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睡眠具‐looking (2)

結局、先日の夜は一睡もできなかった。ジリジリとした焦燥感で頭がいっぱいになり、つい通学路でも足早になってしまい、教室に到着したのはいつもより20分も早い時刻であった。椅子に座って彼女を待つ。足を宙で振り子の如く動かしてしまう。

寝不足の頭でも、教室に入ってくる彼女の足音は聞くだけで判る。
「らららららライマ、誕生日おめでとう!!!」
椅子から立ち上がる音で数人が振り向いた。
「ルッキが一番乗りだよ、ありがとう」
「つまらないものだけど…部屋に飾ってくれたら嬉しいな…なんて」
「ルッキがくれたものなんてつまんなかったことないけどね」
そうライマが微笑むと、私のことを一瞬怪訝な目で見た人の表情までも綻んでしまうようだった。
彼女を見て私は一言、付け加えずにはいられなかった。
「生まれてきてくれてありがとう。」
「大袈裟だね」ライマは吹き出した。
「ルッキがそんなこと言ってくれるんなら、私も生まれてきてよかったな」
私はきっと今日の帰路で、骨折でもしてしまうに違いない。

******

いよいよ、夜も更けてきた。浮足立つ感情と、果たして夢で彼女を見られるというのは本当なのだろうか?という半信半疑な感情が鬩ぎ合っている。私からの贈り物を彼女が喜んでくれたなら何よりであるが、あの寝具屋の少女の言葉には妙な説得力があったので、やはり只ならぬ期待を抱いてしまう。緊張と期待で眠れるかどうか不安であったが、昨晩一睡もしていない私にとっては杞憂であった。

淡い視界の中、孔雀の羽のような睫毛の内にたたえられた黒玉のような瞳がこちらを真っ直ぐ見つめているのがわかった。

ライマだ。

寝巻姿の彼女が随分と近くにいる。艶やかな黒髪がシーツの上に広がっているのが暗視カメラの視界越しにも見て取れる。
彼女はこちらを見つめながら、ぱくぱくと口を動かしている。ぬいぐるみに語りかけているのだろうか?普段は大人びた彼女にもこんな可愛らしい一面があったのだと、思わず口角が緩む。
そんな彼女に暫く見惚れていた。

******

浮ついた気持ちで目覚め、学校へ向かう。今までこんなに足取りが軽かったことはない。
「ルッキ、おはよっ!!」
「ううぇえあ!?お、おはよう!!」
「昨日くれたプレゼント開けたよ、ぬいぐるみ。あれ、まじかわいい」
「…なんか、名前とかつけたかな…なあんて、」
「ティコ」
「ライマ、かわいい名前つけたね。」
ぬいぐるみに名前をつけちゃうライマがかわいいよ。言わないけど。
「いや、私がつけたんじゃないの。ティコちゃんが、自分でティコだって」
彼女ははっきりと言った。「夢を見たの、ティコちゃんの。」









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