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三浦瑠麗『孤独の意味も、女であることの味わいも』は現代日本女性による『夜と霧』である

国際政治学者・三浦瑠麗さんの新著『孤独の意味も、女であることの味わいも』(新潮社)を先ほど読み終えました。

読んでいて、何度も涙が溢れました。

国際政治学者としてではなく、1人の女性、そして人間の喪失と再生の物語。

ちいさい頃、割烹着の母に後ろからしがみついていたおかっぱの私に、炬燵の中で目を閉じて身体の震えを止めようとしていた私に、高層ホテルの窓縁に膝を抱えて座っていた私に、異臭を放ち始めた娘の額に唇を触れることができず嗚咽していた私に、時を超えて届けたかったことを、私はこうして書いた。

男性には「耳タコ」かも知れないけれど、日本で女であることは本当に本当に生きづらい。

なぜか。その要因は子どもを産む性、という物理的な面から来ることもあるし、見られる性・尽くす性、というジェンダー的な面、ケア労働をしながら働くことの困難さ、という社会構造的な面、そして身体構造の面もある。

そうしたすべてをどう経験し、それらとどう「折り合い」をつけ、乗り越えていったか。その半生記が、まるで文学作品のように研ぎ澄まされた言葉で語られています(とはいえ、隣に座る女友達に向けて話しているような、淡々とした親しみやすさもあるのが本書の不思議なところです)。

(書店でも平積みになっていました!)

なぜ時系列で記されていないのか

本書は、るりさんが東大の有期雇用の職を育児との両立の困難により辞職する場面から始まります。

※本書での表記と同じく、ここでは著者である三浦瑠麗さんを「るりさん」と記すことにします。

当初、出来事の時系列がいったりきたりするのに違和感を覚えました。

22ある節のなかで、急に大学時代に話が飛んだかと思えば、幼少期や中学生時代の話に戻ったりする。

でも、読み進めていくうち、それらはすべて「15節」に繋がっていくのだと分かり、衝撃を受けました。

(15節以降は、時系列に沿った語りに変わります)

内容は未読の方のために触れませんが、15節でるりさんの身の上に起きる出来事は、本当に心を抉られるものです。

なぜ、親や学校に言わなかったのか。なぜ、警察に行かなかったのか。

きっと、多くの人はそう言うでしょう。でも、できなかった。それは、15節までランダムに語られていく「女であることの生きづらさ」や「孤独」を追っていけば、容易に納得できるものです。

そしてそのことが、るりさんのそれ以降の人生にどれほど昏い影を落とし続けたのかも、痛いほどに伝わってきます。

個人的には、パートナーである「三浦くん」がるりさんにかけた、「帰責性と因果関係を混同してはダメだ」という言葉の尊さに救われました。

そして、続く16節冒頭の姿勢にも。

反対に、これほどの苦痛を被ったことを打ち明けたとき、ほかの男性がかけてきた言葉のひどさ。暴力は、ふるう側がそれを意識していないことのなんと多いことか。

愛することの尊さ

本書で心を抉られる出来事のもう1つは、長女を死産されたこと。

最愛の子を喪うという、深いかなしみ。6節、7節、17節は、本当に涙なしには読めません。

母であるるりさんの自責の念や後悔を想像すると、胸が締め付けられます。

でも、それでも、だからこそ、出会えた人、ことがある。

18節以降は、そのかなしみをどう乗り越えていったのかが語られていきます。

娘への愛は結局、私の人に対する愛に繋がっていた。私は感謝と共に癒されたのだった。

そして、こうした2つの出来事を乗り越えてきたからこそたどり着いた「孤独の意味」と「女であることの味わい」が、真っ直ぐな言葉で綴られていきます。

女であることを呪縛だと捉える人もいるだろう。そうかもしれないが、愛することを望み、ひとりでいることを覚えた私にとって、それはそれで楽しいことなのだった。
人に思いをかけることはそれ自体、美しいからだ。
周囲の人から孤立しても、ひどいことをされても、最愛の子を喪っても、人生には必ず意味がある。さまざまな刺激に心を開いていれば、時が傷を癒したことに気付くことができる。
愛するときには身悶えするほどに愛さなければ、その愛はあなたの人生に刻印を残すことさえできない。真摯に向き合う一瞬一瞬の「いま」が積み重なって、川の流れのように私たちを終着点に押しやる。

この比較が正しいかどうかは分からないけれど、私は読了して名著『夜と霧』(フランクル)のこの一節を思い出しました。

およそ生きることそのものに意味があるとすれば、苦しむことにも意味があるはずだ。苦しむこともまた生きることの一部なら、運命も死ぬことも生きることの一部なのだろう。苦悩と、そして死があってこそ、人間という存在ははじめて完全なものになるのだ。

『孤独の意味も、女であることの味わいも』、大きな勇気をもらえる1冊です。

女性はもちろん、男性にも必ず共感できる部分があると思います。



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