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KING CRIMSONの3ドラムは、なぜギターの前にいるのか

11月29日、キング・クリムゾンの3年ぶりの来日公演に行ってきました。
中学時代にハマって、74年の「RED」までのLPは全て持っていますが、当時はライブに行くようなお金もなく、結局、その後40年以上、ライブには一度も行ったことがありませんでした。今行かないと、聴けないかも知れないと思い、ついに行ってきました!

異例のステージ配置

ステージ上には、なんとドラムが3台。しかも前列に並んでおり、後ろの山台にサックス、ベース、キーボード、ヴォーカル&ギター、ギターという配列。これは、3年前のツアーも同じだったようですが、なぜドラムスが前に?

ベースのトニー・レビンが、モントリオール公演の時のインタビューで、この配置だと、ドラムスの3人が何をやっているかが良く見えて、面白いんだと語っていましたが、そもそもどうしてこういう並びにしたのでしょうか。
リーダーのロバート・フリップが語っている記事は見つからなかったので、私の勝手な想像ですが、ライブでもレコーディングと同じように、楽器の干渉の少ない、理想的な音を聴かせるためではないかという気がします。

そもそも、コンサートのPAというのは、楽器毎に音が漏れにくいブースに入れてセパレートできるレコーディングと違って、他の楽器の音が別の楽器のところにあるマイクに入ってしまうため、理想的な音響を客席に聴かせることが難しく、そこをいかに妥協しながら、いい音を出すかがエンジニアの腕になります。最近、モニタースピーカーではなく、ミュージシャンがステージでイヤフォンをしているのも、モニタースピーカーで他の楽器の音を出すと、その音がマイクに入ってしまい、干渉を起こすからです。また、イヤフォンの方が、全体のミックスされた音を綺麗に聞けるというのもあります。

恐らく、前列にドラムを並べた理由は2つあって、
①ドラムの音が、サックスのマイクに入って干渉を起こすのを避けるため
②ギターやキーボード奏者が、ドラムの音を後ろから浴びるより、冷静に聴けて、バランスのいい演奏ができるから
ということではないでしょうか。
サックスの周りに、アクリルの壁を立てているのも、ドラムの音の干渉をさけるためです(ギターやベース、キーボードはマイクではなくラインで音を出しているため、この問題はありません)。

クラシックの室内楽に近い音楽

彼らの演奏は、通常のロックのコンサートにあるような、聴衆を煽るようなことは一切なく、全員がイヤフォンかヘッドフォンをして、ひたすら淡々と、密度の恐ろしく濃い演奏を繰り広げます。熱さはあるのですが、過度な動きやアンサンブルからの逸脱はなく、全員がお互いの音をしっかり聴きながら、目指すべき理想のアンサンブルを具現化しているというような感じです。この演奏には、この配置がベストなんだと、とても腑に落ちました。

この感覚は、これまで聴いたいずれのロックコンサートとも違って、むしろクラシックの弦楽四重奏に近い味わいです。電気楽器とドラムスを使ったクラシック。作曲家でいえば、ショスタコーヴィチの室内楽を聴いているような感じです。
以前、モルゴーアクァルテットというクラシックの弦楽四重奏団で、EL&P、キングクリムゾン、ピンクフロイド、ジェネシス、イエスなどの、プログレッシブロックの曲をカバーするアルバムを作ったことがありますが、その時、圧倒的にキングクリムゾンの曲がしっくり来る気がしたのは、元々彼らの音楽が、そのような要素を持っていたからなんだということを、改めて感じました。

こういうと、まるで盛り上がらない、つまらないコンサートを想像してしまうかも知れませんが、全くそんなことはなく、終演後は観客全員がスタンディングオベーションになるような、熱いコンサートでした。

キング・クリムゾンにしかできない音楽、コンサートだと思います。

ロバート・フリップももう72歳。12月の残りの公演も、前売りはほとんどがソールドアウトのようですが、当日券も少し出るようですので、是非、この唯一無二の音楽体験を味わってみることをお薦めします。


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