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12/19マーケット特別ゲスト畑とつながるシェフ③梯哲哉シェフ

「今年はコロナのために4月末からゴールデンウィーク明けまで店は休業を決めました。でも取引していた生産者の畑に行ったら、野菜が旬を逃してタケていました。取引先0になってしまった野菜もあって、急遽、休業ではなくてお弁当をお惣菜のテイクアウトをすることにしました。」

大分県の地産地消レストランのパイオニアのシェフの梯さん。

梯さんがオーナーシェフを務める
鉄輪のオット・エ・セッテ大分と大分市内のバールポンテ、
プロデュースを担当のクインディッチ、七村酒店。
コロナの売り上げ対策で始めたOPAのお弁当とお惣菜と生産者の紹介コーナー。

今でこそ地方のガストロノミーについて取り上げられていますが
ほぼ地元の食材だけで一皿を完成させる、地元の生産者約40人と取引を続ける毎日仕入れに畑を回る。メニュー開発、商品開発のプロディースをする。
食を通して地域貢献と後進を育てている。
そんなことを継続しているシェフはなかなかいません。

鉄輪温泉の地獄蒸し釜を使う、温泉水でパスタをゆでる。
それだけで「はい、名物です。」というところを温度や食感などのデータを
集めてよりよいものを、という研究もされています。

梯さんの店舗の冷蔵庫は飲食店にしては小さいものにしています。
都会のレストランによっては半年に1回、仕込み日に野菜から何から冷凍するところもあるそうですが、
「包丁を入れたときに、あるいは食べたときにレタスならシャクっと音がするようなできるだけ新鮮なものを食べてもらいたいから。冷蔵庫に入っているのは魚のアラくらいです。」

見えないところで様々な工夫をして一皿になる。
でも料理人ならでは、梯さんならではの仕事だと少しだけ見せて頂きました。

一番知りたかったのは、どうやって地産地消のシェフになったのか、です。

「私が由布院に来た時は、日本料理の料理長が、生産者の農園と直接、畑から各飲食店に届く仕組みを作っていて本当にすごいなあ、と思いました。前日に電話すれば野菜を届けてくれる。それもその店だけではなく他の飲食店にも。画期的なシステムでした。」
朝、生産者さんの畑を回っているとほか旅館の料理長にもよく会ったそうです。由布院ではそういう習慣があたりまえになりつつあったのかもしれません。

もともと福岡ご出身。サラリーマンをしていたけどどうしても料理人になりたくて転職し、何年かイタリアンレストランで働いていたら由布院の無量塔の社長から引き抜かれて、由布院のアルテジオで料理を作ることになりました。

イタリアンだと思ったらお客さんにニーズに合わせて牡蛎飯やきんぴらや白和えやビーフシチューや親子丼まで作ることに。主にはランチのお客様ばかり。

でも頑張って作り続けていると半年後にイタリアンでやって行ってもよいことになりました。
福岡では簡単に手に入った食材が大分では難しい。フォアグラ、イベリコ豚、ホワイトアスパラ、キャビアなどの高級食材も福岡の時に付き合いのあった業者から仕入れる算段をしていたそうです。
「でも驚いたのが、ナスがどこにもなかったこと。代表的なメニューのナスのカポナータが作れない。生産者に聞いて回っても季節が過ぎると当然のように誰一人作ってない。福岡には年中あるのに。それには困りました。」

でもある時、東京から来たお客さんが
「由布院で食べたいのはこれじゃない。こういう食材は東京でも食べられる。」と言われたそうです。
それから、ああそういえば無理があるな、高級食材を使うことがかっこいいと思っていたけどここにない。                    ある材料を使ってみる試行錯誤が始まりました。

ナスのカポナータがないなら根菜で作る。里芋をトマトで煮てみるとか、
材料ありきで切り替えるようになり、八百屋にないものはみんなどうしているのか考えるうちに面白くなってきたそうです。由布院の、大分の生産物を新しく自分に知識を入れていかないと発想もできない。

農家さんを訪ねて、大根葉の漬物にカボスとゴマがあったのでそれをパスタにしたり、大根が大量にある時期はピーラーで削ったものを干して水でもどしてオリーブオイルを使って前菜にしたり。
干し大根は塩漬け肉と合わせても相性が良かったそうです。きのこやドライトマトなどとの組み合わせも考えて。

でも日本の野菜である大根をイタリアンで使うのは最初は難しかったそうです。前菜なら瑞々しさを生かせるけれどまず、水分がありすぎるので塩を振っても塩が浮いてしまって辛くなる。
コースの流れに乗ってつながっていかない。白菜も同じで他の食材と調和しない。でも干すと肉にも合うようになる。

レシピなしの挑戦です。
地元の和の食材を使ってもイタリアンにしなくてはいけない。
オリーブオイルに合わないといけない。
白いお皿に合わないといけない。

ヒントは生産者さんのところに行った時に出してもらった漬物や郷土料理の晩御飯。そして野菜の保存方法も参考に。その土地で年中無理なくあるものを使うことを意識するようになり
「農家さんから学ぶのはとても楽しかったので続けている感じです。」

でもそうして新しく出来るメニューで自信を持って提供出来るのは年に何個もない。お客さんの反応も頂きながら、続けてきたそうです。

今はイタリアンでないといけない、逆に和食にしないといけない、とは思わずに自由に自分の料理が作れるようになった、と最近になって思えるようになったそうです。

「生産者の方の背景をお客様にわかってもらえたら嬉しいので
サービスのスタッフにも必ず伝えています。寒い場所で採れたものなんだよ、とか。お客さまも興味を持ってくださるのがうれしいです。」

朝、畑を回るのが日課でしたが今はコロナウィルスのため、
生産者を訪ねるのは遠慮しているそうです。厨房だけでなく畑の情報も必要だと感じられています。

今まで梯さんのレストランを支えていた生産者の主力メンバーは80歳から90歳に。大分で20年すごすうちに高齢化が進んでしまった。
しかも後継者がいない。その危機感をダイレクトに梯さんは感じています。

ひとごとではありません。レストランだけではなく、地元で生産する人がいなくなったら大分の食料はどうなるか不安です。

前代未聞のコロナウィルスの流行。いろいろな対処を取ってきました。
お弁当やお惣菜もそうですがレストラン自体は一時休業し、鉄輪のオット・エ・セッテは完全予約制に。
でもバールポンテのみは閉めずに開けておいたそうです。
「お客様がふと立ち寄る場所がこんな時期だけに必要かも、と感じました。1杯だけ飲んで帰るような。」

コロナの流行を経て、今後の飲食店の在り方については、
「お弁当はもとからありましたがテイクアウトの業態は進化して残るかも。ただうちはいずれはレストランだけで営業したいと思います。レストランの中で空間としつらえ、音楽、お皿など様々な要素を感じて料理を味わってもらえたら嬉しいです。」

梯さんのようなないところから道を切り開いていくことは誰にでもできませんがまずお客さまを喜ばせたい、そして生産者のもの大分のものを美味しく食べることが前提のレストランが増えたらいいな、と思います。同じ食材でも違う考え方や個性で一皿になるとそれも面白いと思います。

これから料理人を目指す人へのアドバイスもお聞きしました。
「まず、料理だけではなく、いろんなものに興味を持つことが大事です。洋服や車や音楽など様々。シェフはレストランの総合プロデューサーでありプレイヤーです。経営のことも含めて料理だけ、では成立しません。」

音楽も店舗によって季節によって密かに使い分けているそうです。

新しい世代の料理人に対しての指導や伝え方も考えられています。
「レシピをネットで手っ取り早く検索するようになっているので本を読まない。料理の大手出版社もWebマガジンへの切り替えになるし、たまたまページをめくったら探していたもの以外の知識も手に入った、ということがおこらなくなるかもしれません。」
シェフの考え方や技術を盗んで覚える、という時代ではなく、言葉にして伝えなくてはいけない。
スタッフの勉強会もコロナウィルス流行前は積極的に行っていたそうです。
メニューのレシピ通りに作っても皿として完成して、差し出す相手がいる時に何か足りない、という時でも言葉でつたえなくてはいけない。
後進を育てる上でそこが難しいところだそうです。

「あとは、やはり掃除に始まって掃除に終わる。そこは基本です。」

レストランをお客さんに向かって開く。
ただ料理をするだけではなく、膨大ない知識と技術と経験が必要だと素人ながらに思っていましたがこれほどとは思いませんでした。
でも、梯さんはお客さんの前ではいつも笑顔で楽しそうにされています。
「大変だと思ったら終わりです。知識や技術を身に着けるのも実は楽しい。それを楽しめることがシェフになる資質ではないかと思います。」

口に入る食べものというのはモノを買うのとは違います。
料理を作っている人のエネルギーも頂くのだと最近特に実感しています。

楽しいから。という梯さんですがいつもお客さんに対してどうしたら喜ばれるかを全ての芯においています。
サービスの仕方も画一的ではなく、その人個人がどう思うかを考えるそうで
お話をお聞きして、自分には思いいたることが出来ない考え方にため息が出そうでした。

大変なことは忍ばせて、お客様には目の前の一皿を楽しんでもらいたい。
今回も苦労話ではなくて、梯さんの畑や海や山の、そして人間の間での大いなる冒険を聞かせてもらった気がします。

マーケットが今よりも現実的に進化出来るように頑張ります。
いつも、いつも助けてくださってありがとうございます。


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