高校

「二限目ってどこ行けばいいの?」
「さあ?体育館じゃね?」
「知らないのかよ、使えねーな」
山本くんは学年でもかなり目立つ美少年でした。体育の球技種目で一緒になりその後世界史の教室でも話す仲になりました。彼は薬局でアルバイトをしていて自分の銀行口座を持っている。学校の帰りに銀行に行くのを付き合ったりもしました。男たちから迫害を受けて傷心していた僕は彼らのような穏やかで楽しい人たちの輪の中にいました。ジャズ同好会を作った加藤くん、ブックオフでアルバイトする熊澤くん、美術部の影山くん、テニス部に所属していて毎朝コンビニで働く三品くん、そして情緒不安定で可愛い格好をした背の低い僕がいました。お弁当を机を並べて食べ、高校生らしい会話を繰り広げていたと思います。なぜ定かではないのかと言うと、僕はその頃も誰とも会話をしなかったからです。話を聞きはするけれど何を聞かれてもおどけて返答するだけ、まともに話すことはありませんでした。けれどもそれでも仲間には入れてくれて、学校の帰りに駅前のショッピングモールに行ったり、修学旅行は彼らと共に沖縄に行きました。沖縄に行っても何も無くて全然楽しくはなかったのですが。沖縄の被災地で講演する人が話していました。焼け野原、洞穴、三人の外国人、崖から落ちる、ずぶ濡れ。悲惨な話をそのまま聞くことができました。僕は話を聞きながら笑っており、それは自身の体験にも通ずるような悪夢に思えたからです。もう笑うしかない。どうしようもないような仕方のないことだ。人間の存在する限りにおいて、暴力への憎しみは止まない。暴力には死を与えると良いです。暴力には殺戮を。目には歯を。集団暴行には復讐殺人を。山本くんはどこかへ消えてしまいました。僕は3年生になってから誰とも会話していなかったので、当時の仲間たちとも疎遠になりました。楽しかった2年生の生活はいつのまにか終わってしまいました。

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