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応急処置の失敗

エンジニアが好むマーフィーの法則のバリエーションに「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」(If it can happen, it will happen.)がある。残念ながら畑村洋太郎氏の『失敗学のすすめ』には採録されていないが、私は概ねこれを事実だと認定している。

畑村氏の『失敗学のすすめ』は独特すぎて良い本だが、西村行功氏の『システム・シンキング入門』はきちんとスタンダードで良い本だ。後者では「起こる可能性」について、もう少し具体的にこんな風に記述している。

問題が発生すると、応急処置策が取られます。応急処置が功を奏した結果、問題は沈静化するように見えます。しかし、その応急処置にともなって、意図しなかった結果が生まれることがあります。

『システム・シンキング入門』という本の主張は、上記の記述をフィードバックを持つ因果ループ図で描く点にある。うろ覚えだが、確かこんな図だったと思う。

Bは"Balancing Loop"で"収束する性質のフィードバック"、Rは”Reinforcing Loop"で"強化する性質のフィードバック"を意味する。この図は、まさしく、「問題が起これば応急処置によっていったんは収束するが、応急処置によって発生した少し遅れて起きる意図しない結果が新たな火だねとなり問題を発生させてしまう」ことを示している。会社という組織でもよく起きていることだ。

このシステム図は、問題の構造の因果をわかりやすく示す。そこが私は気に入っている。因果関係の結果を(+)と(-)で示すところもわかりやすいし、また、ループの性質を自己強化的(Reinforce)なもの"R"と、平衡状態(Balance)に向かう"B"との組み合わせとするところもわかりやすい。この図でいうと「問題の発生(+)が応急処置を生み(+)、その結果、問題が抑制される(-)が、少したって発生した意図しなかった結果(+)により、新たな問題が発生(+)する」ということになる。

この応急処置の図の事例は簡単な例だ。身近な問題で実際に描いてみようとすると、それなりに工夫が必要だったり、複雑になりすぎたりする。実際に起こる多くのことはそんなに単純ではなく、要因も複雑に絡みあっているからだ。

しかし、それは当たり前のことじゃないか。世界はそんなにシンプルじゃない。だからこそ、その複雑さの中から、シンプルな構造を抽象化して抜き出すことができるかどうかが大切なのだ。そして、可能であれば、その問題の関係者みんなで議論しながら、よりシンプルで本質的な図を作っていくことにこそ、システム図の本当の価値はある。

図示することで知識が共有化し、普遍化する。それは失敗学の基本でもあり、畑村さんが言っている通りだと私も思う。

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