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暑い夏

あれはもう30年ほど前
暑い夏
私はあなたに振られて
サヨナラを言われた。

私だって
あなたが好きだと言って来たから
付き合ったんじゃない
とひどいことを思いながら
まあ、仕方ないか、と思いながら
海辺を歩いた。

暑い夏。
多分それが最後のデートになるんだろうな、と思いつつ歩いた。
夕方だったか夜だったか全く覚えていない。
海辺で楽しそうにはしゃぐ人達のあいだを
場違いなスーツかなんかを着てあなたと歩いた。

私は泣いていた。
ずっと泣いていた。
あなたはどんな顔をしていたのか何を話したのかも忘れてしまった。
一方的に私だけが泣いていたのだ。
だけど悲しくて泣いていたのではなかった気がする。
悔しかったのかもしれない。

一方的に近づいて来て
一方的に離れて行く
あなたに腹を立てていたのかもしれない。

とにかく
人前であんなにいっぱい泣いたのは初めてだった。

だけど
その後はずいぶんスッキリして
やっぱりあなたの事は初めから好きでもなんでもなかったんだから。
その気になった私がばかだったんだから、
と吹っ切れた。

ずいぶんひねくれた奴だね私は。

でも
ふと思い出したんだ
あの時も満月だった、って。

お月様
やっぱり見ていたんだね。
泣け、泣け、泣け。
お前の相手は違うんだ。
泣け、泣け、泣けって。

今思い出しても
自分が泣いたのしか覚えてないんだよ。
そうだよ、
お月様、あなたが泣かせたんだね。


ありがとう、と言うよ。