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MOD朝市とは

 ムサシオープンデパート(MOD)朝市はどういう事業なのかをあらためて綴っておきましょう。

 朝市はいわゆる「マルシェ」形態の「イベント」です。マルシェというのはフランス語の市場のことで、日本語で「市場(いちば)」のことです。日本語には「市場」「朝市」「夜市」など豊かな日常語があるのだからそう呼んでいます。

日常をつくりなおす

 さきほど「イベント」といちおう呼びましたが、朝市が目指しているのは「イベントではなく日常」です。この国に必要なのは豊かな日常生活の作り直しであって、イベントを増やすことではもはやないでしょう。いつ行ってもやってる、いつ行ってもおいしいものがある。いつ行っても仲間に出会える。そういう場所が作る。

 どうもこの国はこれまで「ハレ」の場を作りすぎてきたようだからです。わたしには、いまやわりと年中行事みたいになったハロウィンを15年くらい前から雑貨店を経営しながら観察してきた経験があります。とにかくお祭りの連続状態に人々をほうり込んで、たくさんカネを使わせる。そういう活動がこの国ではあちこちでおこなわれて「ハレ」の日を増やして盛り上げるいっぽうで、「ケ」の場がつまらなくなりスッカラカンになってしまった。

 加古川からも純喫茶や居酒屋、寿司屋、立ち飲み酒屋、床屋、銭湯、そういったすべて人々のコミュニケーションの場が消えました。わたしの祖父は加古川の街中にあった農協に勤めており、帰り道には立ち飲み酒屋で毎日のように飲んでいたのですが、いま祖父がいたらどこで酒を飲むのか想像もつきません。

 街場の生活の楽しみは消え去り、その場所が果たしていた役割のうち「モノとカネの交換」だけが取り出されて郊外のショッピングセンターやスーパーマーケットがその役割をになっています。買い物だけは便利にすませることができるようになりましたが、それ以外のいろんな役割はまったく失われてしまった。いまや無人レジ。

 なんなら、そうやって地元の人が払ったカネすら、東京や外国の資本に一方通行で持って行かれています。そうして経済的にも交流空間としても空洞化した地元のコミュニティに、新型コロナウイルスがとどめを刺した感があります。

 こういう風潮に一矢報いるべく、「カネに頼らずに幸福を作る」のが朝市です。

朝市はいつはじまったか

 朝市は5年前の2017年の夏にはじまりました。最初は週末にまったく使われていないムサシの駐車場で、数店舗の出店者をあつめてテスト営業をおこなうところからのスタートでした。

 野菜を買い集め、近隣の知り合いから出店者を募って日曜日にやってみました。これを毎週ずっと続け、いまは年間で平均して毎週1000人が集まる毎週の市場に成長してきています。

  なんといっても最大の特徴は、そこらのマルシェイベントとはちがって、最初から毎週開催していることです。市民の交流の場がひと月に1回では物足りない。(雨の日はお休みです)

 出店者・来場者とも常連が大幅に増え、安定した土曜日の日常風景になっています。当初2年くらいは出店者も来場者数も安定せず、運営しているわれわれもあらゆることが手探りでしんどい営業が続きました。

 それでも経費をできるだけ切り詰め、できることを続けていたら、いつしか来場者数が1000人を超えるようになっていたというのが実際のところです。「やったほうがよさそうなことはすべてやる」という姿勢でした。株式会社ムサシが全社的にやってきた5S活動を屋外に持ち出し、思いつくことを次々にやっていきました。

なにを売っているのか

 始めた当初は、地元の一次産品を地元でそのまま買える場所を作ろうとしていましたが、現在は飲食店と雑貨がもっとも多く、農作物などの一次産品は少ないのが加古川の朝市の特徴になっています。

 ピザ、カレー、うどん、ステーキ丼、焼き鳥、ハンバーガーなどかなりいろんな食事が楽しめるようになりました。デザートのたぐいも充実しているし、ベーグルやワッフルなど持ち帰りやすい飲食物もある。雑貨はほんとうにさまざまで、アクセサリーや服飾、子どものオモチャなど。参加して楽しめる手芸や工作のワークショップもある。

 一次産業との連携は今後の工夫が必要になりそうです。もともと数十年かけて開発されてきた産業都市で人口が多く、あまり小規模農業が盛んではないからかもしれません。

場所はどこでやっているのか

 朝市を開催しているのは公園や河川敷です。なにもない場所に忽然と見た目にも美しい市場を作るのを得意としています。

 みんなが見落としているけれど演出を加えればすばらしい会場になる可能性を秘めた場所というのがじつは世のなかにはたくさんあります。そういう場所を見つけて運営者と交渉をし、できるだけ低価格で営業させてもらう。

 営利企業である株式会社ムサシの事業ですが、もともと公益目的で開催しているのでかぎりなくNPOに近い事業になっています。最初は儲けを出そうとしていましたが、最近はカネを稼がず、直接的に来場者の幸福を創出する装置と位置づけて営業しています。

 カネを稼いでそれを使って人々を幸せにするほうが手間が増える。直接的に人々を幸福にするほうが得意であることも分かってきたからなんですね。

事業の規模と今後

 近年は年間平均すると1回100万円の売り上げを上げられるようになりました。冬はストーブをたいたり厚着をしたりして暖を取ることができますしお客さんの来場も増えますが、夏はどうしても暑さを避けることができないので来場者は減ります。

 今年からは夏の営業を朝ではなく夜に移行する実験をしてみました。夕方からはじめて夜2100時あたりまでの営業です。こうしたほうがお客さんも喜んでくれていますので来年からは夏は「夜市」形式が定番になると思います。

 1回100万円の売り上げですから、年間50週営業すると(雨で開催できない日もありますので)、会場全体4000万円くらいの事業に成長してきました。

 注意してほしいのはこの100万円というのは株式会社ムサシの売り上げではなく、会場全体の売り上げであるということです。これを「経済効果」と呼んでいます。会場全体でどれくらいお金が動いたかというモノサシですね。

 このうち株式会社ムサシの利益になるのは10%で400万円くらい。テントやベンチなどの初期投資や人手やがかなりかかりますから利益はなくなります。

 ごらんのとおりの自転車操業。毎週天気予報をにらみながらテントを出したり片付けたりしているわけで、営利事業としてはかなりめんどくさい。金銭的には株式会社ムサシの本業にバックアップされている部分も大きいわけです。それでも続けてきて、手応えを作れた理由を研究しながら、当初から予定していた全国展開をはじめたところです。

年に数回の大型イベント

 朝市を毎週かならず開催するいっぽう、年に数回はもともと得意としてきた大型のイベント(こちらは「イベント」です)を開催しています。

 これまでも大型イベントは兵庫県内のあちこちで開催してきたのですが、今年からSAVE KAKOGAWA FES(SKF)と名前をあらためました。加古川という河川のあたらしい活用方法を提案することがまず第一の目的ですが、加古川にすむ人のローカル生活を助ける(SAVE)場を立ちあげなおすという含意もこめました。

 第1回は2022年8月に開催し、テントの回廊とライトアップしました。アウトドア系のワークショップや水面を使ったカヌーレンタルなども実施し、河川敷公園にこれまでになかった演出を加えることができたのではないかと自負しています。

 次回は11月26・27日(土日)に日岡山公園で開催します。


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