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rage-baiting=怒りを煽るコンテンツ | 教科書に出てこないニュース英語 《NZのニュースから》

ニュージーランド(NZ)の公共メディア RNZ (Radio New Zealand)で、2024年8月8日に配信された記事の見出しで使われていました。

'Rage-baiting': How content creators are profiting off your anger
レイジベイティング(怒りを煽るコンテンツ): コンテンツ制作者があなたの怒りから利益を上げる方法

この記事、SNSについて(意外と)微妙な問題を提起するものでした。

内容については後半にまわすとして、まずはこの見出しに出てくるキーワードを見ていきましょう。

◾️'bait'を辞書で引くと

'rage'は、「激怒・熱狂」という意味です。見出しの最後で'anger'と言い換えています。では、'bait'とは?

bait [ béit ] 大学入試レベル
━━[名]
1(釣り針・わなにつける)餌え,えさ;毒えさ
2 〔時にa ~〕誘惑(物),おとり
3 ((古))(旅・仕事の途中での)休憩
━━[動]
1他〈釣り針・わなに〉(…の)餌をつける≪with≫;〈魚釣り場に〉餌をまく;〈畑などに〉毒餌を散布する
2他…を(…で)おびき寄せる,とりこにする≪with≫
3他〈鎖につないだ動物を〉(犬をけしかけたりして)いじめる;〈人を〉(からかって)いじめる
4 ((古))他〈馬などに〉(旅の途中で)まぐさ・水を与え(て休憩させ)る;自〈馬などが〉えさを食べる;(旅の途中で)小休止する

goo辞書

発音注意で、カタカナで書くと、[バイト]ではなくて[ベイト]です。
大学入試レベルだそうです。高校の教科書では、たまぁ〜に出てきました。

今回取り上げた見出しの中では-ing形で出てきているので、動詞の項目を見ると、
「餌を撒いておびき寄せる」

rageと合わせると、「怒りを撒き餌のように使って(人を)おびき寄せる」となります。


◾️SNSで「怒り」がどのように人を惹きつけるのに使われているのか

記事の内容は、長くなりますが次のようなものです。

・トローリング(=流し釣りのようにして視聴者を釣り上げること)は、インターネットが存在するほぼその初期から行われてきた。YouTubeでのユーザーの関心を引くために意図的に誇張されたり誤解を招くようなタイトル、Facebookに投稿されたキワドイ画像、動画、テキスト、虚無主義的なTwitterのスレッドなどは、すべて意図的に人々を挑発し怒らせるために設計されていた。これは多くの人が馴染みのあるオンラインの領域だが、TikTokの台頭により、新しい形態のトローリングが栄えている。

・レイジベイティング(怒りを煽るコンテンツ)やレイジファーミング(怒りを収穫する)は、コンテンツ制作者やソーシャルメディアのインフルエンサーが、オンラインで怒りを煽るだけでなく、視聴者の怒りから利益を上げる新たな手法だ。

・レイジベイティングの本質は、コンテンツ制作者が視聴者からの怒りを引き出すために使う人を巧みに操る戦術だ。怒っていると、コメントやシェア、反応をしやすくなり、最終的にその動画の視聴者からのフィードバックが増加し、コンテンツ制作者が自分のチャンネルへのアクセスを増やし、収益を上げる助けになる。

・TikTokでは、意図的に演出されたインタラクションやストーリータイム、嫌悪感を引き起こす料理動画、そして正直に言って人々をイライラさせるようなミスが含まれることが多いように思える。

《ケース1:ちょっとしたイライラを誘う動画》
バリスタでTikTokerのライアン・ゴウリックRyan Gawlikは、レイジベイティングの達人だ。彼は意図的にエスプレッソを「エクスプレッソ」と呼んだり、キットカットバーを四つに割らずにそのままかじったりする。彼はインターネットの視聴者がそのような行動を不快に思うことを知っており、そのために意図的に行っている。これは主に無害なコンテンツで、人々を少しイライラさせるものだが、ゴウリックには有益であることが証明されている。2022年末にはフォロワー数が100万人を超え、視聴数を現金に変え始めた。

しかし、彼だけではない。人気のあるTikTokユーザーは、スポンサーシップ、資金調達ドライブ、商品販売、チップの受け入れなど、収益源の組み合わせを通じてお金を稼ぐことができる。登録アカウントや動画の数が増えれば増えるほど、収益の機会が増える。ただし、レイジベイティングの領域では、ユーザーが興味深い手法を取ることがある。

《ケース2:わざとやっているグロテスクな料理動画》
ここ数年、グロテスクな料理動画がプラットフォーム上で人気のトレンドとなっている。2021年のバイラル(=ウィルスのように拡散された)フェタパスタ(フェタチーズと水っぽい焼きトマトを使ったもの)はその始まりに過ぎない。今では、乾燥パスタをブレンダーで粉にしてどろどろの生地を作ったり、ビーフと卵、チーズをドリトス(=Doritosスナック菓子の一種)の袋で茹でてインスタントナチョスを作ったりする動画が普通になっている。

イライ・ベチックEli Betchik(@elis_kitchenとして知られる)は、自称「TikTokの最も悪辣なシェフ」であり、このトレンドの素晴らしい普及者だ。2023年、ベチックはガーディアンに対し、自分のコンテンツの一部は視聴者を挑発するように設計されていると語ったが、それを隠そうとはしていないと言っている。「私は本物に見せようとはしていない… 誰かが聞けば、'はい、注目を集めるためにやっている'と言います。私がそうしているのはかなり明らかです。」

彼の動画に対して、「気持ち悪い」「これはボディホラー」「これで体調が悪くなった」「どれほど不快か表現できない」などのメッセージがコメントセクションに散見される。

《ケース3:風刺と真剣さを絶妙にバランスさせている動画》
しかし、グロテスクな食べ物は「明らかに扇情的」なコンテンツのカテゴリーに分類されるが、最も成功したレイジベイティングビデオの中には、風刺と真剣さの間で微妙なバランスを取っているものもある。

ナラ・スミスNara Smithのようなコンテンツ制作者は、その明らかに非現実的なライフスタイルがレイジベイティングと非難されているが、決してそのことを認めようとはしない。それが戦略の成功の一因だ。

スミスの動画では、しばしば有名デザイナーの服を着て、小さな子供たちのためにゼロから豪華な食事を作っている。その食事は何時間も、時には何日もかかり、彼女の子供たちがそれほどの長時間食べずに過ごしているはずはない。

一部の人々は、それがトローリングであることをわかっている。「彼女は明らかにトローリングしていて、人はそれに引っかかり続けています。ナラ、愛してるよ!!x」というコメントがある。しかし、多くの場合、視聴者の反応は、混乱から、 疑念、賞賛といったものまで様々で、明確な説明がないため、スミスはその支配を続けることができている。2024年8月現在、彼女はTikTokで最も検索されるユーザーの一人で、彼女の動画は毎日数千万回の視聴を記録している。

レイジベイティングは策略だとして批判されている。つまり、この戦術はすでに怒りに満ちたオンラインの世界に貢献し、人々の感情を収益を生むための武器として利用しているとして。しかし、(単なる批判ではなく、)Business Insiderによれば、これは実際に効果があると証明された戦術だ。

「…人類学者たちは、これは関心に基づく経済においてフォロワーを増やすための実証済みの方法だと述べています。この経済においては、肯定的であれ否定的であれ、視聴者からの反応を生み出すことが利益を生むデジタル通貨であるので、ソーシャルメディアのプラットフォームはメッセージが前向きであろうと有毒であろうと気にしない。人々がそのメッセージと対話的な活動をしている限り、プラットフォームはそのコンテンツをさらに広めていくだろう。」

実際、あなたがある種の動画を見続けるほど、たとえ衝撃と恐怖を抱えながらであっても、同種のコンテンツがアルゴリズムによってあなたのフィード(視聴履歴に基づいて表示される'次に見る’動画リスト)に押し込まれるのだ。

…中略…

《ケース4:物議を醸しはしても信念を述べているので違う》
レイジベイティングが増えているのは明らかだが、多くのTikTokerは自分たちがそれを行なっているとは認めておらず、また、それは倫理的に間違っていると考えている。

1.3万人のフォロワーを持つ@the_dadvocateとして知られるローリーLaurenは、Business Insiderに対し、その非難はよく知っていると述べた。「パートナーを侮辱する」男性を話題にしている彼女の動画は物議を醸す性質のものであり、他の性別問題についての見解もそうだからだ。しかし、彼女は「その非難があてはまるためには、制作者が不誠実であり、自分が話していることを実際には信じていない必要があると考えているが、私はそうではありません」と言っている。

《ケース5:怒りは、医療の誤情報や人種的不平等と戦うために必要な武器》
RX0rcistのデニース・ブラッドリーDenise Bradleyとサバンナ・スパークス Savannah Sparksは、彼女たちのレイジベイティングとの関係は複雑である。怒りは、オンライン上で医療の誤情報や人種的不平等と戦うために必要な武器であるからだとの考えを話してくれた。

「問題をオブラートに包んで示す(sugarcoat)のは良くないと考えています。… だから、もし私がレイジベイティングをしていると感じるなら、あなた自身に問いかけるべきです:『彼女は何を私たちに見せようとしているのか?』」とブラッドリーはInsiderに語った。

スパークスは「科学、誤情報、犯罪についての報道はレイジベイティングではありません… レイジベイティングは意図的な操作です」と付け加え、彼女たちはそうしたことはしていないと付け加えた。

   *****

先日の東京都知事選で、動画の視聴数を上げるために行われた選挙妨害がありました。
迷惑行為をネタにして視聴数を伸ばし、金を儲ける。
ーこのような動画は明らかに悪質で、rage-baitingと言えるでしょう。

しかし、
ケース1、2のような、他人に直接迷惑をかけているわけではないがちょっと嫌な内容の動画。
これは(濃いめの)グレーだと思いました。
正直なところ、「怖いもの見たさ」に似た魅力があるのはわかります。
「大食い選手権」でソーセージを無理やり口に押し込んでいる様子を流すテレビ番組のような。
私は好きではありませんが、理解はできます。

ケース3で紹介された動画を見てみました。
高価そうでセンスの良い服装をした女性や夫の男性が、おしゃれなキッチンで、とても手際よく包丁を使って、素敵な料理を仕上げていきます。
「そんなこと普通にはありえないよ」という状況です。
が、フィクションとして楽しめて魅力的です。
また、手作り料理の提案として有用です。

ケース4は、主張がとんがっている動画です。
これも、物議は醸すでしょうが、(この人が言うように)自分の信念を個人の意見として話すのは認められていいと思いました。
奨励されても構わないのかとさえ、思います。

最後のケース5は、告発系です。
事実を示しながらファクトチェックができる状態で行われるのであれば、あるべきものだと思いました。

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目的に関わらず、「情報」に注目が集まれば収入にもつながるSNS。

人々が、我々が何を選ぶのかが、クリエーターを応援し、収益をもたらし、さらに関連する情報が支持する人の元に集まります。

良くも悪くも現在の文化の一形態。

このnoteもその一つです。


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