若芽の緑
3月20日すぎ、サクラが満開だと聞いて、小石川植物園に出かけた。今年は開花が早く、樹によっては葉芽が出始めているものあった。花が終われば、5万坪弱の都会のオアシスは新緑の季節を迎える。若芽が大きくなって緑が濃くなれば、たくさんの二酸化炭素を吸収してくれる。
▼植物は光のエネルギーを使って、二酸化炭素からグルコースのような炭水化物を合成する、光合成だ。主な仕事場は葉っぱ、緑色をした葉緑素がこの働きの主役だ。葉緑素があるから葉っぱは緑色に見える。
▼太陽光は単色じゃない。虹のように7色の光の波長をもっている。葉緑素は主に青い光の領域(波長では400-500 nm)と赤い光の領域(波長では600-700 nm)の光を吸収し、それを使う。青と赤の間にある緑の領域(波長では500-600 nm)は要らないので反射させ、葉緑素は緑色に見える。青と赤は吸収されてしまって見えない。
▼世界約150カ国で10億人超のユーザーを持つ中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」に対して、米下院のエネルギー・商業委員会が個人情報の取り扱いについて公聴会を開いた。TikTokを介して投稿したり閲覧すれば、見える映像や音楽が話題になる。ところが投稿や閲覧には見えない情報がたくさん含まれているのだ。緑色に見える葉っぱの裏で、葉緑素が緑以外の波長を吸収したのと同じように。
▼TikTokは、短い動画を簡単につくれ、音楽が付属してジャンルも広い。バズって有名になれると若者に人気があるという。投稿した動画は世界中に拡散し、TikTokを介してつながる。同時にその裏ではたくさんの個人情報が蓄積される。
▼公聴会のロジャース委員長(共和党)はTikTokの周受資最高経営責任者(CEO)をこう非難した。「TikTokは私たち全員を監視し、中国共産党は米国全体を操作する道具として利用できる。禁止されるべきだ」。「TikTokは人々の位置情報や何をタイプし、コピーしたか、だれと話したか、生体データなど想像しうるほぼすべてのデータを収集している」と(毎日新聞)。
▼GAFAだって見えない情報(個人情報)を利用して商品のPRや情報の誘導をしている。でも、中国バイトダンスの子会社であるTikTokは、中国政府が命令すれば収集した個人情報を開示しなければならない。中国は国家安全法で、「国家の安全に危害を及ぼす活動の手がかりの報告」をすべての国民、団体に対して義務づけている。これが問題なのだ。
▼サクラの若芽の色に若者の情報発信の色が重なった。若々しい緑色の波長を反射している裏で、人知れず仕事をしている波長がある。