ばけいぬに会う

ばけた犬に会った
多分ばけてる

割とでかめな路地にいて、見てはいけないようなものを視界に入れてしまったことに多少は焦ったが、最近の精神状態を考えると
すんなり受け入れてしまった。

「こんにちは。」
「こんにちは。」

ゴールデンレトリバーの形をしたそいつは、いい毛並みをし、あくびをする時に伸ばす首筋がなんとも良く…私は触りたくなる衝動に駆られた。

「さわってもいいですか。」
「だめです。」

そこは機会なんだから受け入れてくれてもいいじゃ無いのとも思ったんだけど、ダメだった。他人が嫌がることは基本はしてはいけないという母の教えを無視するわけにはいかない。

「わかりました。」

立ち去ろうとしたその時、目をまん丸にさせてそいつは言い出した。

「…ハム」

「…は?」
「明日の朝、ハムくれたら考えます。」

「…わかりました」

今日ではなく、いまではなく、あしたのあさ。
朝に路地に来いという命令にはなるが、触りたかったのでハムを用意すべくまいばすけっとに向かった。
薄切りハム、犬に塩気というのが不安だけどたぶん生きてるかわからない感覚があったから、お祓い兼ねていいと思った。

そして迎えた翌日の朝、路地裏にいたのはたぶん夏仕様に毛をガチでカットし終えた直後のチワワだった。
どうみてもチワワ、細い胴体とつるつるの肌、小さな頭、チワワである。
チワワであり、そいつの持つまんまるの目、
そう結局それが紛れもなく昨日のゴルちゃん(ゴールデンレトリバー)だと、私は悟ってしまった。

「ハムをもらいましょうかい」

「いやまって、ゴールデンレトリバーの姿は?」

「?。今日はチワワですけど。」

「そうなんですけど、(?)
いやなんというか、ハムあげたとてあの毛並みじゃなきゃ触る意味がないというか。」

チワワが好きな人に申し訳ない。チワワに偏見はない。魅力はある。ただ今求めているのは、ゴルちゃんであって、チワワボディだとあまりにも理想とはかけ離れていた。申し訳ない。

そして一連の説明を目をまんまるにして聞いていたそいつは、舌を出してはあはあしながら話し出した。

「私の姿は毎日、日替わりで変化しますよ。昨日はゴル、今日はチワワ、明日はわかりません。一昨日はシーズでした。
そこに化学的要因はありません。
今の自分をやんわり省みて、すっと何かを浮かべながら寝ると、そうなってるんです。
あなたも。
ハムをあげたいとあなたが思う私は、ゴルちゃんであり、昨日の私だったようですね。昨日の私は、よく毛が生えた。寒かったからですかね。
でもこれは、私はあなたのまねごとをしてるだけですよ。化け物ですから。」

化け物は、人間の一部を掬って、化けてみたらしい。

昨日の自分がどうだったのか、周りからどう思われたいか、私自身はどういたいのか、全ては同じかと思いきやがっつり矛盾してしまうこともある。

ハムをあげたいと思われる私、ハムをもらえる子を羨ましがる私、寒いと感じる自分を助ける私。

今日寝たら、明日は背中に羽が生えているかもしれない。

語るばけ犬(仮)と、また話そう。

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