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【活字で食べるごはん】バルバッコアというゴール

旅立ちの日は、台風だった。
荒れ狂う空を見上げても尚、心は踊っていた。1週間の東京旅行、家族で東京へ行くのは実に4年ぶり。はしゃぐ子ども達と、にやつく夫。

今回はまず、ホテルが圧倒的に良く、この世の全てのファミリーにおすすめしたい立地、設備、コストパフォーマンスだった。おかげで、晩ごはんは「何か買って帰って家で食べようよ!」と言う子ども達との戦いだった。ホテルを家と呼ぶほどの居心地の良さ。おいしいもの…食べ行こうよ…という私の叫びは届かない。

さらに、劇団四季・謎解きカフェ・ロボット展・VR・原宿&渋谷・宇宙センター・ダイアログインザダーク・youtuberのイベント…と子ども達の好きなこと・やってみたいことを詰めに詰めて、スケジュールは割とギュンギュンだった。

結果、私の旅における最優先事項「食べたいものを好きに食べる」は果たせず、時には駅で柔いお蕎麦を食べたり、ショッピングモールのおいしくない回転寿司を食べたりした。しょうがないのだけど、残念な気持ちが少しずつ積み重なる。

そんな妥協の限界を迎えた最終日、私はバルバッコアでランチを予約していた。

バルバッコア!
まず響きが良い。まるで解放の呪文。バルバッコアは、ブラジルのシュラスコレストランで、高温でこんがりと焼いた肉を鉄の棒に刺した状態でサーブしてくれる。複数店舗があるが東京と大阪にしか存在せず、田舎者の私は時々ホームページを眺めるのみだった。

11時の開店に、10分前に到着。張り切りすぎている。チラチラと店員さんと目が合ってしまうが、うふふと微笑む。楽しみなんだもの。

「いらっしゃいませ、ご案内いたします」に小さく「わーーーい」と答えながら着いていく。

目の前に、美しいサラダバー。瑞々しい野菜には、パクチーやビーツ、パルミット(ヤシの新芽)まで並ぶ。モッツアレラ、削りとる大きなチーズ、生サラミ…フェジョアーダ(煮込み料理)…

絶景だった。
席に着くと、まだ店内には私たちしか居なくって、あの美しいサラダバーを一番乗りできるという事実に胸が高鳴る。

テーブルの上に小さな丸い札があり、片面が緑、片面が赤になっている。緑はGo・赤はSTOPで、シュラスコが食べたいときには緑にしておけばどんどん持ってきてくれる仕組み。

まずは白い大皿にそれぞれ好きなもの盛り付けて、野菜欲を存分に満たす。小学生男子の皿にポテトフライが見えるが、今日は見ない。ゴーイングマイ皿。桃とモッツァレラのサラダ、山盛りパクチー、青唐辛子とチリコンカン。この皿はどこまでも私のために、私を満たす。

「チキンと、ソーセージでございます」
良い匂いに顔を上げると、テーブルの傍で店員さんが微笑んでいる。鉄の串に刺さったチキンとソーセージは、見るからにジューシーでこんがり良く焼けている。一枚ずつナイフで削ぎ落とし、それをトングで受け取る。

シュラスコは食べ放題になっていて、イチボやカイノミ、サーロイン、鶏のハツ、豚ロースなどのお肉から、焼きチーズ、焼きパイナップルまで10種類以上ある。

辛いソースや、モーリョのような酸っぱいソース、ホースラディッシュもあって食べ飽きない。あいにく、胃が小さいので少しずつ切ってもらって大切に口に運ぶ。カリカリに焼けた肉の側面の、なんとおいしいことか。「肉は赤身…」と夫がうっとりと呟く。

気がつくと、周囲は満席になっている。肉の往来が盛んで、高校生男子の胃袋が欲しいと願う。授乳中の胃袋でもいい。くやしい。

息子は焼きパイナップルを気に入り、何度もおかわりした。授業参観でも見たことが無いくらい、手をピンピンに挙げていた。確かに、じゅわっと溶けていく温かなパイナップルが楽しくておいしい。パイナップルとサーロインなど組み合わせて食べてもとんでもなくおいしかった。びっくりドンキーのもっとおいしいやつだね、と庶民の私たちは同じことを思って頷き合う。

娘は大好きなポンデケージョが小さな籠に入って提供されたとき、椅子から腰を浮かせて歓喜した。夫も息子も要らないと言ったので、4つのうち3つを娘が食べた。温かくもちもちのポンデケージョを頬張り、娘と目を合わせる。首をすくめて喜んでいる様子がかわいい。良かったね。

デザートには小さなケーキやプリンにまぎれて、ブラジルの古典的なスイーツが並ぶ。ココナッツたっぷりのババロアとか、生キャラメルみたいなペースト状のものとか。食べたことの無いカタカナ大好き人間として、食べざるを得ないが、すべてがとんでもなく甘い!

甘く痺れる舌に、再びシュラスコをお願いして肉の脂でじんわり癒す。薄く切ったイチボにホースラディッシュ。おいしい、くるしい、おいしい。満腹を超えた腹をさすってランチはおしまい。

ああ、おいしかった。台風で始まり、バルバッコアで終わる。東京旅行のフィナーレとして、最高のゴールだった。今これを書きながら、心の中でもう一度食べた。

#活字で食べるごはん #バルバッコア #シュラスコ

今回は写真が無いので、実物はこちらからどうぞ。






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