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浜坂認定こども園問題の整理(2022年6月版)

2022年5月28日に町会議員有志4名で、「浜坂地域の認定こども園課題解決に向けて」と題して議員報告会を実施しました。

その際に私が作成した資料を説明込みで公開します。
報告会の伝え方とは異なりますので、あらかじめご了承ください。

概略・新温泉町の認定こども園問題とは

2022年3月26日の日本海新聞の地域版において、《予算5度目"否決" 町議会が減額修正 町長「方針変えぬ」》《あきれた対立いつまで》という見出しで報道されるほど、長引いている本町の問題です。
5度否決とあるとおり、2018年から2022年にかけて町当局の予算案が5度否決されています。課題となっているのは、築44年が経過した浜坂地域にある浜坂認定こども園の建設について。
現在地で新築か、それ以外かが論点となっていますが、その本質は子どもの安全と少子化へのアプローチです。

当日スライド (0)

時系列で見る各視点

これまでの一般質問で多くの議員が指摘しているように、多岐にわたる視点が必要な議論であり、総合的かつ合理的な判断が求められます。
一定の視点を保つために、本記事では時系列で課題を整理します。


災害に関するキーワード

まず、本問題で最大の課題となっているのは「防災」つまり安全面についての考え方ですので、災害について時系列で見ます。

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そもそも、こども園の改築は「築年数の経過」と「国の津波予想」の2点により2016年から議論が開始されたものと考えられます。
なので、築年数が35年以上経っていることを念頭に置きながら全ての議論を進める必要があります。

そして「国の津波予想」ですが、2018年に県が現在地を浸水想定区域外としたことで収まりました。津波被害の懸念は払拭されましたが、2016年当初から「洪水」により周辺が冠水しこども園が孤立してしまうことも不安視されていましたので、洪水の懸念はまだ外せません。

2020年、県が発表した洪水想定区域図により、現在地周辺が浸水想定区域内であることが取り上げられ、災害に関するキーワードは完全に洪水に切り替わります。浸水深想定については、後述します。

洪水想定区域図には、計画規模と想定最大規模の2種類があります。
資料:兵庫県「計画規模降雨による洪水浸水想定区域図」

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緑色の○が現在地です。赤い矢印は県の資料に描かれているものです。

左の計画規模のとおり、現在地は周辺含め薄橙色の0.5〜3.0mの浸水深があります。右の想定最大規模では、周辺が濃いピンクの5.0〜10.0mの浸水深となっています。現在の敷地は周辺より1.3m高いので周辺の色だけが濃くなっていることがわかります。

私は計画規模に対応できれば大丈夫だと考えています。そのうえで、浜坂地域のほとんどのエリアは計画規模上の浸水想定区域外なので、安全な場所を選ぶ余地は十分にあると思います。


各種調査の時期

次に各種調査の時期とその詳細を考察します。
各種調査の結果は、町長答弁や現在地賛成派議員の意見として頻繁に用いられるため、その妥当性の判断が必要だと私は考えます。

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まず2017年の「耐力度調査」。
この調査は「建物の構造耐力」「経年による耐力・機能の低下」「立地条件による影響」の3点を各100点で掛け合わせ、合計10,000点中 5,000点を下回ると「危険建物」に認定されます。そして、危険建物の改築には国庫補助金が出ます。
つまり、危険建物とは制度上の呼称であり、即座に危険な建物であることを示しません。また、危険そうだから調査したわけではなく、改築の費用を浮かせるために調査したものだと考えられます。
※「即座に危険ではない」ことは、2022年6月議会の澤田議員の一般質問でその旨の教育長答弁がありました。

次に「第2期整備検討委員会の答申」と「保護者アンケート」、「署名3,000名」です。
これらは全て、津波の懸念が払拭され、災害に関する不安要素が見えづらくなった期間のものであり、2019年までは有効な資料となると思いますが、2020年の洪水想定区域図発表後はあまり参考にならないものだと考えた方が良いです。

もし、似たような資料を参考にしたいのであれば、改めて「検討委員会」「保護者アンケート」「署名活動」があるべきです。

議会の予算案否決

現在地で進めようとする町当局の予算案が議会によって否決され続けることが「あきれた対立」だと新聞報道にありました。さらに、「議会の存在意義が問われる」と記事の最後を締めています。果たして本当に「あきれた対立」なのでしょうか。

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表のように、2018年から2022年まで予算案に対して減額修正等により現在地で進めることを止めてきました。
町当局による予算案は、現在地の調査、土地鑑定でほぼ一貫しており、「現在地推進」の姿勢を変えていません。同時に、5度の否決は全て5:10あるいは6:9の票数です。

議会の決定は、議員の多数決で決まります。つまり、住民代表による意志であります。
7:8のような接戦ではなく、5:10で否決されるような提案を4度も5度も繰り返すことは果たして妥当と言えるでしょうか。
2度提案し2度否決されることはまだ理解できます。しかし、5度は異常です。
特に1〜4度目は100万円程度の予算なのに対して、2022年の5度目は1億6千万円を提案しており、異常性を際立たせているように思われます。

反対議員の意見としては、防災上の観点がまず第一にあります。
利権や意地悪ではありません。適切な判断による否決は議会の存在意義そのものです。《あきれた対立》は議会に向けられる言葉ではなく、町長に向けられるべき言葉です。


建替計画案と海抜・浸水深想定の関係

2022年5月27日、町当局から建替計画に係る高さイメージを共有する資料が提出されました。
これまでの説明では、第2期検討委の答申をベースにふわふわと数字が浮いておりましたが、この資料により数字が統一されたことになります。

当日スライド (4)

北側拡張部分を4m嵩上げするなどの話が出ましたが、実際には2.72m嵩上げとなるようです。
書き込みの字が小さいので補足を加えて見やすく加工した資料が下図です。

当日スライド (5)

左が現況、右が計画です。
まず6本の横線の説明を。
下から海抜0m、これは海抜を示す線で、左右ともに同様に示されています。
下から2本目が周辺の田んぼの高さ(海抜1.8m)、
そのすぐ上の3本目が周辺町道の高さ(海抜2.1m)、
4本目が現在のこども園のグランドの高さ(海抜3.1m)。これは田んぼの高さに1.3mの嵩上げをしてこの高さになっています(海抜1.8m+1.3m嵩上げ=海抜3.1m)
5本目が計画案のグランドの高さ(海抜4.52m)。田んぼの高さに2.72m嵩上げ、あるいは現在のグランドの高さに1.42m嵩上げと言えます。なお、海抜4.52mは計画浸水想定水位ですので、それに合わせた数字となります。
最後、一番上にあたる6本目は、最大浸水想定水位の海抜7.43mです。
ちなみに岸田川左岸(堤防)は海抜約5.8〜6.7mです。

イメージを整理します。
町道から見て、2.42mの高さにグランドがあり、そこに一部2階建てのこども園ができる計画です。現在地北側の拡張部分は田んぼに2.72mの嵩上げ。現在のグランドを全て嵩上げするかは未定ですが、嵩上げするなら現在から1.42m嵩上げとなります。


大庭こども園と統廃合

時系列の表にはありませんが、大庭認定こども園は1974年(S49)に建設されており、浜坂より4年古い築48年です。
また、2019年(H31)には耐震診断を行っています。なお、耐震診断と耐力度調査は全く別の調査なので比較対象とはなりません。

出生数の減少から、大庭認定こども園を残し続けることは困難です。それは多くの大庭地域の住民の声としても挙がっています。
数年は残せたとしても、何十年も保つことは不可能です。公共施設の建設は70年100年使う計画の時代になっているので、それだけのスパンで統廃合を考えなくてはいけません。

こども園だけでなく、小学校の統廃合も考える必要があります。
小学校は複式学級がすでにあり、緊急を要するのはむしろ小学校の方です。
町内浜坂地域の小学校は比較的新しく、一番古い浜坂南小学校でも築34年です。
小学校統廃合によって生まれた空き施設にこども園を移管する案もよく住民から提案されます。

財政的に潤沢ではない新温泉町。ましてや公共施設を削減する方向性を打ち出しているので、空き施設の活用についても議論に加えるべきだと考えられます。


最後に

以下の5つの視点で私は考えています。(順不同)

1.防災
目標耐用年数を70年とする公共施設において、計画規模の災害が見込まれるエリアへ子育て施設を建設するのは防災上の説明ができません。

2.統合・人口減少
今後、大庭・浜坂(・明星)の統合は避けられないのに、住民に対して説明不足であります。
統合のことを考えれば、全児童がバス通園となるべきですので、バス通園に対応した設計や立地も求められます。

3.ユニバーサルデザイン
2.72mの嵩上げにより車いす利用者、ベビーカー利用者、高齢者等への配慮が難しく、ユニバーサルと言えません。

4.保護者が働きやすい環境
警報時の対応が改善されず働きやすい環境づくりとなりません。

5.財政
現在地にこだわるとそれだけで数億円は余計に費用がかさみます。
総事業費10億円と謳っておりますが、嵩上げや一部2階建て、資材費高騰の背景からまず不可能と見られています。


よく言われる反論に対してのコメントも残しておきます。

「保護者が現在地を望んでいる」
保護者アンケートや3,000名の署名は実施時期的に参考にすべきでありません。また、同アンケートにおいても現在地を望まない利用者が4割いることに留意しなければいけません。

「危険だから早く建て替えないといけない」
危険建物という言葉が不安を煽っていますが、そのような危険性を示す言葉ではありません。2017年の耐力度調査の結果から使われている言葉ですが、使われ方が適切でないので、住民の不安感を払拭する必要があります。

「0歳児保育や新しいこども園を待ち望む保護者が多い」
それは私も同意です。
だからこそ、完成(最低3年間程度)までの0歳児保育等の対策を予算に組み込むなどすればよいのですが、これまでの予算案では建設に関わる予算しか計上されていません。新しい園舎は楽しみですが、防災の観点をないがしろにしてよい理由にはなりません。また、新しい園建設によって財政が悪化するようであれば、それは将来の子どもたちにとっての負担となることも覚悟しなければいけません。

「議会は町長の足を引っ張りたいのか」
議員も前に進めたい一心です。
しかし、議会の制度上、議会や議員には提案・執行する権利が与えられていないため、町当局から出される提案の賛否を決定するしかないのです。

「こども園がなくなってしまったら地域が寂しくなる」
まちづくりは様々な要素で成り立っています。町内はこども園の無い地域ばかりですので、現在地も現在地に合った楽しいまちづくりができるはずです。そのご協力はさせていただきます。



長文になりましたが、お読みいただきありがとうございました。
約5,000字の文章でしたら、省いた要素も多数あります。疑問点が残るようであれば、各SNSまたはメール(okasakaryota@gmail.com)へご連絡ください。


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