指の先に

久しぶりに空を見た。
久しぶりに見たら
満月だった。
金色に輝く
まあるい月だった。

その月を指の先に乗せてみた。
指の先から転げ落ちそうな月だ。
だけどとどまっている月だ。

久しぶりに見た月は。
私に似ているのかもしれない。
広い空にいるはずが
小さくて不安定な指先に乗っている。

いつも満月を見ると
ありがとうと感謝していたのに
指先なんかに乗せている。

きっと明日には
指先ではなくて

暑い夏

あれはもう30年ほど前
暑い夏
私はあなたに振られて
サヨナラを言われた。

私だって
あなたが好きだと言って来たから
付き合ったんじゃない
とひどいことを思いながら
まあ、仕方ないか、と思いながら
海辺を歩いた。

暑い夏。
多分それが最後のデートになるんだろうな、と思いつつ歩いた。
夕方だったか夜だったか全く覚えていない。
海辺で楽しそうにはしゃぐ人達のあいだを
場違いなスーツかなんかを着てあ

大雨に地震

私らアリンコみたいやなぁ

と友人が言った。

遠く離れてみると
そこはやはり特別な場所だった。
あっても無くても良い場所。
でも今となっては
あって良かった場所。
たまにはこの距離感は
良いのかもしれない。

青いギラギラに攻めてくる
遠い空を顔をしかめながら見て
そんな事を思った。