気持ちに正直に

「俺が付き合ってる人ってね、実は男なんだ」とA君は言った。

高三の秋。6時間目前の休み時間に2人でトイレに行った時。彼はなんの前触れもなくカミングアウトした。

青天の霹靂。

俺は彼の発言が何を意味しているのかを二秒かけて理解して、一秒考えてから「そうなんだ。好きなら別に性別なんて関係ないんじゃない」と動揺を隠すべくなるべくポーカーフェイスに努めてそう言った。が、目は泳いでいたし表情は迷子だしで、つまり俺はわかりやすく動揺していた。

「本当にそう思う?引いてない?」彼が黒ずんだ表情で質問。

「何があっても友達だから大丈夫だよ」動揺していたけどこれは本心。

それを聞いて彼の表情が一気に緩んだ。

「隠してるのずっと辛かったから本当のこと言えてよかった」と彼は言った。

「朗らか」という言葉は彼のその時の表情を表すためにある。と言い切れるくらい柔らかで温かな表情だった。まるで子どもを産んで、我が子と初対面した時のお母さんのような。


A君は他のクラスの友人だった。

昼ごはんになると彼と彼の友達と一緒に恋バナや進路のことや部活のことを話しながら食べるのが日課だった。カミングアウトされる数ヶ月前に付き合っている人の写メをみせてもらう機会があったが間違いなく女だった。その時は。だから付き合っている人が男だと。恋愛対象が男だと知った時の衝撃は天の川銀河が3回ぶっ壊れるくらいの威力だった(※当社比です)。

とは言えA君はA君だ。その事実は変わらない。受け止め切れてはいなかったけれど俺は少しずつわかろうとした。

でも完全に受け止めることはできずにA君を傷つけて絶交してしまうことになる。未だに思い出すと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


高校を卒業してから1年間はA君とよく遊んだ。

仕事終わりのA君が車で迎えにきてくれてドライブ、というパターンが8割。だから自ずと話をすることがメインになる。そして話の内容のだいたいはA君の恋愛相談で残りは仕事と趣味のことだった。

初めはよかった。A君が頼ってくれてるからどうにかしたろ!と奮起して話を聞いたりアドバイスしたりした。でも次第に自分の中に黒いモヤがかかりそれが濃くなってきている感じがした。そして遂にそれに飲み込まれた。

それで何をしてしまったかというと、当時やっていたホームページでA君にわからないように表現を変えて例えを用いてA君をディスるようになったのだ。A君が読んでいるのを知っているのに。

それにA君が感づいて喧嘩になってそのまま連絡をとっていない。どれだけA君は傷ついただろう。本当に卑怯なことをした。

当時は「恋愛相談を頼られすぎて嫌になってディスるようになった」という理由だと思っていた。だけど今になって考えてみると「気持ちに正直に生きているA君への嫉妬」だと思うのだ。

自分のセクシャリティを話してくれた勇気。自分の気持ちに嘘をつかずに生きているその潔い姿勢。恋人とのあれこれを隠さずに相談してくれるまっすぐな気持ち。

そのどれもが眩しかった。本音をオブラートに包んで傷つかないように生きていた当時の臆病な自分にはどれもできない芸当だったからだ。

「気持ちに正直に」

これは自分が自分である一番の意味になる。だってそれが必要ないならなんのために心をもって生まれてきたのだろうか。なんのための感情だろうか。なんのために生きるのだろうか。なんのために。

正直に生きるとぶつかることも傷つくことも増えると思う。でもそれができるようになるときっと、心が輝くのだと思う。


カミングアウトした時の彼の朗らかな表情を思い出す。生まれ直したみたいなその表情を。

俺は、

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