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塔短歌会3月号 新樹集(吉川宏志さん選)より

川下のような横断歩道だと二階の窓にひとを待ちつつ/中田明子さん(東京)

主体は誰かと待ち合わせをしている。横断歩道に近い家の二階という可能性もあるが、素直に考えて外の見える喫茶店の二階だろう。先に来てすることもなく窓の外にその人が来るのを待つ。待てども待てども来ない。その時に今目の前に見える横断歩道がどこか遠い場所から流れ着く川下のように見えたという捉え方が新しい。

低すぎる流し台にて手を洗う小学校の家庭科室の/谷活恵さん(兵庫)

世界一有名なうそつきながら枕元へとプレゼント置く/同

ポケットに子が入れてくる団栗のいつしか大樹になるを思へり/西之原一貴さん(京都)

日曜の午後3階へ上ってく踊り場以外走る少女が/吉岡昌俊さん(京都)

玄関で聞く隣人の包丁がまないたたたく音のやさしさ/同

わが歩み衰えたるを口にせず歩めば妻もそを口にせず/荒堀治雄さん(兵庫)

解散して十年経ちし子供会集会室のカルタを捨てる/髙鳥ふさ子さん(千葉)

子が減りて犬の数増えその犬もいつしか減りて立ち話減る/同

朝冷えのバレエスタジオ一面の鏡とバーあるのみなる時間/中田明子さん(東京)

北窓の磨り硝子ねむたし風も樹も時間もすべてみずのなかなる/同

以上。

中田明子さんと髙鳥ふさ子さんがとても良かったです。

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