見出し画像

色黒は七難現す⁉️


自分の容姿が他人より劣っていると気がついたのはわりと早い時期だった。
幼稚園の演し物でフラダンスを踊ることになり、その衣装は腰蓑(ピンクのビニール紐で作られたもの)胸を隠すブラのようなもの(よく覚えていない)だった。首からは工作の時間に作った紙飾りのレイをさげて。
もちろん腰蓑の下には体操着のブルマを履いていたのだが、立て膝をつくポーズの時などはビニールの腰蓑から膝から下が丸出しになってしまうのが死にたくなるほど恥ずかしかった。
こんなずんぐりした茶色い足を誰にも見てほしくない。
子供心にそう心底思った。


もちろんブラみたいなものを着る時も、5歳ながらに屈辱を感じたものだ。
なぜ知らない大人達(父兄達)に身体を見せるようなことをしなくてはならないのか、嫌で堪らなかった。5歳なりに羞恥心というものはあるのだ。
ブラの下から腰蓑までの肌が露出しているのも憂うつの原因として大きかった。
他の子供よりも茶色くて寸胴で、色白のすべすべした可愛らしいお腹とは誰が見てもその差は歴然だった。


わたしは両隣りに居る色白の茶色いくるくるした巻毛も愛らしい友達や、まっすぐな黒髪に冠の黄色の花が王冠のようにきらきらしていた友達の間でひとり黒いコンプレックスに沈んでいたのだった。


大人になってもそれは続いていた。
白ければ良しとされる時代がくると、色黒は罪のような刷り込みをされた。
日焼けをしないように過剰なまでに化粧品をはじめ、サプリメントや生活習慣にまでさまざまな提言のようなものがされてきた時代にあっても、わたしはあいかわらず色黒だった。
マイケルジャクソンがどんどん皮膚を漂白して(彼自身は否定していたが)いったように、白いことこそが正解だった頃。


わたしは服を買いに店に入り、店員の方と他愛もない話をしながら楽しく夏用のワンピースを選んでいた。
その彼女がふいにわたしに尋ねてきた。
どこか旅行に行かれたんですか?
なぜそんなことを聞くのかと思ったが、どこにも出かけてませんよと言うと、えっと戸惑った顔をして口籠る。
あの〜すごく日焼けしてらっしゃるからてっきり海外とかでサーフィンとかされてきたのかと。
あー。そっちか。
わたし、子供と公園で一日中過ごしてるだけで日焼けしちゃうんですよ。
えっ。またその彼女が驚いたように言う。
普通、それくらいでそんなに黒くならないじゃないですか。
わたしはにっこりと笑った。
じゃあ今度そう聞かれたら、グアムでサーフィンしてきましたと答えるようにしますね。
そう言うと彼女は黙り込み、作り笑いを浮かべながらレジへと案内してくれた。


こんなわたしから生まれた子供達は色白だった。
わたしの色黒さは変わらなかったが、息子の前で一度だけ自嘲気味にボヤいたことがある。
やっぱり、女は色が白いほうがいいんだよねー。
世の風潮としてこうだよね的に言ったつもりだった。
息子は笑いながら、
あのさーあんたはジェニファーロペス目指してみればいいんじゃん?
ジェニファーロペスか。
彼女を目指すというのはだいぶハードルは高いが、白くても隠れない七難もある。
黒くても隠せる七難もあるかもしれない。
そっかー。
じゃあ今度からわたしのことジェンって呼んで。
うえ。
息子の首を絞められたような声と顔を見てわたしは涙を流して笑ったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?