西陣織の絹織物でマスクを作って販売するまで

こんにちは。

京都西陣で西陣織金襴を織っている〈西陣岡本〉です。

今回は弊社がなぜマスクを作るに至ったのかという事を書きたいと思います。

西陣織の絹織物でマスクを作る

〈西陣岡本〉の金襴地

弊社は西陣織金襴という業界で長い間、神社仏閣の荘厳布、装束、袈裟などの絹織物を織っています。それらは豪華絢爛・渋さを併せ持ち・特別な時の為のTPOに合わせた布地です。

こちらは京都知新で放送していただいた弊社が織った絹織物で仕立てた打敷や戸帳などのお寺の装飾布です。

画像1

画像2

これら、弊社の既存の製品は問屋を通しての納品になるため、弊社では表立ってインターネットに掲載することはできません。

販路拡大をめざす

弊社の社員の一人が、「こんなに美しい布を織れるのに、一般の方々に販売できないなんてとてももったいない。美しい布地を欲しい人は沢山いらっしゃるはずだ」と思い、販路開拓を始めました。

沢山の方々に西陣織金襴の良さを知っていただきたい。その思いでした。

マスクを作るまで

2019年11月末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。最初は中国で収まるかと思っていましたが、あっという間に世界中でパンデミックに。2020年1月16日には日本での感染者も確認されましたが、まだまだ危機感は薄かったように思います。

弊社は1月22日から新宿伊勢丹でポップアップショップを開催していました。

中国の春節の時期です。新宿にはまだ沢山の中国人旅行客の方々がいらっしゃいました。その頃にマスクの必要性が大きく言われるようになりましたが、伊勢丹新宿店での販売時に店員がマスクをつけるのはマナー違反という雰囲気でした。マスク装着の方々も少なかったと思います。「岡本さんの所で綺麗なマスクを作ったらどうですか?」とは言われていましたが「ドラッグストアで格安で売っているマスクなのに、弊社の西陣織のマスクなんて需要あらへんわ~」とお伝えしていました。

「ん?」と思ったのは、帰りの新幹線で乾燥防止にマスクを買って帰ろうと思ったら新宿のドラッグストアのマスクのほとんどが売り切れだった時です。

その後も日々のニュースで「これは大変・・・」と思っていました。3月4日から銀座三越でポップアップストアのため、開催か、中止かが大きな関心事でしたが、銀座三越でのポップアップストアはなんとか開催できました。

この時は、弊社、5階、6階、7階でのポップアップで、あっちへ行き、こっちへ行き、ばたばたしていました。ご来店いただいた方、ありがとうございました。

ワイドショーではコロナの話ばかりのようで、そんな話を来店なさったお客様たちからお聞きしました。渡航制限で仕事が消えてるという話もぼちぼち聞きました。マスク、消毒用アルコール、トイレットペーパーが店頭から消えました。銀座三越は営業時間を短縮してなんとか開催。その時は店員さん、バイヤーさん等には非常にお世話になりました。みんなわけが解らなくて不安でいっぱいだったと思います。その時にも「岡本さん、絹のド派手なマスク作ってくださいよ~」という話になり「うちのは派手すぎますやろ~」とお伝えしていました。

銀座三越からの帰りの新幹線の中で「アマエビ」が話題になっているなと思っていたら「アマビエ様」がSNSで話題になっていました。弊社にもコロナショックが到来、あとは織るだけだった布地がキャンセルになったり、コロナはこんな所にも及ぶのか・・・と。何かにすがりたくなる気持ちもようわかります。そんな中、弊社でもアマビエ様を織りました。ひたすら織りたかったのです。

西陣織 妖怪アマビエ様 水色バージョン 家内安全、無病息災、疫病退散

マスク試作

その後も「マスクを作ったらどうでしょう?」と言って頂き、ふ、と手縫いで作ってみました。

初めての試みで、ゴムも家にあった太めのゴムを使っています。この時はまだ販売するつもりは全くありませんでした。ただ、金襴屋で「世界一の西陣織ハードユーザー」を自負している身としてマスクも金襴でいこうかなと思っただけでした。

この時は本当にマスク不足で、花粉症の方がマスクが手に入らないと嘆いている状態。オンラインサイトでは転売のマスクが高価格で売られていて、世紀末のよう。

外出、外食もはばかれるようになり、おうち時間が大事になってきた時。4月になります。

4月1日のニュースで「布マスク2枚、全戸に配布へ 安倍首相が表明」を拝見。

画像3

裏地は日本人らしく和服に使われる「晒さらし」を採用、ゴムも品薄でしたが、問屋で確保。仕立ても既存のラインのまま、無理をせずにと決定。

今では石川県の国産ゴムひもを用い、素材の中でシリコンアジャスターだけが外国産です。

株式会社二口製紐 さんのゴムです。

初めての事なのでツイッターでのフォロー&RTでのプレゼントを企画でお客様の反応をみてみました。

マスク販売

20-15ポーチ

マスクの販売は弊社オンラインストアにて開始しました。

嬉しいことに新聞ニュース番組にも取り上げていただきました。

画像5

4月5日から販売を始めて早くも5か月ほど。

まさか、高級西陣織金襴製造会社である弊社がマスクを作ることになろうとは半年前には思ってもいませんでした。

人生、いや、社生ってどうなるのかわかりませんね。

今まで西陣織に興味がなかっただろう方々へもお届けすることができて非常に嬉しいです。

初期はスマートレターで送っていましたがGWも休まず毎日発送していたにも関わらず、GW明けに届いてないとの連絡を頂き、どうしたらよいかとツイッターでつぶやいたところ、クリックポストが便利だと教えていただきました。SNS素晴らしいです。

支持してくださるお客様のおかげです。ありがとうございます。リピーターさんも沢山おられて、一番多い方で40枚ほどご購入いただいております。感謝です。リピート購入は本当にうれしいです。

「背伸びをせずに、しかし、お客様には真摯に向き合いたい」と考えているので、弊社は常に迅速な発送を理想とし、午前午後と一日2,3回の発送をしております。受注生産以外はお待たせすることはほぼありません。これは「自分たちで出来る範囲で無理をせずにマスクを生産していく」という大事なことだと思っています。

なお、商社の方々から、弊社のマスクを販売させてほしいとご連絡を沢山いただいております。が、書きました通り採算ぎりぎりの価格ですので御社の販売手数料を支払うことができません。大変申し訳ございませんが、ただいま、世界のラグジュアリー層に向けてマスクを開発中です。そちらがローンチしましたらご連絡を差し上げます。

今後もどうぞよろしくお願い申し上げます。

〈西陣岡本〉オンラインストアは https://okamotoorimono.shop/ です。

SNSへの発信について

マスクを販売するにあたって、販路はオンラインストアのみと決めたため、弊社のような営業専門の社員がいない中小企業にとって頼みの綱はSNSでした。お知らせなどもすべてSNSを活用させて頂いています。とても大事なツールです。しかし、SNSは悪い面を報道される事が多いため、弊社のような古い体質の会社では理解してもらえません。しかし、そのような古い体質で職人自ら営業にも出られないような会社にとってこそ、SNSはとても良い営業ツールになると実感しています。

今、西陣のみならず、沢山の職人さんが仕事が減って大変だという話をお聞きしています。弊社ではそのことに対して何も出来ません。しかし、自分たちの仕事を沢山の方々に見ていただき、その感想を聞けるだけで職人は発奮できるものです。「もう少し頑張ろう!何か新しいことをしよう」と思える気力が生まれます。少しでもそういう場を提供できたらと思い、SNSの一つ、ツイッターでハッシュタグを作りました。 #うちの仕事場を見てって です。

弊社でも販路開拓の初期には「ええもんを作っていたら見てくれる人は見てくれて売れていくもんやからわざわざSNSなんてややこしい所に載せることはない」と言われました。

しかし、ええもんを作っても誰にも見せずに部屋の中に置いておいても誰も気が付いてくれません。やはり、恥ずかしいでしょうが、自分以外の方たちにご覧いただきたい製品は見ていただけるようにしないといけません。沢山の方々にご覧いただいているうちに、ご覧いただく方法、こちらの発信の仕方がなんとなく変化し、作るものも変化します。人と交流が増えることによりそこに渦が巻いて混ざりあい、より良い品物へと変化します。職人は私もそうですが、中々自社の外へと出る機会がありません。時間もありません。社内にしないといけない事が山ほどあります。小さな会社であればあるほど、色々なことを自分一人で解決していかないといけません。その手助けをSNSが少しだけ、してくれます。職人よ、社外に出るのが大変なのだったらSNSの世界で外とつながろうじゃないですか。自宅、自社で可能です。

私もこちらのハッシュタグ、 #うちの仕事場を見てってを拝見して 、「へ~こんな仕事があるんだ」と感じています。いろんな投稿を見て購入したものもあります。

面白いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?