必然性の欠落と間に合わせライム
概要
意味や文脈の面で、フレーズに問題を抱えた韻には次のようなものがある。
韻のために、意味不明な言葉や文法の誤りが生じている“破綻ライム”。
韻のために、必然性のない言葉が選択されている“間に合わせライム”。
韻のために、必要ない言葉が選択されている“水増しライム”。
(“間に合わせライム”と“水増しライム”には似た部分があるため、定義を整理する予定)
間に合わせライムの定義
ライムフレーズとして選択された単語が“音響一致”の観点だけで選ばれている。
そのため、内容面において“その単語である必然性”が感じられない。
このような必然性が欠落した韻を“間に合わせライム”と定義する。
間に合わせライムで使用されているフレーズには、その言葉を積極的に選択する理由がない。
もしも韻が成立しなくてもよいなら、別の言葉に代替可能である。
破綻ライムとの違い
“破綻ライム”との違いは、意味不明な言葉や文法の誤りではない点。
フレーズ単体で見た時に意味は通っているが、その言葉を採用するための説得力に欠けている韻を指す。
水増しライムとの違い
“水増しライム”との違いは、必要ない(削除可能な)言葉ではない点。
何らかの言葉を配置する必要はあるが、その言葉である必然性を持たない韻を指す。
例1
間に合わせライムの例として「準備万端になる」「12番ターミナル」といったもの。
ここで「12」が登場する裏付けが特になく、音響的な要請によって選んだだけと判断されれば、必然性の欠落した間に合わせライムといえる。
ただし、現実に「12番ターミナル」から電車に乗っている作者がノンフィクションとして上記の韻を用いれば、そこには必然性がある。
また、過去に「12番ターミナル」で起こった出来事を語る場合には、必然性がある。
必然性は“バックグラウンド”や“因縁”ともいえる。
このように、間に合わせライムと判定されるかどうかにはテキスト外部の情報も関与することがある。
例2
SIX「ラップアンドビーツ」における「サクランボティー」というフレーズ。
興味無いっつうの 角砂糖いくつっておれに勧めんなサクランボティー
ここでは甘そうなフレーバードティーであれば同様の文脈が成立する。
必ずしもサクランボティーである必要はない。
「ラブアンドピース」の母音ライムという、音響的な事情でサクランボティーが選ばれているだけである。
したがって間に合わせライムといえるだろう。
甘そうなフレーバードティーの一例を挙げるだけなので、種類は何でもよい。
しかし、それにしてはサクランボティーという例示は一般的でないように見える。
この不自然さが、韻のために内容を妥協した結果と受け取られてしまう。
例3
続いて、SIX「フリークライミング」における「CASIOのケータイ」というフレーズ。
トラックがあれば歌詞を載っけたい メモ帳がなけりゃCASIOのケータイ
ここは、作者の当時使っていた携帯電話がCASIO製ということで“本人の中では”真実に基づいた必然性があるらしい。
しかし読者から見れば、「歌詞を」と踏むために「CASIO」を選択したように見え、必然性がない。
必然性を推し量るにあたって、読者の持っている知識はまちまちであるため、判定には不正確さが伴う。
補足:スプリットライムとの違い
関連する用語として、スプリットライムがある。
スプリットライムは、ライムフレーズ間で意味の大きな隔たりがある韻を指す。
ただしその場合、繋ぎによってうまく連結できれば低評価は回避可能だ。
フレーズ間の関係性に問題を抱える場合、繋ぎの工夫によってカバーできる。
しかし単体のフレーズ自体に問題を抱える場合、フレーズを選択し直さない限り修復できない。
取り扱い上の注意
間に合わせライムを盛り込んで歌詞を組み立てると、音響目的で選ばれたフレーズによって根拠の弱い文章になる。
もしかすると、狙ってそのような印象を追求したい場合もあるかもしれない。
しかし、音響面だけの制約で(意味のつながりに妥協して)韻を踏むのは難易度が下がったゲームである。
ライミングを競技として攻略するには、面白さが損なわれた状態といえるだろう。
(文/SIX)
from 韻韻
韻オタクが勝手に自粛しているだけのマニア反省ライムが語源といわれているよ。
変更履歴
2017.12.7 下書き
2021.8.16 メールマガジン用に清書
2022.6.24 note用に改稿
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