隣の席の課長と私

私の隣の席の課長は漫画の世界から出てきたような人だ。

ヨレヨレのワイシャツを着て、地黒で無精髭を生やしている。ギャンブルが日課のヘビースモーカー。お菓子とジュースばっかり食べているからか、お腹がぽっこり出ていて歯がない。
会社にも手ぶらで出勤してくる。ポケットからはいつも小銭が擦れる音がチャリチャリ鳴っていて、姿は見えなくても彼がやってくるとすぐわかるのだ。正直『清潔感があるサラリーマン』とは言い難い風貌だ。

かといって社内で腫れ物扱いされたり、嫌われているわけではないのは、彼の人懐っこいキャラクターと、仕事の早さだろう。
彼はとても仕事ができるし、みんなから頼りにされている。そして本当に誰にでも優しい。だから多少下ネタが多くても、机の上が缶ジュースのゴミで山積みでも、タバコ臭くても『仕方ないんだから〜』で済まされてきたのだろう。

ちょっと両津勘吉みたいな…

みんな課長のことが大好きだけれど、さすがに机の上は毎日汚いし、ボロボロ菓子をこぼしながら食べるため『隣は嫌だ』という女性社員がいたそう。

今、私はそんな課長の隣の席で仕事をしていて割と心地よいのは、実は私と課長は『ズボラレベル』が一緒だからではないかと思っている。

課長と違い、会社の中でも『いつもちゃんとした服装だよね』と言われる位お手本のようなオフィスカジュアルを着て、7センチヒールでカツカツと歩き回る私。

見た目は取り繕えても、カバンの中はレシートでぐちゃぐちゃだし、洗い物と洗濯物は毎日山積みの中をかき分けるようにして生活していることは社内の人は殆ど想像出来ていないだろう。別にひとりで住む部屋に埃が溜まっていても気にしないし、人に会わないのであれば何日も髪を洗わなくても居られるような『清潔』とは程遠い生活がなんのストレスなく出来る女なのだ…あ、なんか文字にしてみて改めて怖くなってきたかも…

今回『清潔のマイルール』のお題で書こうと思ったとき、清潔とは程遠い生活をしている私にマイルールも何もないじゃないかと頭を抱えた。人に見えるところだけ外見を清潔に小綺麗にして、人が来る時だけ部屋の掃除をするような女だ。『自分のルールで保とうとしている清潔』なんて全く思い浮かばない。

けれど、同じようにズボラで、私よりも周りからの目に無頓着な課長を思い出した時、彼は彼なりの『マイルール』を持っていると気づいたのだ。

例えば彼は毎日必ずシャワーを浴びることは休日でも欠かさないらしい。大多数の人から見れば普通のことかもしれないが、同じズボラ民な私からしたら『人に会わないとか関係ないんだ…』と感心したものだ。あのヨレヨレのワイシャツも、洗濯で落ちないコーヒーとジュースのシミはいくつ作っても捨てないくせに、ちゃんと袖が擦り切れると捨てている。私ならシミがあるシャツを着る方が、周りから汚いと思われそうで嫌だ。髭もちゃんと剃らないくせに散髪は定期的に言ってスポーツ刈りのような短さを保っている。少しでも長いと汗をかいた時に嫌なのだそうだ。
彼は周りの見られ方ではなく本当にマイルールで自分の中の『清潔』の境界線を決めているのだろう。自分の中の心地よさを大事にしているとわかる彼のマイルールは、『清潔』のみにとどまらず彼の生き方そのものを表しているように感じた。

それに比べて私は意思もルールもないな…と思ったが、実はこの『他人ファースト』がマイルールなのでは?と今回考えてみて気づいたことだ。
私の最低限の醜い『繕い』は、いいように言えば、自分と会う相手に不快感を与えたくないという想いが一番にあるからだとも言える。人と会うときは無意識にでも『清潔感のある自分』を繕うこと自体がマイルールだったのだ。

そして、『ひとりの時は無理して清潔を保たなくてもいいよ』というのもマイルール。

溜まった洗い物も、床掃除も、土日にやればいっか⭐︎と、缶チューハイを飲み干してその缶もテーブルの上に置いてそのまま寝る私なのだった…

#清潔のマイルール



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