チャッターアイランド vol.4
『チャッターアイランド』はDJ/プロデューサーのokadadaとDJ/ライターのshakkeがしゃべったことを記録する、という趣旨のテキスト/音声コンテンツです。毎月1回、月末の配信を予定してます。今回は浦安のシェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルでの録音した模様をテキストと音声にて公開します。
彼氏ヅラしないでね
shakke さっき話してて思いだしたのは、いちばんはじめに家族と映画を観に行った記憶は『マルサの女』なんよな。6歳とかくらい。
okadada 自分はアニメ映画以外やったら『メン・イン・ブラック』ですね。
shakke それは家族で行ったの?
okadada そう。映画館にアニメ映画とかじゃなくて行ったっていうのがめっちゃ大人っぽくて覚えてるんですよ。しかも字幕で観たっていう。小学4年か5年くらいかな。それまではジブリ映画とか『ドラゴンボール』とかを観に行ってた感じ。あとは平成版『ガメラ』とか。そんで、洋画で最初に映画館で観たのが『メン・イン・ブラック』やったっていう。
shakke それは大人の階段昇った感じするねぇ。
okadada だからすごい覚えてるんすよね。
shakke どうだったんですか、岡田少年的には。
okadada めっちゃ好きでしたよ。何度も言いますけど、その後、中学1年とかで観に行った『アルマゲドン』で泣いてますからね。ブルース・ウィリスが最後行くところで、“Don’t Wanna Close My Eyes~”(エアロスミス「I Don’tWant to a Miss a Thing”)のとこで。根本的にはそういうくだらない人間なんですよ。いまだったらどうかわからんけど、少なくとも当時は“いい映画観たなぁ”と。
shakke いまだに絶対泣ける自信あるもんね。もう涙もろくて……。
okadada あなたは『君の名は』観て、泣きながら“おもんない!”って言う人間ですからね。
shakke 公衆の面前で涙を流し、そのあと“いや、全然おもしろくないわぁ”って言うというね。あっ、そう! こないだ日向坂46っていうアイドルグループのドキュメンタリー映画(『3年目のデビュー』)を時間があったから観てきたんですよ。
okadada よう観るなぁ。
shakke もうね、はじまって15分くらいかな。もう号泣。もうボロボロ。そこから映画終わるまでだいたい泣いてた。
okadada えっ、ちょっとわかんないんですけど、なんでそんな泣くんすか
……。
shakke がんばってる!
okadada ハハハハハ! 日向坂ちゃんたちが?
shakke うん、がんばってる……。
okadada いや、これ批判じゃないっすけど、単純にどうなんですか、それは。
shakke もうズルズルなんだね、涙腺が。
okadada わからん……。すごいな、マジで。
shakke で、映画も終わって、ひとしきり泣いて、“でもドキュメンタリー映画としては100点中10点だな”って。
okadada ハハハハハ! あいかわらずの風俗説教おじさんタイプ。
shakke ハハハ! いやぁ、やってんなぁ、我ながら。
okadada 抜いといて説教するという。いいじゃないの、抜けたんやから。射精したんやからええやないの。
shakke でも“抜けたから100点!”とは言いづらいよ。ぼくにだってプライドはありますよ。
okadada フフフ。ぼくにだってプライドはある……。怖い……。
shakke いや、そりゃそうよ。泣くのは生理的なもんだったりするからさ。
okadada すげえなぁ。自分はあんまりそういうのないんで。
shakke 岡田さんは涙腺と本能みたいなもんが直結してるってことなんですかね?
okadada どうなんすかね? まぁひとそれぞれなんでしょうね。自分はマンガとかでありますけどね。
shakke それは名作みたいな作品じゃなくても?
okadada うん、なんかグッとくるみたいなことはあるっすね。涙ボロボロとかじゃなくっても、なんか目が潤んでるなみたいな。そういうのはありますよ。
shakke それが類型的な表現だとしても? たとえば、よくある“いっけえええ
!”みたいなのでもグッとくるんかな?
okadada それは“いっけえええ!”の形次第かな。
okadada シャケちゃんはそういう雰囲気の絵やったらもう(涙腺に)きちゃうってことですか?
shakke そうそう、きちゃうね。
okadada だったらもういいじゃないっすか、GIF動画とかで。
shakke そうよ。
okadada 映画のシーンを抜粋した3分ぐらいだけの動画でも……
shakke たぶんいけるね。
okadada 初見で?
shakke いや、初見はないかな。
okadada それだったらわかりますね。前も話しましたけど、感動した映画の話をしてるときにその感覚になる、みたいな。
shakke そうそう。その感覚ですよ。でも、自分としても生理的な部分で泣いちゃってたりもするから、ちゃんと“だからって100点じゃないよ”っていうのは言っとかなきゃいけない。“抱かれたからって別に彼女じゃないから”みたいな。
okadada “彼氏ヅラしないでね”っていう。
“しか勝たん”カルチャー
shakke もうライトな言葉なんでしょうね、“○○しか勝たん”は。
okadada いつのまにかバズワードになってますねぇ。
shakke 自分も言ってくよ。ギョーザ食べたいときは“ギョーザしか勝たん”、あとは“ウーロンハイしか勝たん”とか。でもそれくらいの感じで使ってるよね、TikTok見てると。
okadada あぁ、なるほどね。やっぱりTikTokなんや。
shakke みんなが使ってるからTikTokにも流れてくるって感じだろうけどね。
okadada おもしろいっすよね。ちょっと前は、そういうときって“優勝”とかって言ってたわけじゃないっすか。
shakke そうね。“優勝”とほぼ同義ですね。
okadada そう思うとやっぱ勝ち負けなんやなぁ。“優勝”も自分はあんまり言ってこなかったんですよ。“今日のパーティー、優勝です”とかも言ってこなかったんで。
shakke わかる、わかる。自分も“優勝”はちょっと気を使って言わなかった。
okadada ほかのひとが言っててもなにも思わないっすけどね。やっぱり勝ち負けなんやなって思いますね。
shakke 前にも岡田さんとも話したよね。勝ち負けゲームみたいな使われ方の言葉って多いよねって話をしてて。“しか勝たん”もそのパターンよな。
okadada やっぱ勝ち負けなんやなぁ。
shakke やっぱ勝ちたいんでしょう、みんな。勝ちたいし、勝たせてあげたいんじゃない?
okadada “推ししか勝たん”っていうのと、“やっぱりだれしもが尊いよね”みたいなのが同時に発生されるじゃないですか。“え、これどうしてんの?”みたいな。推ししか勝ってない状態と、だれしもが輝くべきっていうのが同時に発生するのって、それはわからなくないけど。これ、“おまえらおかしいぞ”って言ってるんじゃなくて、自分自身もそれに悩んでるし、どうしたらいいんやろうねっていう。自己矛盾を怖がらないっていうか。
shakke 矛盾した言説を言っているっていうことにも気づいてないかもだしね。“しか勝たん”なんてさ、響きのよさでしかないでしょう。
okadada 語感がいいから使ってるだけで。
shakke そうそう。とはいえですけどね。
okadada アンチ活動してきますか。
shakke “しか勝たん”アンチ活動? “しか勝たんとか言ってるヤツは勝たん!”みたいな?
okadada “おまえの負けや!”
shakke ハハハハハ!
shakke “しか勝たん”カルチャーなぁ。やっぱ最上位であるってことは、勝ちとイコールってことになっちゃうんだね。
okadada そう考えたら啓蒙的な言葉ですよね。結果的には勝ち負けなんやぞっていうね。なにかを褒めるということは、なにかを褒めないってことなんやぞっていうことを啓蒙してくれてるという。趣深い言葉なのかもしれない……“しか勝たん”は。絶対そんなことないけど。
shakke みんなしか勝たん。世界全員しか勝たん!
okadada 欺瞞やなぁ! ほんまに欺瞞や、それ! でもそれに近いこと言ってるもんなぁ、正直言うと。
shakke でも“みんなしか勝たん”なんて言葉、絶対流行る気しないじゃん。そんなフワッとした言葉ではやっぱりインパクト薄いんだよな。
okadada また似たような話してますけどね。すべてのものは尊いが、比較しなければなにかを褒められないというのは、一生どんな人間もここから離れることはできひんっていう。だから仏教ではいっそのこと物事にはすべて意味がないって方向に向かったほうがいいと言ってるんですよね。またおんなじ話や……。
音声はこちらか以下をクリック