見出し画像

睡眠具-looking(3)

チョークがカツカツと黒板に当たる音が響いている。退屈な頭で昨日見た夢を思い起こしていた。
人間は睡眠中に幾つかの夢を見ているという。そのうちでも目覚めた時に覚えているのは断片的なものである。ノンレム睡眠の間には夢が途切れてしまうため、一晩で一続きの夢を見られることは無い、と知っていた。それなのに私は、夜もすがら彼女の夢を見ていたことを鮮明に思い出せた。
斜め前の席に座る彼女の緩やかに結われた黒髪は、美しい夢の中で見たそれと同じであった。
今ここにある意識も、回想の中で夢か現か混同して微睡みに吸い込まれて行く。

肩を軽く叩かれる感触がした。
「ルッキ、もう授業終わってるよ」
顔を上げると夢で私を見つめていた目がそこにある。
デジャヴのようにぼやけた頭の中で像が結ばれて重なった。
その時私は気づいてしまったのだ、夢の中の彼女の顔は縦向きに見えていたことに。

彼女は、ティコと一緒に寝ている。

「ごめん、次の授業まで寝る。」
頬がぼっと赤くなったのを感じて、再び机に突っ伏した。

******

授業中に惰眠を貪ってしまったので、今晩も眠れるかどうか心配であったが、彼女の夢見たさが裕に勝ったようである。
ぬいぐるみは横たえられて彼女の横に寝ているので、まるで自分が添い寝しているかのような錯覚に陥る。錯覚だとわかっているので、どうやらこれは明晰夢らしい。今の彼女は目を閉じていて、薄い瞼から伸びる羽のような睫毛に魅了される。
今日は昨日より、早く眠りについたみたいだね。

暫く意識が途切れていたことに気がついた。ノンレム睡眠から、レム睡眠に戻ってきたようである。
朧気な視界から彼女が浮かび上がってくる。眠っている彼女は、いつまで見ていても見飽きない。

ぼうと眺めていると、彼女が目を覚ました。まだ部屋は暗いので夜中に起きてしまったのだろう。喉でも渇いたのだろうか、彼女がベッドから出るときにぬいぐるみがコロンとそっぽを向いてしまわないか心配になる。
しかし彼女はベッドから出なかった。眠りにつく前と同じようにぱくぱくとこちらに喋りかけているだけであった。少しして気が済んだのか、彼女は再び眠った。不思議なことをするものだとぼんやり考えているうちに、夢は途切れてしまったらしい。

******

そんなことが暫く続いた。毎晩私の夢の中に見える彼女は、夜中に目を覚ましてはティコに話しかけるが、暫くするとまた眠るというのを繰り返している。
私も時折夜中に目が覚めてしまうことはあるのだが、そのような折は決まって眠ろう眠ろうと焦りが募りベッドの上を転がってみたり四肢を投げ出してみたりしてしまう。だがライマは違うのだ。目覚めてしまったことに一片の焦りも見えない。それどころか、ティコに語りかけることを楽しんでいるようにすら見える。
まるで、夢を見ているように。

そう言えば、彼女は以前私にこう言っていた。
「最近、あんまりよく眠れてなくてさ。」

私の脳内をひとつの憶測がかすめた。














この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?