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これは精神科病棟のラウンジで書いたお話。夏のある日に喫茶店へ通じる通路を移動する際に地面にヨナグニサンが倒れていた。巨大な蛾だ。初めて観た。僕はその蛾をつついたり指先に腕を掴ませたりした。目線の高さまで持ち上げて観察した。うさぎのような見た目をしている。ふさふさでもさもさ。ベージュ色の大きな蛾。ここは田舎の街だから山も近くにあってそれなりに多くの虫が行き交っている。でもこの地でこんな大きな蛾を観れるとは思ってなかった。通路を通る涼しい風を浴びてもらい壁に引っ付けた。あばよ、ヨナグニ野郎。次の日にまたそこに向かうと地面に裏返って死んでいた。ヨナグニ野郎、哀れだな。死んだ蛾は触らずにその場を立ち去った。帰りのバスが着いた。乗ろうとすると大きなベニスズメが目の前を停滞した。バスの入り口と並ぶところのちょうど間あたりだ。目線の高さで停滞飛行したそのスズメガは僕を見つめたあとで列の後ろの方へと飛び去った。あのヨナグニ野郎が挨拶してきやがったんだ。死んだ後に死を看取ったというかちょっと遊んでやった僕にお別れを言いにきたんだと思う。ヨナグニ野郎の霊魂がスズメガバスに乗り込んでいたはずさ。ヨナグニ野郎、可愛いじゃねえか........。っていうお話。

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