本当にそれでいいの?
20代の頃、寝装具の商品企画をしていたことがある。
テキスタイルデザイナーになりたいなどと夢をみて、
バイトしながら夜間の学校に通った。
若さと無知を武器にデザイナー職に応募したところ、なぜか採用。我が強く、個性のかたまりのようなデザイナーさん達にない凡庸さに好感をもたれたのかもしれない。
私の最大の欠陥は、デザイナーにもかかわらず、貫きたいデザインコンセプトがなかったことだ。上司や営業の意見に流され、いつも右往左往。
当然ながら、よい商品はできなかった。
これではダメだとわかっているのに、どうすることもできなかった。まさに「我が強く、個性のかたまり」のような先輩に、阿修羅の面相でダメ出しをくらい続けた。
「本当にそれでいいの?」
「はい」
「本っ当ーーーーにそれでいいのね」
「……はい」
本当は、いいのか悪いのかもよくわからなくなっていた。
こんな感じで会社の命運をになう製品をうんでよいのだろうか。
頭に十円ハゲができ、勤務中のトイレでよく嘔吐した。
それでも踏んばって一人前になるぞ、という覚悟が当時の私にはなく、2年ほど勤めた後に退職を決めた。
◇
昔のことを思い出したのは、昨日クライアントからメールが届いたからだ。
あれから25年が経った。
フリーランスとして、インテリアに関わるライティングやプレゼンなどのお仕事をしている。ご縁があり、あるインテリアメーカーで「商品企画のお手伝い」をさせてもらえることになった。
お話が舞いこんだとき、
「とても無理です」
ではなく、
「ぜひ、やらせてください」
と思えたのだから、人生は不思議だ。
商品やカタログをつくっていると、さまざまな横やりが入る。立場が異なる方の意向や大人の事情、予算、スケジュール変更、などなど。
考える、ひたすら考える。
よいものを作るために。
プロジェクトの最後を笑顔で迎えるために。
Aがダメなら、Bはできないだろうか。
それは本当に最良の方法だろうか。
「本当にそれでいいの?」
と、いつも自分に問いかけている。
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