見出し画像

反出生主義《読書一服》

図書館には、書店にはあまり置いていないような本がある。
世の中にはこんな本があったのか。
たまたま「生まれてこないほうが良かったのか?」という
背表紙を見かけた。森岡正博著。
哲学系の書籍としては、売れ筋な方かも。

『反出生主義』というのが、ひそかに広まっていたという
ことを私は知らなかった。というか、この言葉自体の存在
を知らなかった。世事に疎い。

究極形の
「人類が滅亡すれば、感じる主体が存在しないので、苦し
 みの感情も消滅する。」
というのは、そのとおり。

反出生主義を魅力的と感じるのも分からなくはない。
が、苦しみというものは完璧に消さないといけないもの
なのか。人間はそれを完璧にコントロールすべきものな
のか。

ネットで検索すると、「反出生主義者」と名乗る人物が、
妊婦さん宛てに「人工中絶しろ!」などと言っているらし
き記事が。
「自分が信じているものを何でも自由に言っていいのだ!」
というわけではない。倫理や普遍性というものがある。
自由・民主主義は、ある種の表現の自由のことではない。
(↑偉そうに言っているが、最近読んだ本から引っ張って
 きて編集しただけ)

ところで、私自身は反出生主義の中身自体には、あまり
興味がない。まだ生まれてもいない『他人』の幸、不幸に
ついて考えるより、私は自分の身のまわりことについて
なんとかした方が良さそうな状況だ。かと言って、環境
問題には無関心というわけにはいかないが。
反出生主義への批判は、著書の中で森岡正博氏が行って
いるし、いろいろな人が意見を言っている。
私が同じような内容のことを書けば、『強調』という意味
合いにはなる。が、彼らより上手に書くことは出来ない。
それで、違う観点を探してみた。

反出生主義が、ある意味で『精神安定剤』の役割を果たし
ているのではないかということ。考えすぎない、思いつめ
ないと言う効果。

例として『共産主義』をあげる。共産主義に精神安定剤
としての役割があったのではないかと私は思っている。
と言っても、私自身は『資本論』などのマルクスの著作は
読んだことがない。学校の社会科で、「資本や財産をみん
なで共有し、平等な社会体制を築こうという考え。」ぐら
いに習った程度。実現すれば、悩みのない理想的な社会と
なるらしい、と聞いた。理想の共産主義の夢で悩める青春
時代を乗り切った人も結構いるのではないかな、と思って
いる。何が言いたいのかというと、社会の矛盾について
一所懸命に考えたのはマルクスであって、後の人は自分
自身では深く考えすぎることはなかった。『革命!』とか
言ったりして、お祭り気分のうちに時は過ぎ去っていった
のではないか。そして一部は企業戦士になったりして、や
がてバブルの時代を迎える。同じころに、ソ連の解体、
中国の天安門事件など、共産主義に対して幻滅するような
出来事が起こる。
その後、入れ替わるように出てきたのがオウム真理教。
結構高学歴のインテリが入信していて話題になった。
信じる者は救われる。あとは何も考えなくていい。
共産主義にしろ、オウム真理教にしろ、『社会に対してな
にか働きかける』という欲求を実現させた。

共産主義がうまく立ち行かなかった理由には、いろいろな
説がある。私は実社会の複雑さに対して、共産主義の理論
が単純すぎたのだろうと思っている。まあ、理論を読んで
はいないので、推定だが。
科学の世界では、実験や測定のデータが自分が立てた仮説
や理論に都合が悪いからといって、改ざんすることはよろ
しくない。旧ソ連の粛清とか強制収容所というのは、デー
タの方を理論に合わせるという意味合いだったのだろう。
複雑さを減らす。

中国のチベット問題が取りざたされているが、それも複雑
さを減らす行為なのかもしれない。そしてAI開発に力を入
れている。人間には出来ないような、複雑で面倒くさい
作業を、AIならこなしてくれるだろう。そうすれば、共産
主義的な社会に近づくことができるのかもしれない。

現在、欧米諸国と中国・ロシア陣営が対立している。また、
アメリカも中国も環境問題には力を入れていない。間には
さまれている日本はコロナ蔓延の影響もあって、フリーズ
状態のように見える。日本国内を見ても、財政の問題、非
正規雇用、将来の年金、環境問題等々、問題は山積みだ。
これらの問題を一気に片づけるような魔法はない。ひとつ
ひとつ手作業で片づけていくしかない。そう思うと絶望的
な気持ちになる。

いや、魔法はある。反出生主義だ。人間が減っていけば、
複雑さも減少していく。進化していくAIも利用すれば、社
会をコントロールすることができるようになっていく。
そして誰もいなくなった。矛盾、問題自体も消滅した。
理論的にはスッキリだ。思い通りだ。でも人間は一人もい
ない。

人間は完結した物語を好むようだ。
そして、他人に影響を及ぼしたいという欲求がある。
反出生主義はその両方を満たす。
他人の出生に対して口を出す『大義名分』を与えてくれる。

社会も人生も問題だらけ。複雑すぎてどこから手をつけれ
ばよいのか分からない。ほとんど解決できないまま、中途
半端なところで寿命が来て死んでしまうのだろう。
それに比べれば共産主義の方が難易度は低い。といっても、
資本論とか読むのは面倒くさい。
それに比べれば、はるかに反出生主義はとっつきやすい。
難しいことを考え続ける必要はない。
反出生主義は『防御力』が強い。というか論破は難しい。
強力な理論だ。

反出生主義と関係しているかどうかは分からないが、「先
進国」を中心に少子化は進んでいる。スッキリと説明して
くれる理由は出てきていない。なにか私たちの意識にのぼ
ってこないレベルで何か起きているのか。それとも、私た
ちが見たくないと思っているから見えないのか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?