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佐々木朗希の「出現」を振り返る

出現――あらわれでること。隠れていたものや見えなかったものなどが、姿をあらわすこと。
(出典:デジタル大辞泉)

 今季の佐々木朗希の「出現」を予想できていた人はどれほどいるのだろうか。もちろん期待感を持って待ち望んでいた人は多いだろう。しかし、戦力として立場を確立するに至ると予測できていた人は少なかったと思わざるを得ない。

 2020年は一二軍を含めた全公式戦で登板せず。一軍に帯同し、試合前練習でのキャッチボールが目撃されるものの、終ぞマウンドに上がることはなかった。最後の投球らしい投球といえば、5月27日ZOZOマリンでのシート打撃だった。160km/hを記録していた。
 登板なく終わったルーキーイヤーには、本人にも周囲にも悔しさが残ったはずだ。

佐々木朗希の球友願う「全部ひっくり返すくらい」
[2021年3月14日7時8分] ― 日刊スポーツ

 前代未聞のルーキーイヤーを経た佐々木朗希は今年、プロ2年目となるシーズンに挑み、最終成績は以下の通りとなった。

 11先発 3勝2敗 防御率 2.27
 投球回 63.1 奪三振率 9.66 K/BB 4.25

 この2021年シーズンを「出現」と称し、ターニングポイントとなった3登板で振り返りたいと思う。

6月10日 ヤクルト戦 初QS、初被本塁打

 5月27日に甲子園で初勝利を飾った佐々木朗希は、続く交流戦で2021年セ・リーグ優勝チームとなったヤクルトスワローズと対戦した。結果は6回1失点で、4安打2四球5奪三振。プロ初のQSを記録し、初めて試合を作る投球をしたといえる。

 この登板を第一のターニングポイントとして選んだ理由は、1アウト毎投球数の推移にある。

pitches/1out

 上記グラフは1軍公式戦全登板の1アウト毎投球数(=試合投球数/奪ったアウト数,失策等は考慮せず)で、これが6月10日の登板で記録した5.17を境に6.00を上回ることがなかった。以降は登板を重ねるごとに無駄な球が減り、少ない球数で効率よくアウトを奪えるようになった。さらに後半戦では、長いイニングを全うするまでに進化した。

 一方で、この試合では初被本塁打も経験した。2回の先頭打者、村上宗隆による一発。左打者へ内角要求の直球が甘くシュート変化し、絶好球となった。同月24日の登板でも柳田悠岐(ソフトバンク)に同様の球を本塁打されている。
 両者ともに左打者。今シーズンの被打率は対右に分が悪い(※)にも関わらず、被弾は5本中4本が左打者によるものであり、これは来季への課題といえるだろう。
 ※ 対左 .203 / 対右 .233

 (これはあくまでも個人的な意見だが、シュート成分を減らすことだけが改善策ではないと思っている。ライズ成分が個性なら、シュート成分もまた個性だ)

【プロ最長】佐々木朗希『6回4安打1失点』
【愕然…】佐々木朗希『燕の主砲にプロ初被弾』
佐々木朗希『燕の主砲にやり返す』
―― パーソル パ・リーグTV公式

8月3日 中日戦 エキシビションマッチ

 映像には残らなかった。観客も入らなかった。野球ファンには必須のスポナビアプリでも、一球速報はなし。非公式戦とはいえ近ごろには珍しい、ほとんど存在を確認できない幻の試合だった。5回1安打1失点(自責0)、4回までは完全。余談だが、この日に好投したのが実に幻の剛腕らしくて、個人的には大好きだ。

 試合の詳細は、日刊スポーツ ロッテ担当の金子真仁氏による速報ツイートで確認出来る。

 引用したツイートにもある通り、この日の登板で最も注目度の高かったトピックは、プロ入り後公式戦では最速となる158キロを2度記録したことだ。しかし、ピックアップした理由はここにはない。

 第二のターニングポイントとしてこの試合を選んだのは、高い直球平均とイニングとの両立に成功していたためだ。
 佐々木朗希の直球平均は、前半戦と後半戦でそれぞれ以下のような傾向を見せている。

 前半戦は全登板で151キロ前後、後半戦は全登板で154キロ前後の直球平均を記録。後半戦で先発投手として球界トップといっていいスピードを実現できた背景には、この中日戦を含めたエキシビションマッチの2登板がある。

 7月27日、甲子園での阪神戦は3回を投げて直球平均が154.6キロ。この登板では短いイニングながらも進化の片鱗を見せていた(SMBCシートで観戦していたが、この日のストレートはこの時点までの今季全登板で最も威力があると感じた)。
 しかし、佐々木朗希は先発投手だ。責任投球回を全うした上で高い直球平均をマークすることが理想になってくる。それを実現したのが、エキシビションマッチで2回目の登板となった中日戦だ。先述の通り責任投球回の5回をなげ、直球平均は154.9キロ。155キロに肉薄している。
 ◎ 先発登板で直球平均155キロ以上の参考には章末で引用したツイートをどうぞ

 後半戦の佐々木朗希は6登板で防御率1.22を記録した。偶然などではない。この躍進の予兆は、無観客のバンテリンドームに確かに存在していた。

ロッテ佐々木朗希「初」の158キロ 新球も解禁し後半戦へ進化進める
[2021年8月3日22時16分] ― 日刊スポーツ

9月10日 楽天戦 VS田中将大

 時を戻そう。8年前のまさに今日、2013年11月3日。楽天対巨人の日本シリーズ第7戦まで。
 同年の公式戦で伝説の24勝0敗を記録した田中将大が、3点リード9回表のマウンドに上がった。前日の第6戦では9回完投負けを喫したエースが、リベンジと日本一を懸けて登板。この日楽天イーグルスが掴んだ栄光が地元宮城へ、東北へと与えた希望は計り知れない。
 当時小学生だった佐々木朗希も、この試合を観戦していたそうだ。遡ること20年前、2001年11月3日に誕生した彼にとって特別忘れられないものになっただろう。
 目標とする選手には、今も田中将大を挙げている。

 8年が経った。少年はプロ野球選手になり、憧れの存在は海の向こうから戻ってきた。対戦の機会が訪れる。9月10日の楽天戦、佐々木朗希の投球は見る者を魅了した。第三のターニングポイントだ。
 プロ入り最長となる8回を99球で投げ切り、2安打無四球9奪三振2失点。こうして数字を並べるだけでは形容しきれない快投だった。今季のベストピッチと言っていい。
 特に7,8回の5者連続三振は凄まじく、失点した5,6回からの立て直しには、彼の底の知れなさを大いに感じた。また、この試合以前の最長イニングは6回だったにもかかわらず、いきなり8回まで投げぬいたことにも驚いた。勝ち投手にこそなれなかったが、投げ負けなかった。内容では圧倒さえしていた。

 先述の2試合は数値によって注目点を挙げたが、この試合に限ってはそういうものとは無縁で語りたい。憧れとの対戦で覚醒的成長を遂げるなんてもう、漫画だ。間違いなくターニングポイントである。
 実際にこの試合を経てからシーズン終了までの3登板で佐々木朗希は防御率0.47を記録し、支配的な投球を続けた。

【朗希覚醒】佐々木朗希『圧巻の5者連続K』
佐々木朗希 ZOZOマリン初勝利はおあずけも…『自己最長8回2失点 “想像を遥かに超える進化”見せた』《THE FEATURE PLAYER》 
―― パーソル パ・リーグTV公式
この苦しみが「いい経験だった」と言えるように
―― マー君チャンネル 田中将大

2022年へ 光明と課題

 ここまで読み進めた皆様には既に伝わっていれば嬉しいのだが、佐々木朗希という投手からは目が離せないと強く感じる。とにかく成長速度が凄まじい。もちろん課題はあるが、軽々越えて行ってくれるのではないかと期待をしてしまう。
 最後の章では、佐々木朗希の来シーズンの展望を二つの側面から考察し、まとめとする。

 まずは光明の方から風呂敷を広げよう。来シーズンへ期待を持てる事柄に、今シーズンの非公式戦を含めた総投球回がある。佐々木朗希は今年、非公式戦を含めて94.1回(※)を投げている。ポストシーズンでの登板があれば100回に肉薄するだろう。もちろん一軍の舞台は他と強度が違うが、とはいえこのイニング数は立派だ。
 来季はローテーションでシーズンを完走し、120回を目標にしてほしい。
 ※ 内訳は、一軍 63.1 / 二軍 20 / 非公式戦 11

 さらにもう一つ明るい話題を。今季の佐々木朗希はチェンジアップを数球投げたものの、基本的にはストレート、スライダー、フォークの3球種に終始していた。3球種で十分に通用していることが既にすごいのだが、来季は新球種を加える可能性がある。
 数球だったチェンジアップが存在感を増すのか、エキシビションマッチで試投したらしいカーブのような球を加えてくるのか。それともまだ見ぬカットボールが存在するのか、精度を上げて3球種を貫くのか。
 いずれにしても、来季の佐々木朗希がどのようなコンビネーションを見せてくれるのか、楽しみが尽きない。

 さて、いいことばかりを挙げてはいられない。とてつもない才能がありながら、まだまだ伸び代が広大であることもまた現在の彼の魅力であろう。

 来季へ向けて改善してもらいたい点のひとつは、平均投球回だ。防御率2点台前半ながら3勝2敗の貯金1に終わった理由のひとつは、勝ちパターンにつなげていないことだろう。後半戦こそ7回8回と長いイニングを投げたが、11登板の投球回数を平均すると5.76となり、これでは物足りない。
 参考として、最優秀防御率のための規定投球回の話をしよう。一軍の規定投球回は所属球団の試合数×1.0――つまり中6日で投げた場合には平均して6回を投げられなければ到達できない。ここに至らなければ、率を評価してはもらえないのだ。
 来季は規定投球回の到達よりも、この平均投球回6.00のラインを越えていってほしい。100球前後の制限には身体の成長度合いも関わっているのだろうが、よりタフな登板が見られることを期待している。これは、エースに必要な素養だ。

 光明も課題も、佐々木朗希なら軽く超えていってくれると信じている。
 来季も佐々木朗希がロッテファンの皆さん、ひいてはプロ野球ファンの皆さんの朗らかな希望であることを心から願う。

(了)

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