玉だった小林にも、情状酌量の過去があって、何だかんだ隠居するだけで、悲惨な結末にはならないとのこと。最終的に計画を失敗させて、侍バニーは元の生活に戻る。町の復興のため、今日も出陣する。何だかんだの物語だ。

「元の生活って、闇カジノのバニーガールよね?それでいいの?」
「う~ん、この娘、ライバル企業を潰しただけだよ」
「アクションシーンで誤魔化せますかねぇ~」

キンタマーニしか残らないんじゃない?

キンタマーニが残れば十分だよ!

キンタマーニは全てを解決します~


「あれ?侍バニーさんは?」
「あ、向こうで、切腹の大勢に~!」
「待って!待って!まだ逆転の目はあるよ!」

三人で侍バニーの自害と止めつつ、ネイビーの逆転の目を聞くことになった。今、思うと、最初に刀を預かったミノ姉さんの行動はファインプレーだった。なお、ネイビーの提案はラブロマンスで何とかすれば?という安直なものだった。

「う~ん?」
「えぇ~、ダメかなぁ?」
「何と言うか、この流れ的に亀二郎は恋愛対象じゃないのよ?」
「そうです!彼とは熱いライバルです!」
「いや、そうじゃなくて…」
「これは肉親の流れですよねぇ~」
「そうそう、亀二郎は侍バニーの生き別れた兄さんだわ!」
「あぁ~、そうか~、そう言われると何か分かるよ」

あ、それ嫌です!絶対に嫌です!


「そんな大国並の拒否権を!」
「侍バニーさんが、考えたキャラですよ~」
「あれが肉親なんて、死ねます!嫌です!」
「そんなに…」
「う~ん」

「ええんか?言わへんで?」

「祐一さん、いいんですよ、あいつは兄貴がいることさえ知らないんだから、見守れれば十分です」

「はは、ほんまに、かっこええ兄さんやな」


「こんな感じで終われば良さそうよね?」
「斬ります」
「サムバさん、落ち着いて!」
「今、決めました!」
「落ち着いて!」
「ラストは兄をぶった斬って終わります!」
「落ち着いてぇ~」
「きる、キル、斬る、Kill」
「あ、それ、貰おう」

ネオ川崎の悪を、きる、キル、斬る、KILL!

「キャッチコピーはこれにしよう」
「それは結構好きです」
「それで、兄貴を斬って終わるとか斬新過ぎない?」
「え?斬新ですか?」
「斬新ですよぉ~」
「ぐす、やっと匠の領域に…」

全員がそれは違うと思ったが、嬉しそうなサムバさんに何にも言えなくなってしまった。まぁ、いいかと眺めていると、侍バニーの体が光に包まれていく。彼女もまたイトウの欠片になる時が来たのだ。あれで納得させていいのか?どう考えてもあれなB級映画だぞ!詐欺では?という思いが過ったが、そのための外伝なのでは?と、まさかの設定が生きてきたので、そのまま見送ることにした。光が和らぎ欠片が姿を現す。

「あぁ~、チョコだよ」
「かわいいわね」

ちょっと納得いかないんですけどぉ~

ミノ姉さんだけが、怒っていた。チョコは明滅しながら主人の寝室の方へ飛んで行った。この夏、主人は推しの水着衣装が3着追加されたので、夏コミ以降も修羅場的な忙しさが予想される。欠片を回収することが活力に繋がれば、せめて健康であって欲しいと願いなら見送る二人だった。

「あれ?帰ってきたよ」
「何かあったのかしら?」
「え~っと、イベント前なので、糖質は控えたいと、丁寧に断られました」
「そっかー」
「そうなるわよね」

咀嚼まではいった私の勝ちですね~

もう突っ込むのが面倒くさくなっていた。チョコサムバさん、またちょっと泣きそうだし、イトウの欠片、本当に集める意味があるのか?このまま続けても、変な住民が増えるだけでは?まだ午前なのに、この疲労感は何なのか…

「ネイビー、めっちゃ掃除していい?」
「いいよ、その間にお昼を作っておくよ」
「午後は、エア読み聞かせをするから、一人にして」
「うん、わかっ、うん?」
「私たちはどうしますかねぇ~?」
「あの、綾鷹にちゅぽんするやつ、やってみたいです」
「いいですよ~、教えますね~」
「ご飯の後だよー」
「はーい」

やわらかな日差しの午後、綺麗に掃除された洋館で、二人のメイドはまどろむような時間を過ごした。午前の喧騒が嘘のような穏やかさだ。微かに、ちゅぽん、ちゅぽん聞こえる気がしないでもないけれど…

おこられろ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?