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『中卒歓迎』第14話

幸次郎!おい!


唯人が幸次郎の肩を掴む。


幸次郎は振り向かない。



おい!幸次郎



唯人が、幸次郎の服を掴んで振り向かせる。




ちゃんと説明しろ!




唯人・・


間違いなんだろ?



……。



おい



どう、思う?



やってねぇだろ?




唯人はどう思うんだよ




やってねえよ。お前は




疑ったろ?唯人も




いや。相手は鈴木だろ?




・・・。



鈴木だよな。お前が組んでたの




関係ねえだろ




鈴木は、俺たちと同じ経営学部。第1ステージにも居た。
鈴木とは、高校からつるんでたもんな。バイトでも塾でも。




どんだけ見てたんだよ








幸次郎が話の腰を折るように、スマホを見ようとする
唯人がまた背中を引っ張って振り向かせる。



幸次郎!



痛ぇって・・




お前は親のコネは使っても、金は使わない。だからオレより金持ってない




ふん




お前は高校からバイトしかしてない。オレは知ってる




遊ぶ金欲しかっただけだよ




お前は親から金を貰わない。自分で稼ぐ。授業料もコンパ代も。だから、高校の時からずっと鷺宮物産の翻訳のバイトをしてた。だろ?




隠れてやってたのに知ってたんだな




授業中ずっと英語の資料を見てたろ。あれバイトだよな。みんな知ってんだよ。先生もみんな。お前が鷺宮だから何も言わないだけ。




だったらなんだよ




鷺宮家の金を一円も使わないお前が、手切れ金なんか払うわけがない。そんなもん払うぐらいなら、お前は鈴木をブン殴ってる





暴力か金かって言いてえの?





鈴木に金を払う理由があるんだろ。借りてたのか?




・・・・




どうして言わないんだよ



言ってもしょうがねえだろ




幸次郎の顔を覗き込む。
遠くから唯人を見ているメンバー。




幸次郎。チームはどうすんだ?





唯人は?




お前に聞いてるんだよ




唯人以外で見つけるわ




そう言うと思った




だったら、もう行けよ





助けなくていいんだな




いらね。自分でなんとかする




またそれかよ。何も変わらねぇぞ




変わる必要ねぇし




幸次郎がスマホをいじり出す。




じゃ。行くからな





唯人が自分のチームの方に歩いていく。
唯人が振り返る。






幸次郎。




何があったかは知らね。でも、あのおっさんに全部話せ。
オレに話さなくてもいい。アイツにだけは話せ。





・・・






お前もJOIに入りたいんだろ?だから残ったんじゃねえのか




別に



アイツらに好き放題言われても黙ってた。今までのお前ならボロクソに言い返して、とっくに他に行ってる





JOI。俺は絶対に入るぜ。実家はもうギリギリだ





そうなのか?




あぁ。倒産寸前だよ





・・・。受かれよ。この会社






いいか幸次郎。全部話さないと、アイツはどんな手を使ってもお前を落とす。1日しかないんだぞ





(幸次郎が、スマホを見ているフリをする)




全部話さないと、オレのチームにだって誘えないんだぞ!メンバーが納得してくれない。頼むからちゃんとしてくれ!





別に入りたくねぇし






よく考えろ幸次郎。LINE待ってるぞ




愛理と理亜のところに、萩山と小花がやってくる。




柳沢さん、無田さん。私、金井です。こちらは萩山くん。




わぁ!金井さん!さっきすごかったね!かっこよかったよ。ね、理亜!




うん



萩山くんの資料のおかげ。お二人のプレゼンも素敵だったよ




本当? でもアイツに「通したくない」って言われちゃったよ




あ~!あんなん無視無視!嫌味ばっか。あんなの気にしないでいいよ




でも、気にしちゃうよね。自分もいっぱい言われたんで。「苦痛だ」とかって。凹むよ




萩山くん。具合はどう?




もう大丈夫。人前で話すときだけだから



ぼくも二人みたいに、話すのうまくなりたいよ



愛理ちゃん、理亜ちゃんって呼んでいい?



オッケ!いいよね?理亜?



・・・うん



私のことは小花って呼んで




わかった



ねぇ愛理ちゃん。理亜ちゃん。私たちと組まない?





え! いいの?!




頼んでるのこっち!




いいに決まってんじゃん!ね?理亜!



・・・ごめん



どうしたの?理亜




私。2ステは、他の人と組む



え!どうして!?



ごめん。もう決めたから。3人ならきっといいチームになるよ。お互いがんばろ!じゃ



理亜がカバンを持って3人に手を振る





理亜!待って!ちょっと待ってよぉ




理亜が振り向かず、そそくさと会議室を出ていく。
理亜が廊下に消えていく




どうしちゃったの。理亜・・



ごめん。私が強引に勧誘しちゃったから




そんなことないよ。理亜は人見知りなの




そう?ちょっと怒ってるみたいだったから…



たぶん、今日は疲れてるだけだよ。あとで話しとく。理亜も一緒のチームになると思うよ!



ならいいけど



心配しないで。私が言えば大丈夫だから



わかった。今日からチームだね!よろしくね!愛理ちゃん




こちらこそ、小花!



愛理ちゃん。よろしく!


よろしく。萩山くん!



笑顔で握手をし合う3人。




廊下を走る理亜。
唯人が理亜を追いかける。



理亜ちゃん! 理亜ちゃん!


馬場くん?



足はやっ!



どうしたの?



理亜ちゃん、オレのチームに入ってくれない?



私が?馬場くんのチームに?




うん! だめかな?



私、2ステは愛理と組まないんだけど




そうなんだ




組みたいのは、愛理だよね?




どっちも組みたい!




愛理は、もう他の人と組んだよ



理亜ちゃんは、今ひとり?



うん。



だったら、俺たちと組もうよ!



もっと大所帯になっちゃうよ。11人だよね?馬場くんのチーム



おれたちも、適当にバラけることにしたんだよ。理亜ちゃんと同じ。




もったいない。抜群のチームワークだったのに





大人数は短期決戦ならいいけど、ずっとはきつい。いろいろあるから




そうなんだ





それに、2ステは何を仕掛けてくるかわからない。同じチームが有利になるような課題は出してこないと思う



馬場くんってホントに先を読む力がすごいよね




理亜ちゃんの観察力が加わったらもっとすごくなる。チームに入って!



私、中卒だけど。いいの?




そんなこと、もう誰も気にしてないよ




そうかなあ




オレの後ろ見て



参加者たちが、理亜にアイコンタクトを送っている。




後ろにいる人。みんな理亜ちゃん狙いだよ。ここでリリースしたら理亜ちゃんを取られる。オレ、ここ落ちるわけにはいかないんだ!オヤジの商売が倒産寸前で。だから頼む!組んで!




(倒産…。私と同じ)




ホントに私でいいの?




もちろん!お願いします!




わかった




ありがとう!!!!





握手をする理亜と唯人。

二人の握手を見て、悔しがる参加者たち。





理亜ちゃん!ありがとう!


よろしくね。馬場くん




今からメンバーに理亜ちゃんを紹介する!みんな喜ぶよ




馬場くん。あのさ・・・


なに?



鷺宮くんは?同じチーム?



一応声は掛けたんだけど…入らないってさ。
それに、いまの幸次郎じゃ、メンバーが納得しないし。




そっか。大丈夫かな?鷺宮くん




そうなんだよ。俺、ちょっと気になることがあって




なに?




幸次郎って、手切れ金なんか払う奴じゃないんだよ。幸次郎と組んでた奴、多分、同じT大の奴なんだよね。知ってる奴だから、事情聞いてみようかと思ってる。




やさしいね。馬場くん




幸次郎は素直じゃないし、歪んでるけど高校からの親友だからさ




親友っか



幸次郎はいつも自分だけでなんとかしようとする。ずっと。だから心配だよ




そうだよね




私にできること。もしあったら言ってね





ありがとう。まぁ、幸次郎はオレと違って、最悪どうにでもなる。鷺宮物産の会長の孫だから。



そうだよね・・・






じゃ。今日はみんなで1ステ通過と新チーム結成祝い。実はもう居酒屋予約してんの。来てくれる?



うん、行く



じゃ。一緒に行こう




理亜と唯人が階段を下りていく。



理亜がスマホを見る。
LINE画面。



「どうしたの?理亜」(既読15:18)


「いまどこ?」(既読15:25)


「一緒に帰ろうよ」(既読15:25)


「ご飯食べに行かない?」(既読15:25)


「1ステ通過祝いしよう!」(既読15:26)


「体調悪いの?」(既読15:29)


「今、JOIの1階ロビーにいます。理亜は?」(15:31)


「大丈夫?」(15:32)



「おーい!('ω')」(15:34)



「(´;ω;`)ウゥゥ」(15:35)



「( ノД`)シクシク…」(15:38)


(続く)



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