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☆#59『話を聞かない男、地図が読めない女』アラン・ピーズ&バーバラ・ピーズ

 今更ながら。
 なぜこの書物を持つことなく人類は二千年の長きを生きてきてしまったのか? そう思えてならないほど核心をついた本。私たちに世界の本当の姿を教えてくれる本。ああ、そうだったのか、と大袈裟ではなく「すべてが」分かる。人生のあらゆる謎に説明がつき、辻褄が急速に合って乱れた人生風景が焦点を結ぶ。とんでもない本である、これは。何度大笑いしながら読んだかしれない。声を上げて笑うほど面白く、笑い過ぎて泣いた。
 論旨。
①男と女はそもそもの構造上、思考と感情の回路に大きな隔たりがある。
②男:一度に一つのことしか出来ない。空間能力が高い。情緒より成果を重視する。女:一度に複数のことが出来る。空間能力が低い。成果より情緒を重視する。つまりあらゆる点で丁度反対になっている。
③しかし男女共に、相手に「自分と同性の行動パターン」を求めるため、永遠に理解し合えない。
④この点を理解し主として男が女に合わせれば、全ては上手く行く(はず)。

 タイトルにある「話を聞かない男」というのは、「同時に一つのことが出来ない」ということを表している。男は何かの作業や考え事や観察をしながら話を聞くことが出来ない。これは脳の構造上の問題。

 男の脳は左右の連絡が悪く、しかも用途ごとに細かく区分けされているので、一度に一つのことしかできない。-79

 別に「だから劣っている」という話ではなく、太古において狩猟を担当した男にとって重要な能力は「集中力」だった。集中するには他の情報を排除しなければならない。今は男女共に明確な枠割分担はどんどん減っている。しかし私たちの構造上の傾向は太古から何も変わっていない。
 狩猟には成功不成功、つまり勝ち負けが明確にある。だから男は闘争心が強いし、メンツを失ったら俺はおしまいだ、みたいな意地から自由になれない。そして狩猟において、今自分がどこにいて、獲物はどこにいて、これを投げたらどう当たるか、帰るべき村はどこにあるか、みたいなこと、つまり空間能力は必須である。だから男には宿命的な性質として「男らしさ」「勝ち負け」「空間把握」「集中」というものが一体になっており、それはホルモンと一致している。

空間能力と引き換えに、禿げ頭と髭づらになる。女には高すぎる代償だ。-167

 私自身の経験から言っても、女性は地図が読めない。女性に地図を読めるようになれと言ってはいけない。それが叶うと男になってしまうから。
 姉とドライブすることがある。道案内を頼んだことがある。真逆の方向を指示した。それが一日で二三度あったので、もう頼まなくなった。
 本書でたびたび出てくる戯画として、女性は地図をくるくる回す。グーグルマップもくるくる回る(あれは女性の意見を反映してのことらしい)。私はあれが嫌なので北=上で固定する。逆にどこを走っているか、どこに向かっているか分からなくなるから。「普通の男と違って女心が分かる人」と言われることもある私だけれど、ちゃんと男っぽかったんだなあと理解した。
 ところで、そのくせ姉は「あぶなーい!」とか「そこ!右」とか言う。分かっとるわい、と思うのだが姉は口を挟まずにいられない。助手席で地図を見ながら道案内を間違える、しかし運転の口出しをする――普通、これは喧嘩の元になる。私たち姉弟の場合は、ならないけれども。私が寛容なので。

 男がナビゲーター役を女に頼むのをやめる。こうすればみんな末永く幸せに暮らせるはずだ。女が男の運転を批判しなくなれば、喧嘩はもっと減るだろう。-169

 こんな当たり前の日常の風景の中に、人生の真理が常に隠されていたなんて…という感じである。私たちは何と多くの機会を蒙昧の内に過ごしていることだろう。違いを気付かせるチャンスは山のようにあるというのに。

 その先天的な男女差がいつ始まるのかと言うと、最初からなのだそうだ。

 生後数か月までの赤ん坊を調べると例外なく一つの事実が明らかになる。男の子はモノに、女の子は人に興味を示すのだ。-173

「モノ」は形を示している。だから男は宙に浮いている思いはとりあえず形にしようとしたがる。女が目的もなく話を始めると、男は解決策を提示する。女は解決策を求めていない。聞いてもらえれば良いだけ。男には仰天の発想だが、私も最近ようやくそれが分かってきた。
 信じがたいことだが、姉が三人もいる家に生まれ育ったというのに、私は女性たちに解決策を提示し続けてきた。男はやはり頭が悪いのかもしれない。この間も、泣きながら電話してきた女友達に「じゃあこうしたら?」と言っていた。

 重圧を受けている女は何も考えずに喋り、男は何も考えずに行動を起こす。だから刑務所に入るのは9割が男で、セラピストにかかるのは9割が女なのだ。-196

「男の客は少ないんだよなあ」なんて思っていたセラピストの私、全然分かっていなかった。男の顧客数が増える見込みはないし、増える必要も全くないということがよく分かった。
 
 全ての人が読むべき本であると思う。夫婦・恋人はこの本を読めば絶対に相手に寛容になれる。これから恋をする人、今誰かに思いを寄せている人も読むべきだ。自己破滅的な願望を持つことを自制させてくれるから。無理なことを相手に求めなくなる。人生に対して朗らかな心を持てるようになる。喧嘩の回数は減るだろうし、離婚の可能性もぐっと低下するだろう。余計な諍いやストレス解消にエネルギーを浪費させることを防ぎ、より充実した人生を生きられるようになるだろう。
 こしき選書入りです。

 






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