村上春樹『街とその不確かな壁』への川口事件の残響とコロナ経験
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友人と飲んだ帰り道、通りで上品な老婦人に声をかけられた。聞けば、こちらに越してきたばかりで道がわからなくなってしまったのだという。案内する道すがら、近所のドイツ料理屋のおかみさんが共通の知り合いだとわかり、そのまま店でビールを奢ってもらうことになった。その老婦人はもともとクラブを経営していたのだが、結婚して店を閉めたのが数十年前。そしてついこの間、長年連れ添った旦那さんがコロナで亡くなり、持家を売払って近所のマンションに越してきたのだという。
コロナにかかってから3