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2023年2月15日の乾杯

今回は、少し寒さの戻った水曜日の午後、都内某所でお茶をしながらのおじさんとおねえさんの駄弁です。ふたりがそれぞれ博物館や美術館で観てきたものやおじさんが観てきた舞台の話など。


👨演劇のおじさんと

👩おねえさんです。こんにちは。

👨こんにちは。今日はちょっと都内某所で待ち合わせをしてお茶でもしながらということで。

👩ええ。

👨けっこう寒いですけれどね。

👩そうですね。

👨ところで、最近はなにかおもしろいものをご覧になりましたか?

👩私はこのあいだ『毒』展を観てまいりまして。

👨えぇと。

👩上野の国立科学博物館でやっているやつ。


上野恩賜公園

👨あぁ、はいはい。私も観に行きたいのですけれど間に合わないかなぁと。ちなみに面白かったですか?

👩めっちゃめちゃ面白かったです。

👨へぇ。やっぱり私もなんとかして観てこようかなぁ。

👩でもね、めちゃめちゃ込んでいた。まあ、人の多いこと。

👨ああ、規制もちょっとゆるくなりましたしね。

👩だいたい、そういう展覧会ってあれなんですよね。それぞれに多い客層みたいなものがあるのですよ。

👨ああ、はいはい。

👩普通はあるのだけれど『毒』展に関してはなかった。すごい幅が広いなぁって。家族連れがいればカップルもいて。一人で来ているひともいて。おじさまがいて、おばさまがいてみたいな。

👨私、あのカハクでは昔プラスティネーションの展示を観たことがあって

👩ありましたねぇ。

👨献体をプラスチック樹脂液に浸して輪切りにしてその肉体の構造や神経系を観察できるようにするという。

👩うんうん。あれでしょ、展示になることを了承している方のでしょ?

👨そうそう。

👩でもあれって、今はなかなか展示できないんでしょ?

👨今は昔以上に人権の問題とかいろいろあるからね。

👩そもそも私はきっと見れないなぁと思うけれど。

👨私は知らないで連れていかれて見ちゃったみたいな感じだったのだけれど。でも人の体に対しての意識っていうのはあれを観て随分変わった。ただ、もうそれ以来多分20年以上カハクにはいっていないけれどね。

👩展示の仕方が上手でしたよね。

👨ほう。

👩できるだけ難しく感じさせない展示をしているのだけれど、その、ちょっと複雑なところもあるわけですよ。そういう場合の説明の入れ方が上手で、観ていくうちにその先の準備をさせてくれるし、わくわくさせてもくれて、わかりやすい。模型だったりとか展示だったりとか人が惹きこまれる工夫もあって面白かった。

👨それはやっぱりキュレーターが良いのだろうね。

👩そうだと思う。展示もポップだしね。普通に科学博物館が好きで観にこられているのだろうなぁという人も来られていたし、普段はこういうところに来ないのだろうなみたいな感じの人もきていらっしゃったけど、みんなにわかりやすかった。

👨いろんな広告も出ていたし、新聞などでも取り上げられて話題になっていたしね。

👩ほんと面白かった。この後大阪でもやるでしょ?多分大阪でも人気になると思うなぁ。

👨うんうん。

👩でね、最後にガチャガチャがあるのよ。

👨はい。

👩セアカコケグモとかアカハライモリとか

👨そ、そうなんだ。

👩毒虫とか毒をもつ生き物のピンズ。

👨へぇ。

👩そのセアカコケグモがすごくかわいくて。

👨・・はぁ。

👩本物の蜘蛛は怖かったりもするけれど、セアカコケグモが欲しくてセアカコケグモって念じて回してみたけどカエルでした。

👨ああ、残念でしたねぇ。毒ガエル?

👩毒ガエルの一番小さくてカラフルなやつ。

👨ああ・・・、はいはい。

👩なんだったかなぁ、名前は忘れちゃったけれど。これもかわいかったし面白かったです。もう終わるんだよね、東京は。

👨あと一週間くらいかな。

👩19日までだったかな。でも大変面白かったです。ただ、人が多い。

👨うん。

👩予約は全部事前予約制だったけど、めちゃめちゃ人いたよ

👨今博物館とか美術展とかはみんなそうだからね。

👩それにしては人が多かった。

👨あそこは天井が高いし広いから。

👩マスクしてくださいとはいわれていたけれど、はずしている人もいたしねぇ。合間を避けつつみてた。

👨ああ、そうなんだ。

👩うん。マイナスなことを言うあれでもないけれど…不安になるからねぇ。感染のリスクはあるっていうか、移ってもおかしくない位の距離感で人がいたから。

👨ああ、なるほど。

👩もうぎゅうぎゅう。久しぶり、あんなの。数年前に「怖い絵展」ってあったじゃないですか。中野京子さんの。

👨ああ、ありましたね。

👩4年前とか5年前にみたやつ。

👨コロナ前だよね。

👩行ったのだけれど凄い人で。まったく動けなかったの

👨でもまあ、昔は詰めたい放題だったからね。

👩そうだけれど!あれは凄かったよ。実際面白かったし、「怖い絵展」は図録も買ったけど。あのね、あの時一番メインだったのってあれじゃないですか。ポスターとかフライヤーとかにもなっていたけれど、王女になった人が結婚して3日で斬首されるシーン。

👨えーと、あれは、場所どこだっけ。

👩どこだっけ。凄く天井が高いところだった記憶があるなぁ。

👨あれって、私も観たんですよ。どこだっけ。

👩新国立とかではなかったかな。

👨ググってしらべるね。えーと、怖い絵展、あれ巡回展だったのだけれど、東京は上野の森東京美術館だね。

👩ひとつだけ付け加えると『ジャック ザ リッパーの寝室』という小さな油彩の絵が一番怖くて一番ドキドキした。

👨おいおい、怖いのか好きなのかどっちなの。

👩誰もいないし、別に直接的な表現ではないの。ただ、暗い部屋の入口なのかな、それを扉の隙間から観ているみたいな感じの絵なの。

👨ああ。

👩少ないの、情報は。でも凄く良かったの。

👨そういう美術館ネタでいうとね、東京都庭園美術館ってあるじゃないですか。

👩はい。

👨目黒の。このあいだまで蜷川実花さんの個展をやっていた。

👩はいはい。

👨あそこで、今『交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー』という展覧会をやっているのですよ。

👩うんうん。


東京都庭園美術館

👨1910年から1930年くらいあたりって、いろんな新しさが生まれた時代で、一方で大衆消費社会の黎明期でもあって、世界が互いに影響しあい同期しあいながら一つの時代をつくりあげていったらしいのね。元々私は1890年代から1920年代、それこそクリムトとかエゴンシーレが活躍した時代のウィーンの美術とかデザインにはとても惹かれていて、それで観に行ったのだけれど。エゴン・シーレも今東京都美術館で展覧会をやっているじゃないですか。

👩エゴン・シーレ?全然知らん。エゴン・シーレ。見ていると思うのだけれど。どんなポスターだっけ。

👨こんな形の。あの、何種類かあるのだけれど、一番よく目にするのは男の人がちょっとこんな感じにデフォルメされて描かれている奴。

👩ああ、あはは。やっているね。

👨エゴン・シーレは昔MOMAで1900年前後のウィーンを特集した展示会で出会ってから、多分一番好きな画家のひとりなのね。

👩へぇ、わかった。こっちもあとで調べておく。それで東京庭園美術館の方はよかったですか?

👨うん、よかった。展示は服飾、家具、食器から壁紙と多岐にわたるのだけれど、その活動が日本に来て着物のデザインなどにも影響を与えたりしていてね。で、それぞれにその時期の最先端なわけで、そこには陳腐化しない洗練もあり、今見てもおしゃれで、いろいろに目を奪われた。

👩へぇ。

👨しかも、東京都庭園美術館の建物自体が旧朝香宮邸でまさにそのころの美しさを今に留めているわけじゃないですか。

👩なるほど。

👨展示には最適の場所でね。映えるというか。まあ、エゴン・シーレ展はそれとはちょっと角度の違ったその時代の展示だったりもして、両方見ることができてよかったのだけど。

👩うんうん。

👨今回の展覧会では最後の展示室で映画が上映されているのですよ。それが『人でなしの女』という映画で。

👩どんな映画?

👱しっかりと長編の無声映画なのだけれどね。1923年の作品なのかな。無声映画なのだけれどね。音楽はしっかりと入っていて、所々でフィルム自体を着色していてトーンがかわったりもするのだけれど、基本的にはモノクロ映画。リマスターはされているけれど。

👩面白かった?

👱最初は展示を見疲れて、腰掛けついでに入ったのだけれど。丁度始まるところだったしね。でも、見始めるといろいろに面白くて、そのうちストーリーを追わされるようになってやめられなくなった。

👩へぇ、私も観ようかなぁ。

👱じゃあ、内容は言わないでおくね。ただ元々は1923年にフランスで作られた映画で、1986年にそれを白黒着色サウンド版として復元したらしいのね。作成当時の最先端のスタッフが拘わって作られた映画みたいで、まあ、21世紀の私がみるとヒロインよりも彼女に使える劇場での世話係の方が魅力的やないかとか突っ込み所もあるのだけれど、当時としては極めて斬新な映画だったみたいで。ストーリーもちゃんとしているしね。たとえば無表情の召使いの表現とかまだ形になっていなテレビっぽいなにがしかなんかもおもしろかったし。

👩どのくらいの長さなの?

👱えーと2時間15分くらいだったかな。

👩ああ、しっかりとあるんだね。いいね。

👱うん。見応えがあるよ。

👩しっかり観ることができるんだ。

👱でね、そのテレビっぽいものも含めて今では絶対にありえないような、だけどあぁって思うような造形が山ほどあるのよ。

👩ああ、今では・・、というのはいろんな理由で撮れないっていうようなやつ?

👱撮れないというより、撮らない。あの、今だったらとんでもなくチープだけれど、それを思いっきりお金もアイデアもつぎ込んで作っているみたいな。

👩なるほどね。いいねぇ。良い出会いをしましたね。

👱まあ、偶然と言えば偶然だったのですけれどね。でもいろんな発見もあるから美術展は楽しいわけで。

👩うんうん。要検討ですね。そういえば一緒にいった歌舞伎の話はもうしましたよね。

👨はい。前回。ただ、それとは別腹で木ノ下歌舞伎は観てきましたけれどね。

👩ああ、そうですよね。その話を聴きたかったんだ。今回のお題はなんだったのですか?

👨『桜姫東文章』というやつでね。


あうるすぽっと

👩ああ、知っているというか聞いたことがあるなぁ。

👨とても有名な演目みたいでね。私は初めて知ったのだけれど。

👩文字で見るとあれだけれど、言葉で聞くと知っている気がする。で、どんな話だったのですか?

👨けっこう入り組んでいる話なので口で説明するのは難しいのだけれど。

👩そこを頑張って。例えば家の話なのか、国の話なのか、泥棒の話なのか。

👨えーとね。清玄という清い僧侶がいるのだけれど、大序のところで稚児と心中するはずが稚児だけ死んでしまうのね。で、そのあとに父や弟を殺されて家宝の刀まで奪われた桜姫が尼になりに清玄のところに来るのだけれど稚児が持っていた香箱を握りしめていたので、清玄は生まれ変わりだと思ってそこから破戒をして落ちぶれて、あげくの果てには桜姫に誤ってころされてしまうわけ。で、そこからあれやこれやあって、桜姫は家宝を取り戻し大団円みたいな。

👩なんじゃそりゃ。けっこうあちこち跳んだな。

👨『三人吉三』なんかでもそうだけれど、歌舞伎の筋立てをダイジェストにして説明するというのはめっちゃ難しいんだよ。いろんな因果が巡る話でもあるわけで。

👩ああ、なるほどね。歌舞伎だとそういう話ってどういう風にやるのかなぁって少しは想像もできるのだけれど、今回木ノ下歌舞伎はどんな感じでやったの。

👨岡田利規さんの脚本・演出でね。まず舞台上に幕があるのよ。常式幕ではないのだけれど、引き幕がどこか中途半端にあってね。

👩会場はどこだっけ。

👨あうるすぽっと。

👩ああ、そうか。

👨それで音楽もちゃんと今風なのが生で入ってね。主要なせりふはチェルフィッチュ風だったりもして、でも歌舞伎をそのまま引込んでいるような部分もあってね。ほら「さあさあ」というような感じのところってあるじゃないですか。そういうところは歌舞伎の語り口や身体だったりもするの。そして、その先にちゃんと物語の筋立てが残る。

👩そうなんだ。面白そうだね。

👨あと、今回は物語の外側にいる俳優から演じている俳優に大向こうがかかったりもするの。

👩へぇ、いいやん。

👨ただ、途中からけっこう崩れた感じもあってね。「ダルメシヤ!」みたいなのもあったし、

👩あはは。でも分からないよ。木ノ下歌舞伎さんも文化だから。新しく生まれた文化だからさ、そういう「ダルメシヤ!」とかいうのも後世に残るかも知れないし。

👨それはそうだ。清玄さんは殺されて終盤には幽霊になるのだけれど、その幽霊の表現がパチンコ屋とか量販店なんかによくある空気人形みたいなやつがあるじゃない。

👩ああ、あの空気でぶわぁーってなるやつ。

👨それに対して「ゆうれい!」とか声がかかったりしてね。そういう歌舞伎の雰囲気も舞台にあるのよ。

👩あははは。いいねぇ。今歌舞伎でも大向こうがかかるようにはなったのだけれど、まだ専門職みたいな感じになっているじゃないですか。

👨そうそう。

👩中の人が。

👨なんとか連がみたいな感じの方がエリアを定められて。

👩大向こうをかけるという。でもさ、ちょっと話は違うというか歌舞伎に戻ってしまうのだけれどさ、私たちが観に行った時の大向こうって正直あんまり上手じゃなかったじゃない。

👨あはは。まあね、確かに。

👩なんか、たどたどしくてさぁ。

👨まあ、タイミングは違っていなかったけれど、線が細かったというか。パワーが足りなかったよね。

👩足りなかったよね、やっぱり。もしかしたら、中のかたがわからないけれど交替でやっているのかなぁという感じもするけれど、パワーが足りないと、贔屓の方が魂を込めて大向こうをかけるのとは違うよなぁというのが伝わってしまうよなぁって。

👨それはそうね。

👩あんなに弱々しい大向こうって初めて聞いた気がする。

👨まあね。

👩良いところで大向こうが掛かるようになったのは嬉しいけれど、なんか前とは違うなぁという感じてしまって。やっぱり好きという力って大事ですよ。

👨まあ、時節柄というか躊躇いがまだ残っているのか、あるいはほら、キャリアみたいなこともあって、もしかしたらその方は近くでみるとまだわかばマークがついているかもしれないじゃないですか。

👩そうかもしれない、うふふ。

👨まあ、そうは言ってもタイミングはここぞというかんじにぴったりだったから、お芝居は生きましたけれどね。

👩うん。まあ。あとさ、前にもいったけれど、あの横の桟敷席だっけ。今はまだ3部制の好演だけれど2部制だったらめっちゃ高いのでしょ。いくらだっけ、3万円くらいするのだっけ。

👨えーと、コロナ前の2部制のころのチラシのアーカイブを見ると・・。ああ、24000円という公演がある。でも、イヤホンガイドを借りて、筋書きを買って、そこに4000円のお弁当を届けてもらうとやっぱり30000円にはなるね。

👩今はいくらだっけ。

👨えーと、私たちが観た公演は18000円かな。

👩でもさ、それって普通の平場の席とそんなに変わらないじゃない。もっと高かったんじゃないの?

👨いや。でもさ、それでも二人で行ってお弁当を食べてという感じにするとそれで44000円なわけで。安いパソコンくらい買えてしまう良い値段だよ。

👩そう言われると高いね。

👨うん、良きにつけ悪しきにつけ高い。

👩でも、やっぱり一度はあそこで観てみたいなと思うよね。

👨なるほど。ただ、聞いたことがあるのだけれど、あそこが一番観やすい席かというと必ずしもそういうことではないみたいだよ。

👩そうだね、だって横からだものね。

👨うん。

👩この前は私たちも平場の良い席だったので、珍しく。平日だったからかな。確かに舞台が全部見えるフラットな席の方が観やすいよね。正面から観ていて。

👨まあ、横に設えられた席には独立性があるというか。海外の劇場なんかにもそういうスペースってあるじゃないですか。高貴な方がお座りになったり、お金持ちがお忍びでこられたりするようなボックス席というか。

👩うん。たとえば相撲でも枡席ってあるじゃないですか。それも高いっていうけれど、ああいう形でさ、一度観てみたいなぁって思う。昔ながらのさぁ、フラットな席よりも自分のペースで座ってご飯とかお弁当とかを食べながらもいいなぁって。今でもご飯は食べられるけれどさ、幕間にお弁当を食べることができるようにはなったけれどさ。なんというか、せわしないというか。うん、せわしないなぁと思うのですよね。

👨まあ、桟敷席だと落ち着いてみることができるかもね。コロナの前の2部制のころは、多分今より結構通し狂言の興業があった気がするのですよ。

👩あぁ、通し狂言。

👨しっかりとした演目でそれをやろうとするとやっぱり半日くらいはかかるのだとおもうのね。そうすると独立したスペースでゆっくりというのもいいなぁとは思う。まあ、今回木ノ下歌舞伎で観た『桜姫東文章』なんかでも歌舞伎座でやるとそうだとおもうのだけれど。

👩そうねぇ。

👨忠臣蔵なんてまともにやったらそれこそ1日がかりでしょ。

👩うーん。それで終わるのかなぁ。

👨流石に1日で終わるボリュームだとはおもうけれどね、知らんけど。

👩うちの母は忠臣蔵が好きで、三月大歌舞伎で十段目をやるじゃない。チラシを見せたらすごく行きたがっていた。

👨なるほど。

👩見せてあげたいけれど。どうせ見せるなら良い席で見せてあげたい。

👨それでは頑張って16000円稼ぐのだ。

👩うふふふ。まあ、行けないことはないよね、今は。三部制の良いところというか少しおやすくなっているだけでもありがたい。

👨そうだよね。

👩そういえば、昔コロナの前に、2部制の昼も夜も歌舞伎を観たことがあったじゃないですか。通し狂言ではなかったけれど。

👨あぁ、ありましたね。

👩あの時はもうへとへとになりましたよね。マラソンをしたみたいに疲れた。もう腰が爆発するかと思いました。

👨観終わった時には愚痴やためいきまでが歌舞伎仕立てになっていたような気がする。「やれ、つかれたなぁ」みたいな。

👩うふふ。おもしろかったけれどね。歌舞伎の中でもいろんなものがあるじゃない。

👨はいはい。

👩中には舞踊劇みたいなものもあって。観ているよ、もちろん。だけど、あの、ちょっと好みに合わないものもあるわけですよ。その時はさすがに一瞬かくんとなったものね。

👨それはね。

👩うふふふ。眠いってなって。

👨あの、良い音楽とか表現って心地よいから寝ちゃうことってあるしね。

👩そうそう。なんか言うじゃない、たとえば喬太郎さんとかを落語好きな人とかが聴きながら寝るなんていうのはものすごい贅沢だって。もちろん聴けばおもしろいから聴くのだけれど、要はさ、すごく心地よい上手い落語家さんになればなるほど、退屈するから寝てるとかじゃなくて、あまりにも耳にはいってくるものが心地良すぎて、もうなんていうの、リラックス効果も上がっているし、楽しいし幸せだし、心地良いしで。

👨うふふふ、特に噺に入ると緩急も巧みに流れるように語るしね、喬太郎師匠なんて。

👩いやぁ、ほんとうに。寝たくなんかないですし、寝ないよ。本当は寝ないけれど、もったいないしね、しっかり聴きたいから。寝ないのだけれど気持ちはわかる。落語がお好きな方がこっくりしていらっしゃるのを観ると。

👨稀にだけれど気持ちよすぎてひっくり返りかけていらっしゃる方もいますよね。そこまででなくても気持ちよさそうに頷いていらっしゃる方ってお見かけするし。喬太郎師匠の高座に限らず。

👩うふふふ、そうそう。噺家さんも起こそうとしたりしてね。そうと直接は言わずにそこは声を張ったり話芸の緩急で観客を揺さぶったりして。

👨あはは。でも、観る方もさるものでね、そこはさりげなくうなずいて反応しておいてまた自分の境地にはいるなどという高等技術を身につけているかたもいらっしゃるし。

👩すごいよなぁ。

👨あとね、話は変わるけれど、FUKAIPRODUCE羽衣も観てきました。


本多劇場

👩ああ、どうでした?

👨ここは公演がちょっとあいたのですよね。コロナのことなどもあって。

👩はいはい。

👨で、その間に更に熟したようにも思えて。一時期の感じに戻ったというか原点回帰したような感じもあったのだけれど、私的にはここ4~5年の公演の中では一番好き。

👩ああ、ほんとに。毎回おもしろそうだけれどね。で、どういう話だったのですか?

👨お話はね、「日本の劇団羽衣」という劇団が演劇を作るところから始まって、それが日高さんと深井さんがいろんなごっこをやっていたという話になって、それがふたりの人生というかいろんなことをする人生になって、さらにそれを宇宙から観ている視線があるみたいな。

👩へぇ、なんかそれってめっちゃおもしろそうじゃないですか。

👨うん。その中にいろんなFUKAIPRODUCE羽衣の表現の引き出しが研がれ織り込まれていてね。観ていて一曲ずつ違って飽きない。歌にしても身体にもしてかれらがこれまでに積み上げてきた良さがいかんなく発揮されているというか。で、その宇宙人のひとりを演じていたのが、あの、土屋神葉さんって覚えてる?

👩つちやしんばさん?

👨まえに一緒に観た木ノ下歌舞伎の『摂州合邦辻』再演にご出演の。凄く切れのいいお芝居で、あの俊徳丸だっけ、演じられていた。

👩・・ああぁ、俊徳丸、はいはい。

👨なんでも土屋太鳳さんの弟さんみたいですよ。

👩えーと、いまぐぐってみたのだけれどそっくりですね。

👨彼は今回の舞台でも目を引くというか、本多劇場の広さをものともしない圧倒的な切れで。

👩へぇ。

👨でね、作品からは、やっぱり糸井幸之介さんの描くものからは、彼の生死観というものが伝わってくるのですよ。

👩はい。

👨人が生きて死ぬ間に様々なことを夢中で楽しむ時間があり、それを懐かしむ時間があり、満ちながら滅失していく歩みがあるみたいなね。今回もそれがあざとくなく、わくわくと、しっかりと観る側の実感となって伝わってきた感じがするのだよね。一時期それが死の方に傾げたり生の輝きに滲んだりしたこともあったのだけれど、今回はほんとうにその両方を俯瞰できるような作品だったと思う。

👩うんうん。

👨なんというか、糸井さんの抱くものがひとつ結実した形ではなかったかとも思って。もちろんそれで歩みを止めるということはなくて、そこからの更が絶対あるような気はするのけれど。

👩なるほどね。

👨今年はまだ何度か劇団としての舞台も予定されているみたいで。以前の作品の再演もあるみたいだしね。

👩へぇ、なにを再演するの?

👨まずは『女装、男装、冬支度』の再演があるみたいですよ。

👩ああ、それめっちゃ観たかったんだよね。再演があるんだ。行こうっと。

👨是非是非。というか私が劇団の回し者みたいになってしまっているけれど・

👩うふふふ。

👨あとね、もう一つぐらい観たものの話をするとすれば、たしなめの『擬娩』かな。こまばアゴラ劇場でやっている。


こまばアゴラ劇場

👩はい。

👨これは初演も観ているのだけれどね。

👩ああ、そうなんだ。

👨京都のE9でね。

👩はいはい。

👨女性が日常の周期から妊娠をして、悪阻があって、安定期があって、途中には子供と母親の身体の内での対話みたいなものも描かれるのですよ、

👩へぇ。

👨で、最後は分娩まで描かれるのだけれど

👩ああ、なるほどね。そういう「擬」か。このタイトル。模擬の「擬」ね。

👨そう。それと分娩の「娩」なのだけれど。実際に未開の社会には妻が出産の床にあるときに夫が床について同じ苦しみを演じるという風習を持ったところがあって、それを「擬娩」とも呼ぶらしいのだけれど。それがね、舞台上の身体って時には様々なものを体感として観る側に渡してくれることもあるじゃないですか。で、本来男性が体験したことも体験のしようもないことだし、知識としては知っていてもそれを客観視するしかないものなのだけれど、舞台上で、しかも今回座組が男性3人女性1人の構成で、その男性がそれこそ「擬娩」を演じると、それも繰り返しいろんな状況をもって演じられると、概念の箍がすこしずつ外れてやがて観る側の体感をひっぱりだしてくるというか、観る側の脳での感覚につたわってきたりもするのね。たとえば悪阻とかさ、

👩へぇー。体感として受け止められたような、その、呑み込みやすいじゃないけれど、いままでと少し違った感じで受け取れるということ?

👨今まで舞台で感じているものとは明らかに違ったね。

👩それはすごいじゃないですか。

👨うん。

👩どういう状態になるのか私も凄く気になるけど。

👨悪阻のシーンとか、いろんな場面で嘔吐がやってくることを俳優たちが表現していくのだけれど、観ているうちにその設定を聞くごとに自分にもえづく予感がやってくる。ましてやの分娩の苦しみでね。

👩どんな舞台なのかめちゃめちゃ気になる。映像とかあるのかなぁ。

👨映像とかはなかったと思う。

👩配信はしていたのかなぁ。

👨配信もしていなかったんじゃないかなぁ。

👩なんか勿体ないなぁ。

👨というか映像に落とすのがちょっと難しい部分もあると思う。ただ、この作品は3演目なんですよ。初演の時とも何人か入れ替わっていたし。再演の時には違うメンバーでこの作品をとりあげたみたいだし。

👩ああ、それじゃ、またやるかもしれないですね。

👨うん。で、初演で観た時には、やってくるものがまだ概念の域だったのが今回はかなり印象が変わったので、これが更に歩んだらどのようになるのかなぁという期待や恐れがあるのだけれどね。たとえば悪阻のことにしても、そのえづくということが初演の時にはそういうものかくらいで観ていたのが、なんだろ、さっき言ったみたいになんとなくわかってきてしまうような部分があって。ああ、こういう感じなのねって。

👩なるほどね。でもわかってるとは言えないよ。経験をしないで理解をしているとはいえないけど。

👨それは、そうだけれど、少なくとも前とは違う。

👩それは自分の中で受け止めたということでしょ?わかるということじゃない。それは男性では経験しえないものだし、女性だって子供を産んで経験するとは限らないことだし。

👨うん。

👩ただ、体感をもってというのは、そのそういうぜんぜん掴みどころのないものが見えるということは、それは演劇ならではだね。

👨そうだね。少なくともあの舞台を見なければ、そういうことがあるのかもということさえ一生わからなかった。しかもその訪れ方が初演とは違っていたしね。

👩だから3演目になるんだよね。へぇ、また絶対やってほしいね。

👨うん。

👩学校とかでもやるといいのにね。

👨あぁ、そうだね。まあ。和田ながらさんというのは、たとえば和多田葉子さんの世界を舞台に乗せたりとか言葉をばらしたりとか。演劇でしか見えないものを舞台に乗せることにはたけている方なのでね。まあ、鳥公園の構成員の方だし注目もしているのだけれど。今回の公演、私は割と最初の方に観たのだけれど、そういう評判はいろいろに広がるじゃないですか。公演の終盤は一気に満員御礼になってしまったみたいで。

👨でもさ、今回の公演にしても、ちょっともったいないよね。小劇場というのはある意味宣伝力が命だともおもうのね。それが弱いとこうやって頭ひとつとかふたつとか抜けている団体でも多くの人には伝わってこない。私もこの界隈で活動をしていたときには、全然なんにもしなくてもそういう情報がどんどん入ってきたし取れていたのだけれど、私ツイッターのそちら関係のアカウントを整理したんですね。

👨えーと。

👩ツイッターを一回閉めたのよ。整理したの。そうしたらなにも入ってこなくなってしまって。

👨えぇ、あらあら。

👩また何かをやるにしても新しくしようかと思ってさ。美術展とか芸術展とか博物館とかさそういう情報は普通に入ってくるのだけれど、舞台の情報が全く入ってこなくなってしまって。

👨それはねぇ、それでなくても今の状況自体が昔とは違っていて。私も、別になにをやめたとかいうわけでもないのに、昔に比べたら欲しい情報が入ってこないもの。

👩ああ。でも、もうちょっとなにかないのかねぇって思っちゃう。

👨なぜかわからないけれど、情報が入りにくくはなっているのですよ。

👩ほんと。うんうんって、なってる。

👨私なんて、前から好きだったマチルダ・アパルトマンの公演なども、ぎりで気が付いたからよかったけれど、あやうく見逃すところだったもの。


下北沢オフオフシアター

👩あぁ。

👨それだってツイッターが流れていく中で、偶然ご出演の知り合いがツイートしているのを観て慌てふためて予約をしたという感じだったものね。

👩なんかさ、エンタメが増えたからね。いろんな形というか媒体などもそうだし。

👨そのマチルダ・アパルトマンも面白くてね。『生活と革命』という5編の短編集なのだけれど、全体として派手な部分はなにもないのよ。

👩うん。

👨ぶっちゃけね、派手な感じはしない。でも作品のひとつずつが個性をもって物語に編みあがり伝わってくるし、それぞれの解け方や顛末があるし、終わってみればどれも優劣がつけがたく、全部がおもしろいって思えるんですよ。

👩へぇ。

👨手作りの温かさもあって。繋ぎなんかも出演者のうちの二人がピアニカやグロッケンやギターを演奏しているあいだに他の出演者が暗転させることもなく場転をするみたいな感じでね。

👩うん。

👨でね、なにか派手だったり目立つ切っ先をもっている舞台って、SNSでも騒がれるし、評判も広がりやすいし、興味も引きやすいのだけれど、そういう派手さはないけれどとても心満たされる面白くて良い舞台というのもあるじゃないですか。中庸なトーンの作品って評判が伝わりにくい側面もあると思うのですよね。マチルダ・アパルトマンの舞台なんてまさにそれで。観劇の通の方はもちろんお芝居をみることのあまりない方にもおすすめの舞台だったとおもうのだけれど、私が気づいた段階ではそういう広がり方っていまひとつしていなかったように思う。今回はオフオフだったけれど、もっと評判になって次はお隣の駅前でということもありのような舞台に思えたのだけれどね。

👩そうだね、考えてしまうよね。そんなに良いものがあるのに。ちなみに今後はどんな舞台がありましたっけ。

👨良い舞台がたくさんありますよ。Mrs,fictionsは鐵板で面白いだろうし。

👩ああ、Mrs.fictionsは見たいんだよなぁ。オイスターズが気になるし。

👨私もオイスターズはこの間王子小劇場で観てファンになりましたしね。あと巷ではキャラメルボックスの参戦が話題になっているし。

👩うんうん、どんな作品になるのだろうか。

👨あと小野寺ずるさんもご参戦で。

👩ああ、彼女は天才だものね。

👨それからあの名作『上手も下手もないけれど』も観ることができるみたいだし。あと、ナイロン100℃の舞台もあるでしょ。

👩はいはい。そちらも面白そうだね。

👨こちらは会場がザ・スズナリなのだよね。

👩へえ、そうなんだ。

👨今のナイロン100℃がザ・スズナリでやるというのにもちょっとびっくりじゃない。

👩うん、凄い。

👨あと鵺的もあるし。

👩ああ、あるね。鵺的は凄く昔に観た記憶があるなぁ。

👨今度の鵺的はチタキヨを米内山陽子さんまで含めて取り込んでしまったようなキャスト構成で。寺十さんがどんな演出をするのかもとても楽しみだし。

👩うんうん。

👨ほかにも、それはもう多々ありますので。皆様も是非にまた忙しく観ていただきたいなぁと思いますけれど。

👩あははは、はい。

👨さてと、いろいろととっ散らかってお話をしましたけれど、今日はこのくらいにしましょうか。

👩そうですね。

👨それでは演劇のおじさんと

👩おねえさんでした。

👨寒暖の差が激しい毎日が続きますが、皆様お体に気をつけて。

👩お過ごしくださいませ。


東京都庭園美術館



(ご参考)


・毒展

2022年11月1日~2023年2月19日@国立科学博物館

2022年3月18日~5月29日@大阪市立自然史博物館


・交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー

2022年12月17日~2023年3月5日@東京都庭園美術館

『人でなしの女』

監督・脚本:マルセル・レルビエ

脚本 :ピエール・マッコルラン

1923年フランス映画


・木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』

2023年2月2日~12日@あうるすぽっと

作 :鶴屋南北

監修・補綴:木ノ下裕一

脚本・演出:岡田利規

出演:成河、石橋静河、武谷公雄、

足立智充、谷山知宏、森田真和、

板橋優里、安部萌、石倉来輝


・FUKAIPRODUCE羽衣

『プラトニック・ボディ・スクラム』

2023年2月9日~12日@本多劇場

プロデュース:深井順子

作・演出・音楽・美術:糸井幸之介

出演:深井順子、日髙啓介、鯉和鮎美

澤田慎司、キムユス、新部聖子

岡本陽介、浅川千絵、田島冴香

平井寛人、村田天翔(以上、FUKAIPRODUCE羽衣)

土屋神葉、伊藤昌子、西田夏奈子、

岩田里都(シラカン)、宇田奈々絵

奥山樹生、中井宏美、牧迫海香


・したため『擬娩』

演出: 和田ながら

美術: 林葵衣

出演: 石原菜々子(kondaba)、岸本昌也、

中筋和調(うさぎの喘ギ)、三田村啓示


・マチルダアパルトマン『短編集 生活と革命』

脚本: 池亀三太

演出: マチルダアパルトマン

音楽: 大垣友

出演: 松本みゆき、 坂本七秋、 大垣友

小久音、 久間健裕、 葛生大雅

冨岡英香、 樋口双葉

(以上、マチルダアパルトマン)


(今後のお勧め)

・Mrs.fictions presents

15 Minutes Made in 本多劇場

2023年2月22日~26日

参加団体 :

演劇集団キャラメルボックス

ブリーズアーツ

オイスターズ

ロロ

ZURULABO

Mrs.fictions


・ナイロン100℃『Don’t freak out』

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

出演:松永玲子、村岡希美、みのすけ

安澤千草、新谷真弓、廣川三憲

藤田秀世、吉増裕士、小園茉奈

大石将弘、松本まりか、尾上寛之

岩谷健司、入江雅人


・鵺的『デラシネ』

2023年3月6日~3月12日@新宿シアタートップス

脚本: 高木登

演出: 寺十吾

出演: 小崎愛美理、堤千穂、とみやまあゆみ

(以上、演劇ユニット鵺的)、

高橋恭子、田中千佳子、中村貴子、

米内山陽子(以上、チタキヨ)、

川田希、木下愛華、未浜杏梨、

佐瀬弘幸


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