2019年映画ベスト10

1年間に見た新作映画のベストを発表するのが自分にとってすっかり年末の恒例になっていて、既にTwitterでもベストは挙げているんですが、改めて各作品について感じたことをなんとなく整理したくて、今年は初めてnoteに書きまとめることにしました。では、10位から一気にいきます。

10位 ホットギミック ガールミーツボーイ
2019年12月28日鑑賞。
相原実貴の同名の少女漫画を山戸結希監督が実写化。今夏の劇場公開時には見に行けず、数日前にNetflixで見たばかりです。
自分に自信が持てない1人の女子高生と彼女を取り巻く3人のイケメンの関係性を通して、男性の身勝手さと女性の主体性というテーマが生々しく浮き彫りになっていて、何よりも登場人物達から溢れ出る言葉の数々に圧倒されました。
山戸結希監督らしい異様な切り返しや大胆な編集は過去作以上にエスカレートしていますが、その制御不能とも思える狂気的な作風が主人公・成田初(堀未央奈)の不安定な心情にマッチしているように感じました。
これまでの山戸結希監督作品って、地方が物語の舞台であることが多いように記憶してるんですが、今作では2020年の東京五輪を控え、工事や再開発が進み、変化を続ける東京の現在の景色を切り取っているのが印象的でした。撮影面でも相当すごいことをやっていて、実際に電車が走るゆりかもめの駅での長回しのシーンでは、見ているこちら側の熱が一気に上がりましたし、都内でも相当スタイリッシュであろう土地(あの独特なマンションは江東区に実在するらしい…)が撮影地にチョイスされているのも新鮮でした。
まるで止まることを許さないかのように、劇中では音楽が流れ続けるんですが、多感な若者達の止めどない内面の揺らぎを反映していているようで、音楽の用いられ方という意味においては、山戸結希監督の処女作『あの娘が海辺で踊ってる』以来に感動しました。

9位 愛がなん
2019年5月4日鑑賞。
角田光代の同名の恋愛小説を今泉力哉監督が映画化。28歳のテルコ(岸井ゆきの)は友人の結婚式の二次会で知り合ったマモちゃん(成田凌)に片思いをしており、マモちゃんから電話がくれば会いに駆けつけるが、決して恋人にはなれない中途半端な関係が続く…。
劇中の登場人物の無茶な行動に感情移入はできかねたんですが、彼女達が言ってること自体はすごく理解できるというか。この割り切れなさ、彼女達の報われなさがむしろ愛おしく思えて、ジワッときました。
茹で系の料理が良く出てくるのも印象的でした。一人ですするカップ麺、誰かに作ってもらった煮込みうどん。餃子、パスタ、ラーメン…。映画鑑賞中にこっちのお腹が空いてくるほどで(知らんがな)、映画全体にどこか居心地の良さを感じてしまうのは食べ物に関する描写がしっかりしているからなのかも。
今泉力哉監督の前作『パンとバスと二度目のハツコイ』でも好演していた深川麻衣が、こっちの『愛がなんだ』ではやけにクールな役柄で登場するのも意外で良かったし、今をときめく成田凌のだらしない男加減もある意味 人間臭くて良かったと思います。成田凌、追いケチャップが出来るのはあんただけだ。

8位 ジョーカー
2019年10月4日鑑賞。
バットマンの宿敵として有名な悪役・ジョーカー。コメディアンを目指す男が、いかにしてジョーカーという凶悪なヴィランに変化していくのかをトッド・フィリップス監督が描く。
現行のDCエクステンデッド・ユニバースが『アクアマン』『シャザム!』のような作品でワイワイやっているところに、全く別軸で『ジョーカー』みたいな映画が作られていたことにビビりました。
「一人の平凡な男がなぜジョーカーになったのか?(そうならざるを得なかったのか?)」というプロセスが映し出されており、アーサー・フレックという男が抱える混沌に触れた感覚を覚えました。福祉の断絶や孤立無縁な状況がアーサーをジョーカーに至らしめたともといえるし、これまでジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレッド・レトが演じてきたものとは異なるジョーカー像が、今回のホアキン・フェニックスの演技によって更新されたと思います。
この映画の語り口もなかなか妙で、劇中での出来事や話は、一体どこまでが真実で、どこからが虚構なのか? まるで煙みたいにモンワリとしていて、その分からなさ・知り得なさがこの映画の一つの危うい魅力だと思います。
アーサーは重大な一線を越え、そしてまた次の一線を越える。線を跨いで進たびに、ジョーカーという存在に近づいていく。気づいた時には、戻れない場所まで来てしまった。アーサーが時折見せる独特の笑いは、「なんでこうなってしまったんだ」というある種の叫びのようにも見えました。自分にとっては。

7位 よこがお
2019年7月28日鑑賞。
深田晃司監督のオリジナル脚本。訪問看護師・市子(筒井真理子)は、訪問先の家庭の女子中学生の失踪事件の関与を疑われたことを機に、世間から追い詰められていく。
劇中の市子の行動として興味深いのは、事件の根本的な要因である犯人ではなく、火に油を注いだ人物に怒りや復讐の矛先が向くんですよね。
深田晃司監督の過去作の『歓待』や『淵に立つ』で、ある家庭に奇妙な男が侵食していくことから生まれる不可解さを描いていましたが、『よこがお』の主人公・市子は訪問看護師で、利用者の家庭の中に入っていく側の人間。そうした彼女の視点から物語を語るのは過去作と対照的だなと感じました。また、物語の時系列の構成も特殊で、なぜこの映画がこういう語り口をしているのかを悟った瞬間にゾッとしました。
『よこがお』というタイトルが秀逸で、角度によって人間の表情の見え方がまるで異なることを示しているんですが、それを筒井真理子の演技で表現されるんですよね。人間という生き物の底の無さと、誰もが彼女のようになり得る可能性がないわけじゃないことに気づいて、人生が一変した者の物語の後味の悪さにとても引き込まれました。
また、深田晃司監督はメ~テレで『本気のしるし』というドラマも撮られていて、そちらも人間の不条理さを映していて、たいへん面白かったです。

6位 見えない目撃者
2019年10月19日鑑賞。
韓国映画『ブラインド』を日本で森淳一監督がリメイク。ある事故で失明し警察官の道を諦めた浜中なつめ(吉岡里帆)は、車の接触事故に遭遇。車中から助けを求める少女の声が聞こえ、誘拐事件の可能性を警察に訴えるも相手にされず、独自に手掛かりを探し始める。
この作品はまったくノーマークで、公開から1か月後に評判の高さを聞いて見に行ったんですが、見逃さないで良かったと思えた1本でした。
レールから外れた者たちが道無き道を進むために、盲導犬、スケボーを頼りに日々を生きている。そんな主人公らがある事件を通じて知り合い、手を取りあって真実に迫っていく姿にシンプルに胸打たれました。刑事ではない主人公達はネット検索で手掛かりを探したり、ピンチの打開策としてスマホが活用されるのも面白いところでした。
そして、何といっても田口トモロヲ演じる木村刑事が素晴らしかった。人間くさい部分を見せつつ、警察官として正しいことをしたいという軸の強さと、人間としての優しさが伺い知れるキャラクターですごく良かった。
ロケーションも少し荒んだ場所や景色が撮られていて、良い意味で日本映画っぽくない印象を残すのが良かったですね。車を使ったスタントシーンなども、日本でこんな風に撮れるのか…!!と興奮しました。猟奇的殺人の真相に迫っていく過程にヒリヒリさせられ、狡猾な犯人の演技にイヤな汗をかいたので、鑑賞直後はドッと力が抜けたのを覚えています。

5位 アベンジャーズ エンドゲーム
2019年4月28日鑑賞。
『マーベル・シネマティック・ユニバース』(MCU)シリーズの第22作品目。監督を務めるのは、前作『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』と同じくアンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ兄弟。
2012年に『アベンジャーズ』の日本公開が近づいてきたタイミングで、なんとなく『アイアンマン』から見始めたらとても面白くて。その後のMCUの一連の作品が公開されるたびに、世界観がどんどん広大化していくのを見てきたんですね。決して長くない期間 見続けてきた一連のシリーズが、今回の『エンドゲーム』で一つの大きな区切りを迎えたことに対して、自分でもビックリするくらい感慨にふけてしまいました。
まず、『インフィニティ・ウォー』のラストで、生き残ったメンバー達が、なんとかその後の世界で各々の人生を生きていることに胸が詰まりました。生き残ったメンバー達も大きな精神的ダメージを受けていて、サノスを止められなかったことへの後悔に押し潰れそうになりながら、日々を生きている者達の姿がじっくり描かれる。その姿が劇中で時間を割いて丁寧に描かれているからこそ、その後の彼らの決断や行動に説得力に生まれるんですよね。
『アベンジャーズ』1作目と比較すると、何倍何十倍ものキャラクターが集結する場面もあり、膨大な情報量なのに誰かどこでどう動いているかしっかり伝わるように表現できるのは、とてつもない技術と演出の力が結集しているのは勿論、作り手側のそれぞれのキャラクターに敬意と愛があるからではないでしょうか。MCUというシリーズは今後も続きますが「これ以上の映画を今後どうやって作るのか?」と心配をしてしまうほどの大傑作でした。ただ、MCUはこちら側の余計な心配を覆していくのでしょう、きっと。

4位 トイストーリー4
2019年7月13日鑑賞。
ジョシュ・クローリーが監督を務めたピクサーの人気シリーズ4作目。前作でアンディと別れたウッディだが、新しい持ち主・ボニーと遊ぶ機会が減っていることに悲しみを覚えていた。そんな中、ボニーが先割れスプーンやモールで工作した手作りおもちゃ・フォーキーがおもちゃの仲間に加わるのだが…。
前作から9年経って、ピクサーがこんなビターなテーマをトイストーリーで扱うとは思わなかったですよね。自分の周囲でもこの映画に対する意見は賛否両論だったんですが、自分はこの作品が作られて良かったと思っています。今回のトイストーリー4は、決してトイストーリー3を全否定するものではなく、むしろ3作目の結末を尊重しつつも、ウッディの物語を締めくくるための物語だったと思います。
トイストーリー3でアンディと別れたものの、やはりウッディはアンディへの思いを断ち切れていない様子が滲み出てるんですよね。でも、これも無理もなくて、ウッディがスパッと気持ちを切り替えることができないのも当然じゃないですか。そんなウッディに対して「本当の幸せとは?生き方とは?」と、まるでおもちゃの実存を問い直す内容になっているのが今作の興味深くも面白いポイントでした。また、今作は自己肯定にまつわる映画だとも思っていて、ウッディが持ち主の愛を知らないおもちゃ達に先輩として「気づき」を促す立場になっていたことにシリーズの成熟を感じ、ウッディの邪魔をするおもちゃ・ギャビーギャビーが迎えた結末には唸りました。ウッディに幸あれ。

3位 旅の終わり世界のはじまり
2019年6月15日鑑賞。
日本のテレビバラエティ番組のクルーと共に取材のためにウズベキスタンを訪れた女性レポーター・葉子(前田敦子)。現地のコーディネーターや異文化の人々との交流によって新しい世界を開き、成長していく。
黒沢清監督はそんなにファンというわけでもないんですが、これはすごく良かったです。異国の地で前田敦子演じる葉子、抑圧され見失っていた心の在り方を模索していくことになるわけで。テレビのレポーター役なので、ある意味 前田敦子はこの映画で二重に役を演じるんだけど、そのスイッチの切り替えがすごい。ノーと言えない過酷な撮影現場、日本で待つ彼との繋がり。劇中の前田敦子への負荷が積み重なっていて、黒沢清監督らしくギョッとするような場面や演出も散りばめられていて。最終的にはそれだけじゃない新しい風が吹いた感覚が残りました。自分自身のパーソナルな問題と向き合う瞬間って、自分が思ってもみないタイミングや環境でこそ発生するし、だからこそ終盤の展開にはすごく染みました…。
また、全編通して映し出されるウズベキスタンの景色とそこに生まれる音がホントに記憶に刻まれました。吹く風、湖の波、行き交う車の喧騒、市場の人々、そして歌声。行ったことのないはずの国に(誇張ナシで)本当に行って帰ってきた気分になったんですね。
普段 映画を見ても「ロケ地巡りたい欲」はさほど沸かない自分なんですが、この映画を見て、ウズベキスタンの地を自分の目で見てみたいと強く感じてしまった。あのぐるぐる回るアトラクションには絶対乗りたくないですが。

2位 宮本から君へ
2019年9月28日鑑賞。
新井英樹の同名漫画を実写化。2018年にテレビ東京で実写ドラマ化され、今回の映画版でも引き続き真利子哲也監督が続投。靖子(蒼井優)と交際することになったサラリーマンの宮本(池松壮亮)。理不尽な暴力を受けた靖子の復讐のために、宮本が立ち上がる。
公開の少し前から、映画版がどうやら凄いらしい…という話をチラホラ聞くようになり、未見だったドラマ版を試しに見てみるかと視聴したんですね。で、まずこのドラマ版がすごく面白くて。サラリーマンとして奮闘、自分の至らなさ未熟さから生まれる失態、でもやるんだよ!ともがく…。そんな宮本の姿にすごく心打たれたんですよね。神保(松山ケンイチ)や係長(星野英利)ら、頼れる先輩・上司に支えられ、どきにぶつかり…!最終話、階段を駆け下りながら退場する宮本の姿には込み上げてくるものがありました。(この時点でドラマ版の話しかしてない)
で!映画版を見に行ったら、こちらもまーーー凄かった。宮本と靖子が夜の帰り道に街中でふざけあう場面もとても美しくて。その一方で、目を背けたくなるほど理不尽で最悪な出来事に遭遇するわけで。原作漫画は未読だったので、まずこの展開に驚愕したんですよ。「これはフィクションなんだよな…?映画なんだよな…?」とおののきながら見ていました。
『ディストラクション・ベイビーズ」の暴力描写もそうだったんですが、真理子哲也監督の暴力描写って、心底痛そうに見えるんですよね。撮影だから、メイクなり何なり使ってるんだろうけど、本当にそうとしか見えない。
そして、理不尽な出来事に対して何もできなかった宮本がどう行動するのか。自分がそう決めたから、自分がそうしたいからそうするんだ…という宮本の無鉄砲な行動や行動は無茶苦茶なんだけど、世の中がクソでも理不尽でも、それでも生き続ける宮本と靖子の強い姿に心を鷲掴みにされました。熱い、ひたすらに熱かった。

1位 バーニング 劇場版
2019年2月3日鑑賞。
村上春樹の短編『納屋を焼く』をイ・チャンドンが映画化。小説家志望の青年ジョンス (ユ・アイン)は幼馴染のヘミ(チョン・ジョンソ)と久しぶりに再会。ヘミが旅行先で知り合ったという謎めいた男・ベン(スティーブン・ユアン)を紹介されたジョンスは、ベンから「僕は時々ビニールハウスを燃やしています」という秘密を打ち明けられる。
「この方は、何をされてる方なの…??」と問いかけたくなるような謎の男ベンが醸し出すオーラが不気味なんですよね。腹立つし、何を考えてるのかよく分からないし、腹立つし(2回目)。
そんな謎の男と相対する主人公のジョンスを演じたユ・アインは『ベテラン』では悪い御曹司を演じていたのに、今作では真逆とも言える裕福ではない素朴な青年を演じていて、役者さんってすごいよね…と感服しました。
この作品もある意味では『ジョーカー』のように、どこまでが真実でどこまでが虚構なのかも分からないんですよね。ただ、見終わってからその余白について考えを巡らせることの面白さと豊かさに気付かされたんですよね。
この作品のことをしっかり理解できたという自信はまるでないんですが、その理解を越えて伝わってくる「言語化しにくい何か」がとても鮮烈で、非常に忘れ難い作品になりました。
夕日を浴びながら舞うヘミや衝撃的なクライマックスなど、映像的にも目を奪われる鮮烈な場面もあり、映像から受け取る何とも言えない心地は、原作の読後感にしっかり近い。鑑賞後はこの映画の余韻から抜け出せないでいる自分がいました。

ということで、ベストを通して2019年公開作品を振り返ることができました。2020年はどんな年になるでしょうか。よいお年を。

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