チャッターアイランド vol.11

『チャッターアイランド』はDJ/プロデューサーのokadadaとDJ/ライターのshakkeがしゃべったことを記録する、という趣旨のテキスト/音声コンテンツです。毎月1回、月末の配信を予定してます。

レコード音楽部の話

shakke 最近、ライターのばるぼらさんがオカダさんの大学のサークル……
okadada レコード音楽部っていう某大学、ぼくらは隠語で上海大学って言ってますけど。
shakke フフフ。上海大学ってどういうコンテクストのギャグなの?
okadada これ言ったらあんまり意味ないんやけど、関西大学ってとこにいたんで、ぼかすときにみんな上海大学って言ってたっていう。そういうノリがなんかあったんすよ
shakke まぁ、上海大学のレコード音楽部。レコ音?
okadada レコ音ってぼくらはずっと言ってましたね。
shakke その話をばるぼらさんがnoteでしていて。なので、オカダさん側からアンサーというかを。でも、たしかにオカダさんと会ったくらいからレコ音の話は聞いてたよね?
okadada まぁ、ぼくのいくつかある大きなルーツのうちのひとつですからね。あそこにいなかったらぼくはこの商売は絶対してないと思うし、こんな人間にはなってないと思うんで。よくも悪くもね。
shakke すごいね、興味があるんですよ。
okadada でも、なにから話すんですか?
shakke まずオカダさんが大学に入ってサークルを選ぼうってときになぜレコ音を選んだかって話から聞きたいかな。
okadada あぁ、まず田舎から大阪に出るっていうのがあったんすよね、そもそも。
shakke 上京的なね。
okadada そう。で、うちの大学は軽音楽部がいっぱいあったんすよ。大学自体がけっこう大きくて、関西では1、2を争うぐらいのマンモス大学だったんで。全学部の生徒と職員集めたら2万人ぐらいいるって話を聞いたことがあるんやけど。だから軽音楽部だけでも1部、2部、3部とサークルが別にあるって感じで。
shakke 1部、2部、3部?
okadada 1部軽音、2部軽音……3部はなかったか。でもサークルじゃない部活がふたつに分かれてて。どっちもめっちゃ部員がいて、さらに細分化されたサークルがいっぱいあるって感じ。
shakke ヘヴィーメタル同好会とかみたいな。
okadada そうそうそう。で、いろいろ入学前に、音楽系のなにかに入りたいと思って調べてて。ぼくはDJやってたんで、文化部のところを見てたらレコード音楽部っていうのが書いてあって。レコードも買ってたし、家でDJやってたから、どんなもんかいなと思って見学に行って。結局そこがなじんだって感じですかね。リスナー気質だったっていうのもあって入ったっていうのはまずありますよね。
shakke 別でDJ研究会みたいのなかったんだ?
okadada あったかもしれないけど、おおっぴらにやってなかったっすね。たぶん個々人、友達どうしで集まってやってたとこはありました。
shakke なるほどね。
okadada 学校に集まって、とかじゃなくて、サークルって銘打って友達の家に集まるとか。同級生でいたんすよ、ヒップホップDJ集団というか。そっちはそっちで顔出してたんですけどね、たまに。5人ぐらいでやってて。そこはレコ音とは関係なく。レコ音はサークルじゃなくて部活なんすよ。だから部室がちゃんとあって。歴史も実は長いんですよね。ぼく、3年のときは部長やったんすけど、自分のときでたぶん52代目の部長とかだったんじゃないかな。1950年代からある部活で。で、音楽を週2回集まって聴く、っていうのが自分らのときの活動。それしかしてないっすね、基本的に。入学式の次の日にガイダンスっていうのがあって、サークルとか部活は机を外に出して、新入生を勧誘するっていうのよく見るじゃないすか。
shakke はいはい。
okadada そのときにいろんなとこ見てたんですよね、1年生のとき。軽音楽部もいくつか見たんですよ、楽器やってみたいなと思って。で、ぼくが当時聴いてたのがRy Cooderとかだったんですよ。
shakke 渋いですねぇ。
okadada 高校卒業するときに高校の先生がレコードくれたんですよ、1000枚くらい。それとか、そのころくらいから家にあった親父のレコードをちゃんと聴くようになったんすよね。最新のヒップホップとかじゃなくてもカッコいいものがあるってことが、そのときにわかって。でも、大学の軽音とかでRy Cooderとか言ってもあんまり知らないじゃないすか。あとは……ライブ盤が有名なソウルシンガーいるっしょ?
shakke Donny Hathaway?
okadada そうそう。それも名盤やってラジオで聞いて、レコードを再発で買って“めっちゃいいやん!”ってよく聴いてたんだけど、そういうのにも(軽音では)反応なくって。そんで、レコード音楽部のガイダンスに行ったんすけど。外ですごい下向いたひょろっとした集団が5人ぐらいいて。
shakke ハハハハハ。
okadada 見るだに陰気な、異様な風体のヤツらがいたんですよね。ま、それが先輩方なんすけど。で、ガイダンス用紙みたいなのを書くんすよ。名前と学部書いて、どんな音楽が好きか、最近聴いたアルバムみたいなのも書いたかな。そのあたりってめっちゃヒップホップ流行ってたじゃないすか。自分は2005年入学なんすけど。だし、レコード音楽部って書いてるから“DJの練習できるんですか?”みたいな感じのライトなヒップホップ好きみたいなのがめっちゃ来てたみたいで。
shakke DJにしか興味ない、みたいな。
okadada そうそうそう。それに先輩方が辟易してて。で、オレはそんとき適当な赤いジャージ着てて、坊主頭で。
shakke ハハハ。いい言い方すればストイックな……。
okadada 特になにか主張があったわけじゃないんですけどね。で、先輩がオレが書いたガイダンス用紙を見るわけじゃないっすか。好きなジャンルのとこに“ヒップホップ”って書いたんですけど、そこで空気がめっちゃピシッってなったのがわかったんすよ。“また来た……”みたいな。風体がでかいし、坊主ってのもあったかもしれないっすね。でも、最近聴いてるアルバムでRy Cooderの『Paradise & Lunch』とかDonny Hathaway『LIVE』って書いたら“あぁ、そういうの好きなんや”って……
shakke 空気が軟化したんだ。
okadada そう、空気が軟化して。
shakke ハハハ! でも、そもそも勧誘でピリついた空気にしちゃダメでしょ!
okadada そうなんすよ。でもそういうとこだったんですよ。まずこれがレコ音との出会いです。それで有志が週に2回、火曜と木曜集まって音楽を紹介して、それを聴くと。で、それをノートにバーッと書いていくと。それをずっと何十年もやってるっていう。
shakke ノートにはその日どんな曲がかけられたのかっていうのが書かれてるんだ?
okadada そう。で、かけるときにその曲についての説明……これはしなくてもいいんですけど、“これはこういう作品で……”みたいなのもするっていう。
shakke アルバムをまるまる1枚聴く?
okadada いや、もう1曲単位。だいたいみんな2〜3曲かな。それでだいたい2時間ぐらい。週2回やってましたね。その感じがなんかいいなと思って、そのままずっと入り浸ったって感じっすね。
shakke オカダさんが入部したときは何人くらい部員がいたん?
okadada 全部でだいたい14〜15人ぐらい。活動は有志で平均4~5人参加して。1学年につき3人か4人。で、レコ音は異常な留年率を誇ってたんで。
shakke ハハハハ!
okadada ぼくも半年しましたし、ずっと居て最終放校になったG-YAさんっていう長老みたいなひともいましたね。ロックDJでThe Smiths狂いの。G-YAさんは奈良のひとなんですけど、6〜7年前に奈良のロックのパーティーにDJで呼んでもらって。で、すごい酔っぱらいで120枚ぐらい入ったレコードボックス持ってきてたのに、出番前にめちゃくちゃ酔っぱらって、出番ではThe SmithsのアルバムのA面かけて裏返してB面かけるっていう。
shakke ハハハハハ!
okadada かわいらしいひとやなと思いましたけど。そういう先輩方に揉まれまして。
shakke なるほどなぁ。
okadada やっぱレコ音の話はどっからしていいかわからないっすよ。エピソードがたくさんありすぎて。
shakke でも、それこそ前も軽く話に出たけど、装丁家でデザイナーの森さんも……
okadada もそうですね。今はブックデザインをメインでやってる森敬太さんもレコ音の先輩で。知ってるひとは知ってるかもしれないけど『ジオラマ』とか『ユースカ』って自主雑誌の主催。その縁で自分も文章とか日記を書かせてもらったりしましたけど。ぼくの“オカダダ”ってロゴも森さんにデザインしてもらったんですよね。森さんはぼくが1年生のときに4年生で。そのままぼくが卒業するまで森さんいたんすけどね。
shakke ハハハハハ。
okadada お察しの通りの。途中で卒業はしましたけどね。森さんがいちばん良く会ってたかな。薫陶も受けましたね。森さんはモッズで、The Scarlettesってモッズバンドもやってて。いまもバンドは存続してるんですけど、森さんはいないっすね。昔のマンガとか、昔の映画とかいわゆるサブカルのベタはだいたい森さんに教えてもらいました。部屋の三方が本棚に囲まれてるみたいな、そういうひとだったので。モロに影響を受けましたね。

ファイヤッ!

shakke あとなんだっけなぁ。オレ、オカダさんとはじめて会った日にさぁ……
okadada それ、思い出してたんすよ。宮倉さんの話でしょ?
shakke 宮倉さんだっけ?
okadada ウッドストックの話でしょ?
shakke そう!
okadada でも、これシャケちゃんしか笑ってないんじゃないかな?
shakke マジ?
okadada シャケちゃんと初対面くらいで、終電逃してそのまま朝までしゃべってたときにこの話をしたんすけど、朝方シャケちゃんイスから転げ落ちて笑ってましたよね。
shakke 渋谷のフレッシュネスバーガーでね。
okadada ハハハ。そうそう。でもあかんあかん、ハードル上げすぎ。まぁ話すと、レコ音の列伝というか、いろんな先輩がいたんすよ。で、森さんと同学年に宮倉さんっていうひとがいて。宮倉さんっていうのはなにが変かって言うと、まずひとつ伝聞としてあんのが、大学入って音楽めっちゃ聴きたいってなって、どうも自分が好きなのは……いまはこういう言い方あんまりしないけど……黒人音楽、ブラックミュージックやと思って、ブルースから聴き始めたっていう。
shakke フフフ……。律儀ですねぇ。
okadada 歴史の最初よ。そこから順番に聴いてって、オレが入学したときにはJ Dillaとかまで進んでましたけど。
shakke 時代に追いついていったね。
okadada そういうひとがいたんですよ。あ、でもこれ、いかにもすべらない話みたいな感じになってるけど、そんなことじゃないっすからね?
shakke そうだね。単純にオレが好きな話っていうだけだから。
okadada で、部活内の音楽スノッブのジョークみたいなので、先輩らがよく言ってたのがあって。“Stevie Wonderは「Fire」の一発屋”っていうジョークで。昔ね、ファイアっていう缶コーヒーのCMでStevie WonderがCMソング(“To Feel The Fire”)を歌ってて、“I Need The Fire, Fire, Fire〜”っていうのがテレビでよく流れてたんすね。もういま若いひとは知らんと思いますけど。で、Stevie Wonderなんていう音楽史に残る天才の十指に入るようなひとですけど、それで彼のレコードとかCD見たら“あ、「Fire」の一発屋や”みたいな大学生ジョークがあったんすよ。で、そのCMの別バージョンでStevie Wonderがコンガをポンポンポンって叩いて“ファイアッ!”っていうのもあって、その言い方がすごい好きで、ことあるごとに言ってたんですよ、“ファイアッ!”って。もう大学生のノリですよ。で、宮倉さんもそのネタが好きで。あるときみんなで酒飲んでたんすよ。
shakke うんうん。
okadada で、みんなでウッドストックの映画(『ウッドストック〜愛と平和と音楽の3日間』)観てて。夜中の3時ぐらいで、宮倉さんはもうソファで座った状態でうとうと寝てて。オレらは気にせず観てたんですけど、そしたらSly & The Family Stoneが出てくるシーンになって、有名な“I Want To Take You Higher”って曲があるじゃないっすか。それがはじまって。でサビに入っていって“ハ〜イヤ〜!”ってところで、宮倉さんの目がパッと目覚めて“ファイヤッ!”って!
shakke ハハハハハハハハハハ!
okadada ハハハハハハハハハハ! 反応して“ファイヤッ!”って。で“なんだ、ハイヤーか……”って言ってまた寝るっていう。
shakke フフフ……。どこに反射してんだよっていう。
okadada この話、おもろいか? 10分くらいしてるけど……。
shakke いやぁ、この話好きなんですよねぇ、やっぱ。なんか全部が絶妙にいいんだよなぁ。もう泣いてますもん、すでに。
okadada なんでシャケちゃんこの話好きなん?

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