「悪学のマニエラ」第2話

■回想(レフィア機関・実験施設・雑居房)

雑居房のような部屋で、数人の少年少女が座り込んでいる。

実験体286号(男)「・・・なぁ、俺達飯抜きになってから、これで何日目だっけ?」

実験体291号(女)「・・・56日目」

実験体288号(男)「あと44日もあるのかよ・・・」

実験体292号(女)「私はこの前の、水の中でずっと息止めるやつの方が苦しくて嫌だったなぁ・・・」

実験体289号(男)「俺は、たいあつ?実験ってやつだな。体がぺちゃんこになるとかと思ったもん」

実験体293号(女)「いつになったら、ここから出られるんだろう・・・」

実験体286号(男)「言う事聞いて、実験が全部終わったらちゃんと出してくれるって言ってただろ・・・?だから、あともうちょっとの辛抱なんだよ・・・」

全員が黙り込む。

すると、中でも一際小柄な少年が口を開く。

実験体285号(男)「____僕、この前実はこっそり大人達の話聞いちゃったんだ。そしたら、戦争が終わっちゃったから、僕達もう、みんないらなくなっちゃったって・・・」

実験体286(男)「・・・適当言ってんじゃねぇぞ、285号!んなわけねぇだろ!」

血相を変えて、285号の胸ぐらを、リーダー格の286号が掴む。

実験体285号(男)「ほんとだもん!本当に聞いたんだもん・・・!」

実験体291号(女)「・・・もしかして、287号と290号が全然帰ってこないのって、いらない子だからって捨てられちゃったのかも・・・」

実験体288号(男)「捨てられたら、どうなるってんだよ・・!」

実験体292号(女)「きっと、殺されて処分されるんだ。ゴミと同じように」

実験体293号(女)「そんなのやだよぉ・・・」

実験体289号(男)「俺だって嫌だ・・・!」

実験体286号(男)「嘘・・・だろ?だったら・・・だったら俺たちが今までやってきたことは一体なんだったんだよぉ!」

行き場のない怒りや嘆き、絶望感が、部屋の中を満たしていたその時、

実験体294号(女)「ストーーーーーップ!」

突然、本を読んで会話に入っていなかった少女が叫び出す。

それに驚き、みんなの言動がストップする。

実験体286号(男)「突然なんだよ、294ご____」

フェリシア「違うよ!アタシはそんな名前じゃない!前言ったでしょ?アタシの名前は、フェリシアだって!」

一人一人の顔を見ながら、次々と指を差していく。

フェリシア「カイル、ジニー、ガミ、クリス、ゼール、コリン、ニック。そして、今ここにはいないけど、ドノアとサラ。もう・・・みんな名前があるんだから、番号じゃなくて名前で呼び合わなきゃ!」

カイル(286号)「それはお前が勝手につけただけだろ・・・?別にそんなのどうだって・・・」

フェリシア「よくない・・・!外に出たら、みんな名前で呼び合ってるんだから、名前がないと変に思われちゃうの!だから、今のうちから練習しとかないと!」

ジニー(291号)「でも、私たちはもうここから出られずに、捨てられちゃうんだよ・・・?」

フェリシア「そんな事ない、きっと大丈夫だよ!みんな揃ってここから出て、みんな一緒に家族として暮らすの!」

ガミ(293号)「家族・・・?」

フェリシア「そう、まず朝は早起きして、みんな揃って暖かいミルクと、ベーコンエッグと、パンを食べるの!お寝坊なクリスとゼールも大丈夫、アタシがちゃんと起こしてあげるから!そして、昼間はお歌を歌ったり、広い公園でみんなで青空の下で寝転がって過ごすんだ!それで、慌てん坊のサラが転んだりしたら、ちゃんと一番お兄ちゃんのカイルがおんぶしてあげるんだよ・・・?それで夜ごはんを食べた後は、フカフカのベッドの上で、ちょっと怖い話をしたりなんかするの!怖がりのニックは、一人でトイレに行けなくなっちゃうかもね・・?それで次の日も、その次の日も、みんな一緒の毎日が、ずっと続く事を家族っていうんだよ!」

フェリシアの言葉に、ここから出た後の事を皆それぞれ想起し出す。

フェリシア「みんなも外に出たら、やりたい事いっぱいあるでしょ?ほら、話してみてよ・・・!」

ニック(285号)「ぼ、僕は____」

コリン(293号)「私は_____」

皆口々に夢を語り出し、鬱屈としていた雰囲気を、フェリシアが希望に満ちた明るい雰囲気へと変えた。

そんな中、通路を挟んだ向かいにある懲罰房に一人、まるで死体のように横たわっている少年の姿に気が付くフェリシア。

フェリシア「あの子・・・」

カイル(286号)「あいつ、ただでさえ落ちこぼれなのに、この前の訓練で、教官に口答えして徹底的にしごかれたらしいぞ。大人たちがボロボロのこいつ見て、もうダメだろうって言ってたし、もうすぐ死ぬんだろうな・・・」

フェリシア「・・・ねぇ!聞こえてる・・?そこの君!」

フェリシアは構わず、呼び続ける。

その衰弱しきった少年は、朦朧とした意識の中でその声を聞く。

フェリシア「君の名前!アタシがつけたげる!君の名前は、レン!」

フェリシア「死んじゃ、死んじゃダメだからね・・・!一緒にここから出て、アタシと、アタシ達と家族になるんだから・・・!」

■場面(イリノイ州・スプリングフィールド郊外・街頭)

セリル「お前がレフィア機関からきた"レン・ヒミヤ"だな?見る限り、今度は発注通り日本製が届いたようで安心したよ」

『首輪』として派遣された少年"レン"を、駅まで迎えにきていたセリル。

レン「お前が、カルネ・アルヴァーンの娘」

専用の軍服を身に纏ったレン。

セリル「セリル・アルヴァーン。気軽にセリーと呼んでもらって構わ____」

レン「早く出せ・・・お前の事に興味などない」

セリルの横をすり抜け、車に乗るレン。

セリル「・・・グハァッ!これはまた堂に入った人形ぶりだこと・・・これは丁寧に扱ってやらんと、つい嬉しくて、早々に壊してしまいそうだ・・・」

車の中から、物憂げな表情で外を見つめるレン。

レン<青空が広がり、草木が萌え渡る。車や人々が行き交い、賑わう街並み>

レン<この景色を・・・俺は・・・>

レン<フェリシア・・・君に見せたかった>

■回想(ダイジェスト的なイメージ)

レン<フェリシア・・・何度も語って夢見た外の世界で、俺を待っていたのは悪魔みたいな女だった>

セリル「さぁ、しっかり働けよ人形・・・!」

レン<あの女の監視役になると言う事は、修羅場の最前線に、常に放り出される事と同義であり、俺は・・・例えそれが自衛行為だったとしても、人を傷つけることも少くなかった

レン<常にあの女の行く手には闇が広がっていて、ヤツの瘴気にあてられる度に、自分の中にある影が顔を覗かせ、俺はフェリシアようにはなれず・・・闇の中でしか生きられないのかと、自問自答を繰り返す毎日に、辟易としていたある日・・・>

レン<俺は_____天使のような女性に出会った>

■場面(児童養護施設『宣艇園』前・夕方)

レフィア機関『_____報告は以上か?』

レン『・・・はい』

レフィア機関に、電話ボックスから定期報告を行うレン。

レフィア機関『何か少しでも動きがあればすぐに連絡するように。ヤツは、この世界にとって不必要な社会悪。その場での判断が求められた場合は・・・迷わず命を賭して殺せ。そのためだけに、お前らは存在しているのだからな』

レン『・・・分りました』

沈んだ顔で、歩くレン。

レン<人形呼ばわりされても、これじゃあ言い返せないな・・・。フェリシア、俺は本当にこれでいいのか・・・?>

ライラ「どうしたの?なんだか、元気ないね」

20代半ばほどだと思われる女性"ライラ"が、レンに声をかけた。

咄嗟に返り血のついた袖口を隠すレン。

ライラ「はいこれ。いつもここでスープキッチンやってるんだ。体も心もあったまるよ〜」

ライラは、冷え切ったレンにスープキッチン(炊き出し)を振る舞った。

レン<俺は、彼女をフェリシアに重ねてしまった。そうせざるを得なかった>

■場面(スプリングフィールド郊外にある根城・セリルの書斎)

イヴァン「待て・・・どこへ行く?」

外出しようとするレンを引き止めるイヴァン。

レン「・・・なぜ言う必要がある?」

イヴァン「ここ最近、頻繁にお前がどこかへ出入りしているのは分かっている。それに関しては、むしろこちらとしては監視の目が無くなるわけだから願ったり叶ったりで、止める気もさらさらないんだが、一度うちは『首輪』を自由にさせすぎて痛い目を見ていてな。どこに何用で行ってるのかくらい聞いてもいいだろう・・・?」

レン「・・・『宣艇園せんていえん』」

リゾ「何それ」

レン「そこのスープキッチンを手伝いに行っている」

マロウ「・・・聞いたことあるなぁ。児童養護施設『宣艇園』。確か"ライラ・プレンティー"っていう若い女が園長をやっていて、なんでも引き取り手がいない子供を保護しながら、スープキッチンをはじめとした慈善活動も積極的に行う、随分な篤志家だとかなんとか」

セリル「・・・イヴァン、今後数日のスケジュール全て白紙にしろ」

イヴァン「はい・・・?」

セリル「先方にはこう伝えておけ、『セリル・アルヴァーンは、今後ジゼン家として活動する事に決めました』・・・とな」

リゾ「・・・始まった」

マロウ「この人は本当に・・・」

セリル「ジゼン活動・・・グハァッ!なんと血湧き肉躍る響き・・・今すぐに出かけるぞ、レン。私とそやつ、どちらが真のジゼン家かはっきりさせてやろうではないか!」

レン「お前が来たら、無茶苦茶になるに決ま_____」

セリル「おやおや〜?『首輪』としての本文をお忘れなのかな・・・?監視者であるお前が私から目を離し、ジゼン活動にお熱だと言うことが、も〜し何かの拍子に知れたら、上からの締め付けがまた一段と強くなるかもなぁ・・・」

レン「・・・っ!」

セリル「ジゼン〜♪ジゼン〜♪」

レン<やはりこいつは、悪魔だ>



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