#ショートショートnote杯の解説
はじめに
吉村うにうにです。
ショートショートnote杯が終わりました。34作品という私にしてはかなりの量を提出させて頂きました。
初めは、自分の作品の振り返りや評価・感想を述べようかと思ったのですが、やめます。自分の作品は生きている自分の子どもだという意識があるので、その子達に優劣をつけることに気が進まなかったためです。もちろん、賞という性質上、順位を他の人がつけることは否定しないし、私も賞という僥倖を密かに期待して作ってはいます。ただ、評価と言うのは他の方にして頂ければいいので、私は34作品すべてが(たとえ稚拙でも)素晴らしい(勿論他の方の作品もそうです、皆素晴らしい)と思っているので、敢えて点数はつけません。
代わりに、作成の苦労話と共に、一部の作品を作った背景や分かり辛いところを説明させて頂きます。410文字の限られた文字数の中で説明が必要なのにできなかったところが多々あります。それらを解説させて頂きたいと思います。こちらを読んで初めて意味が分かるケースもあると思います。この解説で一人でも多くの方が物語を楽しんで頂ければ幸いです。
物語の解説と背景、およびウラ話
これは、違法で困りました。冷蔵庫に入れてはいけない物を考えましたが、絶対に他のクリエイターが既に使っているはずだと思い、初めから手を封じられたような気分でした。代わりに「温度を下げ過ぎて違法になる」という方向で考えました。調べてみると、絶対零度は絶対にそれ以下に下がらない温度ではなく、絶対零度を下回ると、かえって超高温になるらしいです。これは作品を作るにあたって、調べた結果得られた知識です。作品を作るにあたって学びがあるのもショートショートの醍醐味だと思います。
一億円の食材なら、絶対に他の方が考えているはずと思い、悩みました。「絵画が一億円で、その中に低カロリー食品があり、それを現実の御馳走とすり替える」そんなホラーチックな作品に仕上がりました。ちなみに表紙の絵は額縁以外は私が描きました。色んな意味で思い入れのある作品です。
これはなかなか理解して頂けないと思います。特に文系の方には。多分理系の方にも。まず微分積分の概念ですが、微分とは、グラフのある一点での瞬間的な傾きの方向。積分とはグラフの下にある部分の面積を求める計算です。すみません、私理系なんですが、微分積分は(も?)苦手でした。餃子を微分すると材料になり、積分すると餃子を食べた中国の人がそれをエネルギー源として巨大な建築物を作るであろう、という滅茶苦茶な解釈を基に作りました。知識云々ではなく考えが飛躍しすぎています。反省はしておりますが、この飛躍した考え方、自分は意外と嫌いではないのです。
こちらは、脳科学の本を基に書いています。結構脳科学の話が好きで、長編にも取り入れています。人間の記憶のデータをコンピュータに移し替えると肉体は必要なくなるということです。ロミオがシン・ロミオを見て自ら墜落を選んだのですが、そこが伝わっていない可能性があると感じました。筆力不足です。
これは完全に読者の皆様に甘えた作品です、申し訳ありません。新宿(東京都)から甲府(山梨県)行きの特急がありまして、新宿、立川、八王子、甲府の順に駅が並んでおります。東京都の中央線を知らない方には全く訳が分からない作品です。立川で降りた犯人が、国立(くにたち)へ急いで殺人を行い、特急が八王子に着く前にタクシーで八王子に到着すればずっと同じ特急に乗ったフリができるというトリックです。ショートショートでやるべきではなかったとは思います。でも、個人的にはくすっと笑えて好きなんです。
これは火星のテラフォーミング(住めるように惑星改造すること)を基に作っています。知識が無くても作品の理解には影響はないと思いますが、大気中の二酸化炭素から酸素を取り出し、エネルギーは原子力と太陽光、さらに二酸化炭素と水素でメタンを合成、水は地中に氷河があるらしいので溶かすと記載されていました。そこで私は考えました。オリンポス山は火山らしいので噴火すれば気温が上がり、メタンや二酸化炭素が発生し、氷河も溶けて、いいことずくめじゃないか? 後半は私の妄想です。
こちらは心理学の本に記載があった「悲しい時は無理に明るい映画を観るのではなく、今の悲しさに近い気分の映画(できれば今より少しだけ悲しくないものが理想)を観たほうが、白けずにいられる」という知見を基にしています。これは人生を生きる上での知恵かも知れません。
こちらも読者のみなさんにちょっと甘えました。壊血病とは今ではほとんど見られないビタミンC欠乏症です。脚の壊疽(組織が死んでしまう)や歯や歯ぐきからの出血が症状として現れます。作品の舞台は大航海時代で、ビタミンCで壊血病が防げると知られる前は乗組員を恐怖に陥れた死の病でした。バナナにはビタミンCが入っていますが、壊死した部分が治ることはありません。レアルはスペインのお金です。
近所にいる実在の猫をモチーフにしました。表紙画像の猫です。この子は片方の後ろ足が小さい時から悪く「大人になるまで生き延びられないだろうな」と見る度にいつも胸を締め付けられるようでした。それが、天性の気の強さ(他の猫と喧嘩しても一歩も引きません)と、うちの近所の猫好きの方たちのお陰で、今でも元気にしています。むしろ太りました。気が強くて警戒心の強い猫ですが、私を含め近所のみんながこの猫に愛を感じている様です。
これはギリシャ神話のセイレーンの物語から作りました。セイレーンは美しい歌声で航行中の人を惑わし、海難事故を起こさせる海の魔物で、オデュッセウスは舵を歌の魔力で誤った方向に切らないよう、自分の体をマストに縛り付けてもらって、事故を起こさず歌を聞けたとの事です。セイレーンは(そのショックで?)自殺したとされていますが、私の作品では『(死んだとされている)セイレーンは生きていた』から始まります。オデュッセウスは何とかして彼女の歌を聞きたくて、事故を起こさないよう巧みにセイレーンの歌う場所に近づいたのですが、ショートショートの主人公は、セイレーンを自分の嫁にしようとまで思い立ちます。オデュッセウス以上の勇敢な男の中の男(単なるエロの猛者?)、そんなキャラを描けて大満足の作品でした。
こちらも知識があると分かりやすいです。親より早く死んだ子供は賽(さい)の河原で、父母の供養(死んだ子が親を供養すると記載がありました。現実とは逆のような気もしますが)のために石を積み、塔を作ろうとする。それを完成前に鬼が金棒で崩す。永遠に繰り返すそうです。悲しいです。そこに何かの救いを入れたくて作った物語でした。
こちらは経済学用語の「勝者の呪い」が隠されています。説明不足で、知っていればラッキーくらいの気持ちで書きました。戸画美角さんにも説明させて頂きました「勝者の呪い」とは、オークションなどで、つい高すぎる値段で落札してしまい、せっかく落札したのに後悔してします現象です。だから、この作品の舞台をオークションにしたのです。
こちらも説明不足ですが、410文字ではどうしようもありませんでした。ユーラシア大陸に4000万年前ごろにインドの部分だけがぶつかって、ヒマラヤ山脈ができたらしいです。作品のように急ではありませんが……。陸塊=インドです。なお、ミアキスとは猫と犬の共通の先祖である動物です。もう少し進化したプセウダウルルスの方が猫に近くて可愛いのですが(あくまで想像図参照したところ)4000万年前に合致する生き物がミアキスだったので、そちらを主人公にしました。私は無茶な物語を作る割に、時代設定に矛盾がないかこだわります。ミアキスから、全ての猫科が子孫として出てきたのです。他のネコ科動物、例えばインドに住むベンガルトラを出しても良かったのですが、ユキヒョウは私の好みで登場してもらいました。神話風に作れた私には珍しい作品です。ちなみに私の好きなネコ科動物は、ユキヒョウ以外にマヌルネコ、オオヤマネコ、ボブキャット、クロアシネコ、ヒョウ、アムールトラ(長毛でモコモコした虎)、リビアヤマネコなど多岐にわたります。
これは、初めは作る予定はなく、交番の前を通りかかった時にふと思いついたので急遽作成した作品です。大雑把に言うと、風営法では一対一の接客や深夜の酒の提供などは届け出が必要です。それも細かく一号、二号……と種類別に届け出するそうです。知り合いが言ってました。「ガールズバーでは複数で行っても、女の子は一人しかついてくれないんだよ。だから別々に店に入ろうぜ」と。もしかしたら風営法の関係かも知れません。
「胡桃さんは身の潔白を証明できたのでしょうか?」というご質問をいただいたので(嬉)、解説を加えます。風営法で有罪とされるのは経営者であって、従業員ではなさそうです。ただし、経営者と一体になって接客している場合は別だとおもわれます。しかし従業員も取り調べの対象となり、警察署に(その場にいた全員)連れて行かれ、そこで厳しく説諭されることは想像に難くありません。
これは完全に説明不足です。高くなる=値段ということで考えた結果、ハイパーインフレ下の社会生活を題材にしましたが、抜け落ちている事が多すぎました。第一次大戦後のドイツではマルクが下落し、半年ほどで物価が2万5000倍になったそうです。朝と夕方ではコーヒーの値段が違うという現象もあったと昔読んだことがあります。それを利用した作品です。舞台を第一次大戦後のドイツにしたかったのですが、第一次大戦でのドイツは戦場がほとんどフランス国内だったため、自国に瓦礫の風景がありません。ハイパーインフレと瓦礫が重なる風景として、第二次大戦後のハンガリーがあったのでそこを使わせて頂きました。通貨はペンゲーで、最高1垓(がい、兆や京の上)札が出たそうです。
最後に
34作品描かせて頂きましたが、楽しかったです。①~⑪全てにチャレンジしようと思い立ち、かなり苦労しました。上手く話がまとまらないもの、説明が不足して自分以外には理解されないようなものもありますが、あれ?意外と良いんじゃない、という作品もありました(自画自賛)。皆様にコメントを頂いたり、スキを入れて頂いたり、ご紹介して頂いたり、本当に嬉しい企画に参加できたと思います。今後も、noteを通じて何か作品を作ろうと思いますので、また皆様とお会いできるのを楽しみにしております。ありがとうございました。