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「月下美人」がマンションのロビーで咲きました。

マンションのロビーに4日前から「月下美人」の鉢が置かれていて、その鉢にお手紙が添えられてる。

「夕方頃から開いて一夜で散ります。良かったらお楽しみください」みたいな。
なんと、植物園に行かなくても見れるんだ!と鉢が置かれてから毎日楽しみにチェックしている。
誰が置いたのか謎なのだが、それも「月下美人」の不思議さにミステリー感をプラスしててなんか好き。
一昨日の夜には、ほんの少しだけ蕾が緩んできてる様にも見えた。

「月下美人」なんとも妖艶な名前の花だ。
「透けるように白くて美しい花を女性に例え」ついた名前らしい。なるほど。
やっぱり美人っていうのは「透けるように白くて美しい」んだ。

「月下美人」は桜と同じで、日本に輸入された一株から分かれていったクローンなんだって。その後1980年代に東京農業大学の研究員が現地から他の野生種を持ち帰って増殖させて繁殖させたから、今は人間でも容易に(野生ではコウモリが授精させるらしい)人工授精させる事ができるようになって、園芸種として普通の人にも育てられるようになったらしい。そうなんだ。おまけに花も果実も食べられるって、へえぇ。
ロビーにある花の所有権は私にはないから食べちゃダメだよね。

今は案外簡単に手に入って育てられるようだ。知らなかった。
おまけに、

俗説
月下美人にはその美しさのためや珍奇植物として好奇の目にさらされていた時代が長かったせいか、いろいろな言い伝えや俗説が流布しているが意外に間違いが多い。

×同一株から分かれたため同じ日に咲く
同じクローン株であってもタケ類に見られるような体内時計による長期同調性はなく、あくまでもその株の置かれた環境に由来する生理状態の履歴に依存してつぼみ形成、開花を行う。さらに言うならば、既にこの20年ほどは日本国内に複数の遺伝的に異なるクローンが流通しているので、もう日本国内の月下美人全てが同じ株由来ではない。無数のクローンの生息する原産地では言うまでもない。

×1年に1度しか咲かない
手入れをきちんとすると年間2回以上咲く。花を咲かせるだけの栄養素の蓄積や体力回復のゆとりが、成長期に十分あるかどうかの問題である。

×満月の夜にしか咲かない
野生状態で受粉を行うコウモリは、月齢に合わせたサイクルで花粉や蜜を食べに来るのではない。そもそもゲッカビジンの受粉に関わるような小型のコウモリは、毎日食事をしなければ餓死してしまう。従って、月齢に合わせた開花サイクルを進化させる必要はなかった。

何でも知ってるWikipedia

ちょっと待ってくれよ、何でも知ってる Wikipediaさん。
私の「月下美人」に対する憧れを一刀両断にしてくれてるんだけど。

一年に一回しか咲かないとか、それも満月の夜にしかとか、みんな同じ日に花開くとか、今までなんて神秘的なんだって思ってた部分、全部否定してくれてるじゃん。えーーーーっ。
美人も蓋を開けてみれば、みんなとそう変わらないんだよって言ってるみたいだ。

昨日の夜、とうとう開きました。

開いた


確かにコウモリが入りやすそうな大きさ

夜中に一人でずっと見てたけど、やっぱり妖艶でいい香りで白く透けてて、美人だと思う。

鬱蒼とした濃い緑のジャングルの中、月の光を受けてこの透明な白さで大きな花を咲かせている光景を想像したら、やっぱり相当の美人さんだと思う。

何でも知ってる Wikipediaさんの俗説否定にも一晩で散るっていうところには、×がついてなかったから、それは本当なんだよね?

後で見に行ってみよう。でも、見たいようで見たくないような気もするな。
あんなに綺麗に楚々と咲いていたお花が、夜明けとともにどんな形状になっているのか。でも、それも彼女の人生の一部だから、きちんと見届けなければ。

知識としての俗説の類は否定されてしまったけれど、気持ちの上ではオブラートに包んで今までのままにしておこう。

満月の夜、生まれ故郷を遠く離れた仲間同士が、出会うことのない彼の地で約束を交わしたかのように、そっと俯き加減に透き通るような白い花を咲かせて、朝の光を見ることもなく逝ってしまう。
それも一年に一度だけ。

私の中の「月下美人」はそれでいい。



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