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縮みゆく地域社会での独立リーグの挑戦

10月19日に東洋経済ONLINEで公開された広尾晃氏の記事が、独立リーグ(BCリーグ)ファンの間で議論を醸し出しました。

記事の内容に関しては各自で読んでいただきたいと思いますが、基本的なストーリーは以下の通りです。

・独立リーグは様々な取り組みを行い地域の野球文化醸成に貢献しているものの、経営状況が芳しくない球団も多く存在している。
・NPBの観客動員数は増加し続けているものの、地方開催の動員は芳しくない。
・地方で頑張る独立リーグも、人口減少の顕著な地域では観客の確保、スポンサーの獲得などの面で限界が近いのではないか。
・小林至氏の主張を引用し、アメリカの独立リーグやマイナーリーグのようにトップリーグとの連携を強め、場合によってはNPB球団がファーム運営を委託するほうがいいのではないか。
・独立リーグの存続のためには、NPBの救いの手が必要である。

この投稿では、広尾氏の記事を批判したいと思います。あらかじめ断っておきますが、批判は否定ではありません。
当該記事の意義を汲んだうえで、独立リーグで実際に行われている活動の現状や組織形態を前提にした展望について、話していきたいと思います。

広尾氏の記事の意義

広尾氏の記事の最も大きな主張、問題意識は「人口減少・停滞する地方の経済・社会の中で独立リーグは存続可能か」という点にあると思いました。

00年代の「野球人気の低下」はどこ吹く風、ここ7~8年は「体験型消費」に裏付けられた野球観戦の人気は増加しています。当該記事でも触れられています通り、NPBは05年の実数報告以降の最多観客動員を記録し、高校野球(夏の甲子園)も昨年最多動員を記録しました。

では、独立リーグも同様に観客数が伸びているのか、というとそういうわけではなく、観客数は減り続けていて、その証左ともいえるような出来事として、先般の福井球団の清算騒動が生じています。

野球人気があるにもかかわらず、地方を主戦場に置く独立リーグにお客が入らないという事実から、都市型と地方の消費形態にギャップがあるのではないかと類推し、独立リーグの存続に警鐘を鳴らした点において、広尾氏の記事の最大の意義があると、私は評価します。

必要なのはNPBの支援か

現に独立リーグの一つであるBCリーグでは、NPBの恩恵を大きく受けているのも事実です。

2018年はリーグ全体で村田修一選手バブルに湧き、2019年も西岡剛選手が(村田選手ほどではないにしろ)観客動員に貢献しています。また、石川ミリオンスターズは監督コーチ人材が日本ハムから派遣されていたり、埼玉武蔵ヒートベアーズでは楽天から多くの選手を受け入れており、NPBとの連携が図られています。

こうした現状を鑑みて、独立リーグの経営的な苦境を解決するためにNPB球団との連携を強化しようとするのは、たしかに提言としては魅力的ではあります。そして、その支援が最大限に進んだ先が、ファーム化であるというストーリーなのだと思います。

理想を語ることは非常に重要です、しかし、そのためには現実に即してそのためのプロセスや独立リーグ内・NPB内での議論はどうなのか、という点も読み手としては非常に気になります。

NPB球団間でも3軍の運用などが一律でない現状、現在の独立リーグとNPB球団の関係や、独立リーグとNPBのレベルの差の課題があり、その調整に政治的コンフリクトが発生する事が予想されます。
仮にファーム委託を目指した連携強化に動くのであれば、それは独立リーグとNPBどちらの働きかけなのでしょうか。仮に独立リーグからの働きかけで12球団を動かすというのであれば、NPBにとっての「うま味」を醸成しなくてはなりません。NPB側からの働きかけだとしたら、独立リーグは現存の各球団にどのように働きかけるのでしょうか。

いずれにせよ、リーグ同士の調整になる以上、リーグ内での所属球団の足並みを双方が揃える必要があるわけで、数年の計では対応する事は難しそうです。

独立リーグの独自路線継続は可能か?

しかして、独立リーグがNPBに頼らず、独自路線で採算をとることは可能でしょうか??
国内の独立リーグの一つであるBCリーグや国内経済の状況を鑑みるに、私は3つ方法を提案したいと思います。

挑戦①現状体制の強化

1つは現在の出資力のあるスポンサーとの関係を維持または強化し続ける事です。

現にBCリーグであれば、多くのチームの背後に、そのチームを支えるスポンサーが見え隠れします。
分かりやすいのは·ネーミングライツを導入しているオセアン滋賀ユナイテッドBCと富山GRNサンダーバーズでしょうか。その他にも、栃木ゴールデンブレーブスのエイジェック、神奈川フューチャードリームスのタックルベリー、信濃グランセローズのほくとと信濃毎日新聞、福井ミラクルエレファンツの福井新聞などなど…

もちろん、大手スポンサーへの依存を強めることには多額の資金を獲得する反面、リスクも伴います。
例えば今般の福井のようなにスポンサーが協力に出資している会社が清算を提案すると、球団存亡の危機が生じてしまうわけです。

挑戦②地域密着により深く切り込む

次に紹介するのは地域密着のあり方を変えるという発想です。

今年の埼玉武蔵ヒートベアーズが好例でしょう。今年の武蔵は本当に多くのイベントを実施してきました。
まず、シーズン序盤に応援団員の3名が球団から「武蔵大使」として任命されました。彼らはスタンドで観客を盛り上げ、コミュニケーションを取るだけでなく、ファン代表の武蔵大使が球団・監督コーチ・選手と一緒になって企画を考え実施してきました
観客動員記録に挑戦した「角監督の奢り」、SNSでの拡散による試合のPRをおこなった「RT割」などの企画はもはや球団史に名を残すレガシーとなりました。
これらの企画を通し、ヒートベアーズの物語に多くの人を巻き込み、結果、他球団が観客数を減らす中、観客数の大幅増と年間観客動員の更新を達成しています。

従来の球団のいう地域密着はどこかよそよそしく他人行儀であったが、今年の武蔵の取組はズケズケと人の土俵に入り込み、「お客様」を「仲間」に変えていきました。
独立リーグならではの地域密着のあり方に先鞭をつけたと、私は評価しています。

挑戦③スポンサーの地産地消からの脱却

最後のポイントはスポンサーの地産地消からの脱却です。
独立リーグのスポンサーは果たして地域の企業に限られるのか?
答えはNOです。

スポンサーが球団を支援する表向きの目的は大きく分けて4点です。
1. 球団の活動を通じた観客や地域住民への広告の暴露による顧客の獲得
2. 地域スポーツ振興によるCSR(企業の社会的責任)の改善
3. 社員の福利厚生
4. 人材確保(引退後の選手の確保およびオフの就職先)
これらの目的のうち3.や4.に関しては、スポンサーは地産地消である必要性があります。しかし、1や2に関しては必ずしもそうである必要性はありません。

例えばいくつかの球団はYouTubeで配信を行っており、毎試合そこそこの人数、下手したら現地の観戦者数よりも多い人数(数百~数千人)を集めています。そしてイニング間にはスポンサーのCMが流れます。
しかし、滋賀県に住む自分にとっては縁遠い土地の地元企業のCMを見たところで、「あぁこのチームはこんな企業がスポンサーなのだなぁ」という認知だけで、購買行動には繋がりません(繋げられません)。

しかし、遠方の土地の試合を見ながらも、滋賀県民の購買行動に影響を与えるスポンサーはあってもおかしくないのです。ネット通販できる商品やサービスなどは、その一例です。つまり、物流が発達し、メディアが多極化している現代において、YouTubeで全世界に配信される独立リーグの試合での広告は、地域を選びません。

その点を鑑みるとスポンサーは地産地消である必要性は全くないわけです。

人口減少する社会において、従来の地産地消にとらわれないスポンサーの獲得が、地域チームの経営に寄与しうる事が期待できます。

(3点目については、こうした取り組みを実際にやっている球団は無く、所詮、絵空事です。その意味では冒頭で紹介した広尾氏の記事と同じ次元です。しかし、単独球団レベルの政治的な調整で達成可能であるため、実現は比較的容易でると自分は考ます。)

だけど根本にして一番大事な事

今回は多く語りませんでしたが、もちろん、球場の現場での試合を通したスポーツエンターテイメントが、経営のコアであるのは言うまでもありませんし、またの機会に紹介していきたいと思います。
ただ、スタジアムでのエンターテイメントの場である試合やその役者(プレイヤー)である選手を通した魅力ある物語を球団が紡ぎ、ファンやスポンサーを巻き込んでいく取り組みは、まだまだ出来ることがたくさんあります。

しかし、社会が縮小していく中で、一年一年が勝負なのもまた事実です。
各独立球団が持つ危機感は、福井県民球団の清算の件を受けてより一層強まったことでしょう。

その中で、次の一手を矢継ぎ早に打ち、大きな目標に向けて具体的にできることを考え、提案し、動き、挑戦し続けていくことが、独立リーグにとって、本当に大事なことではないでしょうか。

さて、ファンとしてこのオフはどんな挑戦をしましょうかね。

PR:2019シーズンに自分が滋賀でやった事


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