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掛け算を学んだら可能性が広がった話

わたしは物心ついた時から、生き物(特に虫)が好きで、料理が好きで、絵を描くことが大好きだった。
幼稚園の図書室では植物の図鑑を読み、夏休みに園からもらった”いきものずかん”は擦り切れるまで読み込んだ。家に帰ると、母親のレシピ本を引っ張り出しては大して漢字も読めないくせに、この料理はどんな味がするんだろう、と読更けていた。
生き物や料理と同じくらい絵を描くことが大好きで、暇さえあればチラシの裏に絵を描いていた。わたしの両親は、私のために裏が白紙の広告を取っておいてくれた。

小学生、中学生、高校生になっても相変わらず生き物が好きで、料理が好きで、絵を描くことが好きだった。友人と遊びに行くのは動物園や博物館、美術館。干潟や川にも遊びに行った。勉強の息抜きに野菜スープやパスタを作っては家族に振る舞っていた。親に隠れて絵を描き続け、一時期は美大を志していた。

進路を決める時、生物と化学が好きだった私は、同じくらい好きだった美術の道を諦めて、農学部へ進学し、害虫学を専攻した。進路に後悔はない。自分で育てた野菜を食べ、新鮮な野菜の味を知った。一人暮らしを始めて、料理を覚えた。KALDIで約3年間アルバイトをして、様々な食材や調味料、コーヒーやワインの知識を得た。学科の友人たちと、毎週のようにアニメを鑑賞し、カラオケに行った。絵を描く時間は減ったけど、それでも絵は描き続けた。卒業間際に、助教授からパンフレットの挿絵を依頼され”絵でお金を稼ぐ”という経験をさせていただいた。

大学を卒業してからは、農業関係の仕事に就いた。仕事を通して、それはそれはたくさんの虫や病気の知識を得た。農家さんから野菜や果物をたくさん頂き、おいしい食べ物に困らない生活を送った。週の大半が出張だったので、自炊の回数は減ったが、その一方で友人とたくさん飲みに行き、新しい料理をたくさん舌に覚え込ませ、自宅で再現した。自炊のレベルが格段に上がった。
ずっと自己流で絵を描き続けていたが、ある日思い立って近所の絵画教室に見学に行った。変な先生だった。けど、帰り際に気づいたら入会書にサインしている自分がいた。結局、この先生のもとで約7年、絵の描き方というよりも”モノの見方”や”美しいと感じる目”を養った。あの時、流されるがままサインして本当によかった。

生き物が好きで、料理が好きで、絵を描くことが好き。私のなかではそれぞれ独立した状態で3本の柱が立っていた。この柱を太く、長く育てていくと思って疑っていなかった。
そんな私がある日、”副業”という言葉を知る。確か、日経WOMANだったと思う。付録の万年筆に惹かれて購入したのだ。ライターやイラストレーター、WEBデザイナーを副業にしています、という人が紙面にたくさんいた。衝撃だった。当時の私は、会社員として生き、会社員として走り抜けるつもりだった。だけど。世の中にはこんな生き方をしている人もいるのか。

そこから私はランサーズに登録した。けれど、自己紹介に書けるスキルなんて何も無い。営業職はこういう時に辛い。ライティングならできるかなあ…と、ライターの案件をいくつか見てみたが、恋愛やダイエット、仮想通貨などあまり興味が無い分野ばかり。農業の案件なんて何一つない。ああ、プログラミングとか、やっておけばよかったな。興味はあったのにな。後悔先に立たず。

そんなこんなで、悶々とした私は情報収集のためにTwitterを開設する。副業やってる人のことをもっと知ろう!
書いていなかったが、大学時代の私はそれはもうツイ廃レベルでSNSが大好きだった。ので、Twitterのアカウント開設からめぼしい人をフォローし、副業界隈の情報収集の準備をするまでに、それほど時間はかからなかった。


そんなある日、TLを眺めていると、あるIT企業のプレゼンテーション講座を受けられることを知った。たぶん、おそらく、これが私の転機。

「今日の講義内容は自由にツイートしていただいて構いません!」と言われたので、私はイラストを投稿した。今でいうところの”図解”だ。
これが社長や事務局の方の目に留まった。「前回の講義内容をイラストにしてくださった方はどなたですか?」恐る恐る手を挙げた。「本当にありがとう!すごく感動しました!!副業などされてるのですか?」いえ、全く。首を横に振った。「勿体ない!絶対に発信した方がいい。お仕事にできるレベルです。」
もちろん、社交辞令であるということは、分かっている。けれど。けれども。すごく、すご〜〜〜〜く嬉しかった。だって、ランサーズ登録してもプロフィールに何書けばいいかわかんないって悶々してた私にも、ひとつくらい人の役に立つスキルがあったってことだ。
その講座内容(全4回)は全てイラストを描き上げ、Twitterで発信した。そのツイートは様々な方へRTやお気に入り登録して頂いた。今まで経験したことがない、プチバズを経験した。特に図解界隈の方々からたくさん反応をいただくことができ、そのとき初めて”図解”というジャンルがあることを知った。

この頃から、少しずつ自分の強みについて考え始めた。もともと、生き物が好きだったが今は専門性を持って”農業”が好きになった。自他共に認める料理好きで、絵を描くのも相変わらず好き。
しかも、どうやら”物事をイメージ化して理解する”というのは皆やっていることではないらしい。私が図解を作成するとき、グラレコを描く時はいずれも頭に浮かんだイメージをそのまま紙に起こしているだけなのだけど、これはいわゆる特殊能力のひとつらしい。
私の本業は営業職で、車を運転する時間が非常に長い。考え事をする時間は十分にあった。ずっと、自分の強みってなんだろうと考え続け、ある時ふと「強みを掛け合わせたらどうだろう?」と思ったのだ。

得意なこと × 好きなこと × 発信

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先述のIT企業の講座で、社長から「発信したほうがいい」と言われるまで、私はずっと壁打ちばかりしていた。つまり、”発信”がゼロだった。掛け算は、ゼロより大きい数字であればきちんと意味を成す。けど、ひとつでもゼロがあると、他がどんなに大きい数字だとしてもゼロになってしまう。
昔からSNSの沼にどっぷり浸かっている私は、炎上が怖いことだと重々理解している。だから、あまり自分の意見をはっきり発信することはしてこなかった。けれど、発信しなかったら、どんなに得意なことも、好きなことも、私の中にあるだけだ。それは、少しさびしい。

半分勢いで、Instagramのアカウントを開設した。イラストエッセイを描こうと思ったのだ。イラストエッセイなら自由に得意なこと、好きなことを描ける!そう思ってアカウントを開設したところ様々な方にフォローして頂き、相互フォローの方と(知り合って1ヶ月で)オフ会をした。全く知らない方から「とても楽しく読んでいます!」「更新楽しみにしています!」というDMをポツポツいただいた。

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一方で、ツイッターでは受講したセミナーのグラレコを発信した。こちらも、たくさんの方から嬉しいお言葉をいただいた。

ずっと、様々なインフルエンサーの方が「発信が大事」と言うのを「当たり前じゃん。」と思って読んでいた。しかし、自分で体験してみてようやく本当の意味で理解した。発信は、このインターネットの世界で、自分で自分のための住民票を生み出す行為なのだと。

そしてこの掛け算、すごいことがもうひとつある。農業が好きな人、料理が好きな人、絵を描く人。この、それぞれの項目が得意な人は世の中にたくさんいる。石を投げたら当たるくらい多いと思う。けど、この3ついずれも好きな人、となると一気に少なくなる。掛け算ってそういうことだ。しかも、そこから発信をする人、となれば競合はさらに減る。
私のインスタやTwitterをフォローしている方で、この3つ全てが好きな人は限られるだろう。けれど、このいずれかが好きで、わたしの持つ雰囲気を好きでいてくれる方はきっとフォローしてくれる。(フォローまでいかないにしても、投稿を見ていただける。)
掛け算することで、希少価値は上がるけれど、ゴリゴリに尖っていなければ”潜在的ファンになってくれるひと”はむしろ増えるのだ。掛け算っておもしろい。
※先日、AdobeのFB会でも根岸さんから同じようなお話があった。数年前、営業車の中でずっとずっと考えて考えて、ようやく行き着いた結論と同じようなことを偉い方も仰ってるのか!と知れて嬉しかった。

これから

発信を始めてからというもの、たくさんの方から嬉しいお言葉を掛けていただいたり、予期せぬところからお仕事に繋がったりと貴重な経験をたくさんさせていただいている。
グラレコやセミナーの図解を通して、おそらくTwitterのフォロワーさんからは”図解・グラレコの人”という認識はされていると思う。しかし、わたしはここに修飾語をつけたい。”農業と料理が好きな図解のひと”になりたい。それにはやっぱりまだまだ、発信が足りないなと思う。

この1年半、TwitterやInstagramを使って様々なことを発信してきた。Twitterの青い鳥は、私に様々な経験を持ってきてくれた。幸福の青い鳥じゃん…これ絶対今回のnoteに書こう…と思いながらこのnoteを書いた。幸せの青い鳥を探しに旅に出たように、待っているだけでは何も始まらない。

私は自分の興味や得意が5歳の頃から全くブレない。しかし、それに気づいたのはつい数ヶ月前の話だ。自分のことは思っていた以上に分かっていないものだな、と思った。虫や農業はそりゃあ、他人より好きだと思っていたけれど、まさか料理まで”めちゃくちゃ”好きだったとは。他人と比べて異様に料理が好きで食にこだわっているということに気づけたきっかけは、やはり発信だった。友人と料理や食べ物の話をするなかで、「えの季って本当に料理好きだよね」と言われたのだ。「そうか、わたし料理好きかもって思ってたけど他人から見ても本当に好きなんだな…。」

ブレない興味や得意を掛け合わせて、そこに発信が加わると、もう本当に最強だと思う。大学時代の恩師が「夢は諦めなければ、自分の予期せぬ形で叶う」と言っていた。まさか、美大を、クリエイティブを諦めた私がイラストやグラフィックレコーディング、図解のお仕事をいただける日が来るとは。そんなの、考えてもみなかった。

「信じるものは救われる、だよ。」と言ってニヤリと笑う恩師の顔を思い出す。だから私も恩師と同じように、どうすればいいか悩んでいる人たちへ「掛け算は最強だよ。」と伝えて、ニヤリと笑いたい。

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