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きみを見つめて #シロクマ文芸部

ヒマワリヘ何度声にならない声をかけただろう。
わたしは小さな羽を羽ばたかせ、いつも大きな重たげな顔を向けているあなたのそばにいる。わたしは仕事をしないわけにはいかない。
そういう定めだから従うしかない。
女王とその子供達の為に働くことはわたしのDNAに組み込まれている。



でも仲間達に気づかれないように、わたしはあなたを見つめている。蜜を取ることはわたしにとっては接吻だ。
あなたに触れ、感じ、甘い蜜を運ぶ。

それがわたしたちの仕事じゃないの。
仲間は笑うけれど、そんなものじゃない。

あの美しい金色の花弁が枯れていく姿にわたしは涙を落とす。
茶色く黒ずんで一枚一枚と縮れて地面に落ちていく。太陽を追いかけていたあなたはぼろぼろになって立ち尽くしている。

わたしの煩い羽音ももうあなたには聞こえていない。
あなたは子孫を残すのだ。
たくさんの種子を抱いて、もう太陽を追いかけることもない。
わたしはもう蜜はいらない。
巣に運ぶこともしない。
こうしてあなたのそばにいる。
わたしにはもう帰る場所はない。

飛ぶこともできなくなったわたしはあなたの足元で横たわる。
重たくなったあなたの顔はうなだれ、種子を落とす。わたしは種の養分になって、あなたとひとつになり、子供たちを育むのだ。


#シロクマ文芸部

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