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Web3におけるトラストという概念の特殊性と、その課題について

こんにちは。
Skyland VenturesアソシエイトのKOJOです。
今回はWeb3/Cryptoにおける一大テーマ「トラスト」について、大風呂敷を広げるつもりで自分の雑感と考察を述べたいと思います。

また、本記事は以下の資料などを参考・引用しています。

自己紹介

KOJO:
慶應義塾大学理工学部とSkyland Venturesに所属。去年までフランスの大学に留学していたのでフランス語と英語が話せる。大学の研究室ではコンピュータハードウェア設計の研究をしている。イギリスのクラブ音楽に詳しい。ドラマ・映画・アニメを見るのが好き。近代西洋哲学(現象学、ポスト構造主義)やサブカル評論も好き。cryptoとVCとなめらかな社会について興味がある。

トラストは貨幣に価値を与える

かつて貨幣は金との交換可能性によってトラスト(=信頼)を獲得し、貨幣価値を充足させていました。しかし、現代はアメリカのブレトン=ウッズ体制崩壊以後、いわゆる金本位制崩壊後の世界であり、貨幣を十分に交換できる金資産を政府が保有する必要はなくなりました。ゆえに、諸説あるにせよ、現在は政府国家の総体に対するトラストをベースに貨幣の価値が決まっています。大昔の人類は、貝が作物や肉などに交換する機能を持っていたことから、貝に貨幣の機能を持たせました。あるいは平安時代、中国の巨大な政権に対するトラストを基盤に、明銭や宋銭が日本で流通したりしました。
そもそもトラストとは、なんらかの事物や人物に対する信頼として顕現しているものであり、日本円であれば政府に対するトラスト、かつての政府発行紙幣であれば、金と交換できるという保証自体に対するトラスト、といったものとして現れていました。では、暗号通貨の場合、その価値はどの部分に対するトラストから立ち上がっていると解釈できるのでしょうか。ぼくは、このトラストの対象こそが暗号通貨の技術的な部分(=ブロックチェーン及び分散型システムやその中での暗号化技術等)なのではないかと考えています。

トラストレスなトラスト

山崎重一郎教授の整理によれば、トラストの構造にはいくつかの種類があるとされています(ただし、彼の定義するトラストは前述のようなアバウトな捉え方ではなく、「人がリスク・ヴァルネラビリティに対する恐怖と向き合い、前向きな行動をするために必要な信念」と示しています)。
ここからトラストという概念について、貨幣論の枠をはなれ、一般的な意思決定や社会形成の方面にまで広げてとらえられてみましょう。

最も古典的なトラストのあり方としてP2P型のトラストがあります。家族や血族をもとに繋がっている民族社会・ムラ社会のような共同体をイメージしたもので、1対1の人間関係における信頼が小さな社会全体のトラストを構築しているケースです。このような場合、お互いがお互いの顔や性格まで理解していることから、お互いに信頼関係を作り合える、非常に密なコミュニティとなるはずです。代わりに、村の掟や暗黙の了解のようなものが存在し、行ってはならないことが定まっています。

一方、現代へと時代が進むにつれて発達したトラストの形として、リヴァイアサン型トラストの存在があります。国家のような巨大な権力が強制力を持った形でコミュニティを統制します。個人は一部の権利を放棄することで(=国家に権利の一部を託すことで)、国家という巨大なトラストされた主体の構築に成功しています。

近年、リヴァイアサン型トラストの形から一定異なる形で現れた構造が、TSP型のトラストです。いわゆるWeb2世界のプラットフォーマーのようなものの構造で、人々は一方的にTSP(トラスト・サービス・プロバイダ)と呼ばれる主体に個人は金融資産や個人情報を託しています。

以上のような各種のトラストの構造をふまえ、一番あたらしいあり方として立ち上がっているのがブロックチェーン技術に裏付けされたトラストレスなトラストというものです。その共同体に所属している個人はまわりの誰1人トラストしていないのにも関わらず、共同体全体を俯瞰したときに、全体の構造の運動自体はトラストできる、というきわめて特殊なトラストの構造を持っています。これはまさしくブロックチェーンという分散型台帳の想定したシチュエーションにおけるトラストのかたちそのものです。

このようなトラストのかたちは、なにかしらの技術的要素や、社会通念、共同幻想の発達により、共同体運営においてひろく利用されてきました。P2P型トラストが最も古典的な共同体におけるトラストであると仮定すると、リヴァイアサン型トラストはムラの規模が自然と拡大した結果としてある「国家」のような概念が誕生して以降、TSP型トラストは巨大な独占企業の誕生やWeb技術のような一対多のコミュニケーションを同時多発的に行えるようになって以降、自然なかたちのトラスト構造として受け入れられたのでしょう。そして、トラストレスなトラストは「ブロックチェーン」のような新技術の誕生以降の現代で、やっと受け入れられつつある新たなトラストの構造といえるのではないでしょうか。
日々世界は進化しており、このようにしてトラストの構造をもより高度化しているということのように思えます。かつての人類が貝を貨幣と思っていたのが、いまや暗号資産のような電子情報をも貨幣と認めるようになっている。人類自体の脳は必ずしも進化しているわけではないので、常にブロックチェーンのような構造を念頭にトラストをしているわけではありません。ですが、ブロックチェーンという改ざん不可能な共有データベース機構があるという事実自体が、トラストレスなトラストという新たな共同幻想を構築しうる可能性をつくりだしています。

トラストレスなトラストの課題

トラストレスなトラストを作りうるブロックチェーン技術およびWeb3の世界には大きな期待感があります。しかし、このような新たなトラストの構造は、世界のどの部分に適用できるのでしょうか。そもそも、ブロックチェーンという技術が発明したものの要素技術としてBFT(ビザンチン故障耐性)というものがあります。ひどく簡単にいってしまうと、51%以上の構成要素を奪われないかぎりはシステムが改ざんされずに稼働する、ということです。これはブロックチェーンを利用すること自体の根本的なリスクとなりえます(つまり、51%攻撃をされたら信頼性がゆらぐという根本リスクを抱え続けることになります)。このリスクへの不安感をまず拭えるのか、というのがシステムを利用してもらうための第一ステップです。国家を運営する民主主義というアルゴリズムが国家をトラストすることのできる根拠である一方で、国家はポピュリズムや全体主義を引き起こすような問題点を常に背負っています。ブロックチェーンも同様に、仕組み自体にそのようなリスクを内包しているといえるでしょう。
そもそもブロックチェーンという技術はなにをしているかといえば、「コンセンサス」をとる社会的な枠組みを走らせているのです。

議論と多数決というプロセスから社会的な運動を稼働させている国家というものもあれば、直下型の命令による共同体活動を実施するマックス=ウェーバーのいう官僚組織/現代の会社型組織も存在します。それに対し、ブロックチェーンを利用した組織では、スマートコントラクトに規定された行動内容を評価基準としてコンセンサスをとり、オンチェーンの活動を分散型に管理できるようになります。これを俗にDAO(自律分散型組織)というわけですが、これもまたブロックチェーンがコンセンサスマシーンであることを如実に示しています。
一方で、ブロックチェーン技術およびその技術を利用してつくられる共同幻想としてのトラストレスなトラストが、このような統一的なコンセンサスしか取れないからこそ、用途にも限界があるのではないかと思わされます。
ブロックチェーンを利用したかたちでの社会システムでは、たとえば国家のおこなう強権的な行動(戦争や外交的に強力な行動)や、例外的な処理をおこなう必要のあるケースの実行(人間的なゆがみの入るスキマ)を上記で指摘したようなコンセンサスアルゴリズムにより設計することができるのか、まだまだ国家規模の団体で行えるイメージがつきません。というか、国家規模くらいの巨大な団体として運用できないのであれば、やはりトラストレスなトラストをベースにした共同体の使いどころは意外と多くないかもしれない、とも思えます。そもそも巨大な組織形態を目指す必要はないのかもしれません。将来的には現代の巨大な国家のような組織を小さなDAOでリプレイスするような可能性も考えられます。もっと前提にもどれば、そもそもオフチェーンと呼ばれるブロックチェーン外に存在するデータや人間の所作が多すぎるゆえ、それらをどこまでブロックチェーンベースの共同体に移行可能なのかという問いが残されています。これらの問いへの答えは、今後のWeb3がどの程度発展するのかということにかかっているでしょう。

ここまでブロックチェーンという技術にのみ触れてきましたが、ブロックチェーンの生み出したトラストレスなトラスト、という共同幻想を主体とみなすことができれば、スマートコントラクトによる「法整備」ということも実現できるかもしれません。契約を結ぶためのエスクローが裁判所や国家という主体ではなく、分散型システムとなることは十分ありえます。そうなれば、トラストレスなトラストをベースにした組織形態にも大きなひろがりと応用性を獲得しうる余地があります。
しかし、現行のWeb3において、確実なかたちでオンチェーン上に記載を可能にしている事物は、貨幣としての「FT」と金融商品としての「NFT」のみであり、スマートコントラクト概念をよりラディカルに可能にするためには新たな規格や手法が必要になるようにも思えます(RWAには依然オフチェーンへのトラストが必要とされています)。

トラストレスなトラストで、なめらかな社会をつくる

トラストレスなトラストの革新的な部分は、TSPといわれていたようなエスクロー的存在の消滅にあります。みなが仲介者をもたずに直接コミュニケーションを取ることが経済上では可能になったというのがWeb3のすごいところです。ブロックチェーンでコンセンサスをエスクローなしに行い、スマートコントラクトでコンセンサスがプログラマブルになってしまえば、世界は非常になめらかなかたちで(土着の世界の論理に紐づいたかたちで)社会的な共同体をプログラムできるのではないか、と夢想します。

今後ともこの新たなトラストのあり方と、その可能性について考えていきたいものです。



以上。


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