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【短編小説】木曜のビヨンド ver.4

おまえは愚かだ。男として云々じゃあない。ヒトとして愚かだ。僕は言った。僕は昔からシングルマザーという輩が大嫌いだ。それと同じくらい、こういうことが大嫌いだ。さっさと駄目になるくらいなら、最初から付き合わなければよかったのだ。そもそも、おまえの付き合った理由が不当だ。カノジョはおまえをボコボコにしていい。その権利がある。僕はおまえの知っての通り普通じゃないから、ドンマイ、なんておまえの肩を叩いたりしない。僕の追いつかない精神ではカノジョを慰めることもできない。何もできない。定春、僕は怒っている。おまえが、初デートの後で僕に言ったことを。何故、付き合ったのか、その答えを。

定春、いい子だからってのは理由にならないんだ。カノジョがおまえを熱心に想っていて、それに応えたいってのはまだ分かる。それに向かっていく心とか姿勢は尊いものだ。何物にも代えがたい。ビギナーズラックっていう若さも僕らにはある。けどな、けどだ。今、この瞬間に好きだって思ってないのに付き合っちゃ駄目なんだ。それは、好きになる努力をするってことで。好きにならなかった時のことを考えてない愚か者のすることだ。一番、無責任でやっちゃあいけないことなんだ。わかるな。好きでいるにはきっと努力が要る。これは僕が学んだことだ。でも、好きになるのに努力は要らんだろ……なんで、そんなのに努力するんだ。これは課題か? 仕事か? それともボランティアか? 恋愛はいつから慈善事業になったんだ。赤十字に謝れ。土下座しろ。これでセックスでも済ませててみろ、誰より先にオレがおまえを殺してやる。腐れ外道、生きる価値もない。カノジョやカノジョのオヤや友達より先に、オレが刺してやる。分かったか。

(定春のスピード破局は想定内というか……いや、想定外だった。やっぱり、チンパンジーに恋愛は遅すぎた。童貞論VS処女神話なんて今更流行らない。僕は飲めもしない酒缶を転がして遊ぶ。夜はあまりに長く、生きるには不味かった。)


定春も僕も飲めない。あれは下戸、僕は酔いもしないのに酒は飲まない。金と時間と、健康の無駄だ。もっと忘れる方法が欲しいと皆わめいては麻雀やら文学やらセックス。能無しなのか、揃いも揃って。あぁ、そう考えれば定春のお友達の文学は、なるほどそういうことなのか。カノジョと別れてから筆は乗っていそうだ。また変なのを書いたんだろうな。
よかったな、定春。これからは恋愛小説が書ける。恋愛もしたことないやつには書けない代物だったからな。これでようやく道が増えたな、おめでとう。
慰めるほど傷ついていないのを知っている。そういうフリをしているから。おまえもカノジョも似てるよ。下手な芝居続けて、傷が癒えるように頑張って生きてるんだ。応援する。邪魔する奴は僕が全力でぶっ飛ばしてやる。定春、恋にもできなかった不器用な奴。それはカノジョだって。カノジョのそれは憧れだ。あれは、定春に憧れていたんだ。あいつは優秀なのに馬鹿だから、何となくしか掴んでいない。でも、つまりはそういうことだ。カノジョは僕とは違う、僕になりたかったんだ。多分。

白いレースの服、好きか? 僕は、あんまり好きじゃない。アイロンかけなきゃいけないのが、面倒。
「ひらひらしてる」
今度、ひらひらのブラウス着てくる。
「アイロン、大丈夫?」
適当に当ててくる。おまえも元気だせ。
「サダくんは、女の子だよ」
嫌ってほど知ってるよ。でも、女の人じゃねぇ。ここにいるのは女の人だ。大学にいるのは、女の人になっていく女の子か、女の人だ。大人ってそういうことだ。
僕は時々、オレで、女の子で、男の子にはなれない。男の人にはもっとなれない。でも、たまに少年になる。少年になると、定春ともっと近くで分かり合える。好きだ。
定春は、男でも女でも僕を友達にしてくれる。互いに素っ裸になっても、絶対に間違いが起きない。あやまちなんて、テメェの生まれる前から。

あ、あと。女の子の服は、この顔には合わないから好きじゃない。
レースのフリフリ着てても、「なぁ、兄ちゃん」って声かけられる。大学生にもなって……。


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