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版権を引き上げるとは。その1

ボヤ~とした記憶なんだけど、2010年位から出版社を通じて私の漫画の電子配信が始まった。

本当に、電子書籍に関する要望とか記憶が無い。私にとって紙の単行本がすべてで、それが売れなきゃ続刊が出ないし、過去作品は絶版になってしまう。つい最近まで電子単行本の売り上げは紙単行本に比べて出版社でも重要視されていなかったし、今の流通の流れでは「多分これだけ売れるだろう」の予測のもとに刷られて即買い取ってくれる問屋さんや書店さんの速やかな支払いが出版社を支えていたわけで、電子は売れてもお金が入ってくるのに相当時間がかかることなんかもあり、多分リアル書店さんとの長年の絆を優先していたんだろうし、電子単行本は出版社における江戸時代の武家の次男坊のような扱いだったような気がする。

「そんなことありませんよ、うちは電子に注目してずいぶん経ちます!」という出版社もあるのだろうが、紙単行本の部数が底値をたたき出してしまうと、電子でええ感じに売れていても仕事の依頼も来ませんし。とにかくそういう中途半端な時代で、ちなみに私の電子はある時期までやっぱり全く売れなかったので、お小遣い程度の3か月おきの明細書を見ても、

「ふうん」くらいの感想しかなかった。ゼロよりは助かる。

電子なんかどうでもいい、紙、紙が売れてくれないと仕事の依頼が来ない、連載ができない。電子なんか、焼け石に水なの!!

どうでもいいんだよ。


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私が少女誌で最後に描いた少女漫画は「炭に白蓮」という筑豊の炭坑王・伊藤傳右衛門と燁子夫婦の物語だった。燁子は柳原伯爵家のお姫様で、伯母は大正天皇の生母である。不幸な成り行きの出戻りの数え年27歳で、無学でたたき上げの炭鉱夫から成りあがった大富豪(ハーレクインみたいだけど違う)傳右衛門は「超弩級のドブスでも構わん、結婚できりゃあええんじゃい!!」と勢いよく燁子を名誉と引き換えに「買った」ということになる。

史実にも「白蓮事件」という出来事が残っている。

彼を主役に描くことが決まり、もう回数制限も今までで最短の4回しかないし、これが最後の連載になるかもといつものように覚悟し心に懐剣を忍ばせて、舞台が筑豊なので福岡に住む私はいそいそ電車を乗り継いで飯塚や田川に向かった。炭鉱はもうすべて閉鎖して、繁栄は遠い日の思い出で、バスも一日数本しかないのでバス停からしばらく歩いてタクシーがどうにか捕まるような感じだった。多くの知識人、土地の方々、学芸員さんたちに取材でご縁を貰い、助けて貰った。炭鉱に興味がわき、懸命に勉強して質問したり通いつめたりする漫画家が来て、皆さん嬉しかったのだろう。本当によくしてもらった。50前の私を若い女の子みたいに可愛がってくださった。

それで連載が始まり、傳右衛門は激渋、可愛い52歳!!燁子姫との愛も育つし明治大帝の御賜餐にも行くし、戦争は起こるし、女中のリツは可愛いし、イケメン補充で入れた丹下もカッコいーし、泣けるし、泣きながら描いてるし、調べるの楽しいし、アシさん頑張るし、妥協しないし、未熟は未熟でも頑張るし!!うーん、いつものことだけど、

我ながら無茶苦茶おもしれえ~。ほんと、世間はアホだぜ、なんで売れないのかねえ。

そう、これも売れませんでした。なので部数は2巻から半分以下にバッサリ切られてしまいました。

「自分のことを表で売れないとか言わないで。胸を張って堂々としていてください」と編集さんに言われてたけれど、もう今なら書いても良かろう。

バッサリ部数を最低ライン以下に落とされてしまったので、早々に打ち切られるだろうな・・・と思ったらその通りで、3巻でまとめることになりました。初めは4回で完結のところを、多分内容に面白さを感じていた編集長が単行本会議で頑張ってくれて、3巻まで延びたわけです。「最終巻まで出します、でも部数はどんと下げます、それでいいよな?」って感じだったんだろうなと推察‥‥。

今までもずっとそうだった。誰かが頑張って支えてくれて、作品を完結まで何とか無事に着地させてくれた。

でも、これだけの部数では1部の大型書店さん以外のお店で新刊コーナーに平積みにしてもらうこともままならないし、探したところで見つからないし、宣伝しようにも売れて無さ過ぎて人員割けないし、母体の雑誌の部数も出版不況でよそと同じくどんどん落ちていく感じだったので、

この、紙の帝国では

私を売りたくたって売れない・・・

きっと、私の見てないとこで編集さんたちは物凄く頑張っている…。

でも、私にはそれにこたえる力が無いんだ。売れてる人は売れているのに、

きっとオーラが無いんだ。なのにやる気だけはあるなんて滑稽だわ。

長年泊まり込んで作業してくれたアシさんたちも全員いなくなり、更年期はすごい勢いで襲ってきていたし。

デジタル化して遠方のアシさん一人とコツコツ仕事を続けていたけど

ここにはもうきっと誰も来ない。

連載が終わっても、出版社からの連絡は来ないし、本当に何にも来ないし、

猫のオカンに夜の暗闇の中で「寂しいなあ。売れないくせに厚かましいけど、やっぱり寂しいなあ。もう私、終わっちゃったのかねえ」そうぼそっと言うと涙がぼたぼた落ちていった。

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2につづく。






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