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背中を押すという、おせっかいな楽しみ

「これって、電子レンジにはだめだよね?」
「はい。冷酒用です」
「どうしようかな」
手にとった片口酒器を眺め、肌合いを見て店員さんに尋ね、少しの間をおいて元の棚にそっと戻した。
これだけです。

酒器の前を離れたとたん、隣にいた60代の男性がそれを手にとってお勘定場に行きました。彼の背中をうまく押せたようです。

近所の公園で開かれている「大陶器市」、各地からトラックで集まり1週間店を出している。通路を挟んで両側に50-60mほどのテントが並ぶ。笠間、益子、信楽、織部、備前、砥部、有田、伊万里など特徴があって見るだけでも楽しい。

片口酒器、それも素朴なものが欲しくてテントを端から順に覗き見した。茶碗や皿、酒器も数多くあるのだが、目的の片口は数えるほどしかない。10㎝φ、高さ5-6㎝、薄手の笠間焼。薄いブルーと白の濃淡のある釉。候補のひとつだった。

純米酒のぬる燗、2合徳利で30秒のチン。ひとりで飲むのにはこれが便利です。水で割った焼酎もこれでOK。ただ、徳利の口が小さいので注ぎ入れにくいのと、入れた量がわかりづらいのが気になっていた。薄手の広い片口酒器がほしかったのです。

順にひととおり回って、目をつけておいた先の笠間焼のお店に戻ったところに、夫婦連れの客があの酒器の前にいた。手にとってほかのと見比べ、少し逡巡しているようです。

先に買われてしまうかな?

釉に銀粉を混ぜたと説明書きにありました。
じゃあ、電子レンジには使えないじゃない。大きさと形、色は気に入ったのだが、手触りがもうひとつだったのでどうしようかと思ったところ、ふっ切れました。やめておこう。

あのオジサンの背中を押してみようか。

彼がいったん器を棚に戻し、となりに移ったところで冒頭の行動をおこした。

「これ気に入ってたんだよ」
お勘定場でオジサンがお連れに話しているのが聞こえました。

今日の背中押し、うまくいきました。
笠間焼店のサクラではありません、念のため。