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ちょっとづつおとなになる

みーちゃんがグループホームから我が家に帰ってきた。
残念ながらその家にもうわたしは居ない。
帰省する日をLINEで伝えられていたので、その日に合わせてシフトを組んでいた。

台風の影響で空模様があやしい。
気温湿度も上昇。湿った嫌な匂いがする。
相方の車を借りてかつての我が家へ急ぐ。
曇り空で今にも降りそうな雲行きだったが、無事に着くとホッとした。

20年以上、歩いたり、自転車や車を走らせた道を今は他人の顔で素知らぬ振りでかつての我が家だったところに行くのは、不思議な気分だ。
少しの罪悪感と割り切りの気持ちでないまぜになった、おかしな顔のままドアを開ける。


みーちゃん、みーちゃん、ママ来たよー。
すると和室のドアが開き、みーちゃんが出てきた。
同じ部屋にいる父親にママ、来た!と声を掛ける。来たのか、とかつての旦那がにこにこ出てきた。
普通に会話ができるのはありがたい。
昼どうする?と聞かれ、あまり食欲ないからと断ったが、買い物に行くからついでに何か買ってくるけどと再三言われたので、しかたなくおにぎりと答えた。
おにぎり?わかった。


彼が出かけている間にみーちゃんをお風呂に入れる。髪の毛を洗ってあげる。
自分でできるのだが、ひさしぶりにこうして一緒に入ると小さい時のようにやってあげてしまう。
彼女もそれが当然のようになすがままにされている。気持ちよさそうに目を瞑っている。
背も胸もわたしより若干大きくなったようだ。
バスタオルで拭き、ドライヤーを取り、スイッチを入れ髪の毛を乾かし始める。
昔ならできなかったことができている。
しかし、そのドライヤーを持つ手がとても小さく、幼い子のようで、なぜかグッときてしまった。
掌を合わせるとわたしよりひとまわり小さい。
とても25歳の女性のものとは思えない。
顔つきもあどけない。
小学生のように見える。


あと何年こうしてグループホームに迎えに行き、我が家で過ごさせることができるだろう。
慣れたとはいえ、他人と暮らす家と好き勝手できる我が家とは勝手が違うだろう。
さかんにかーごーり(カキ氷)、ケーキいちご(ショートケーキ)、アンパンマン、コナー君(コナン君)、おーちいーちゃん、仕事、でーしゃ(お兄ちゃん、仕事、電車で行った)と喋り続けている。
そのたびにそうだね、と言うと、うん!と満面の笑顔。

以前ならできなかったことができていて、ちょっとだけ大人っぽくもなったかなとふっくらとした頬を撫でながら思うが、やはりまだまだ幼いままだ。
抱きしめると幼稚園の頃に戻ったような気がする。


みーちゃん、ママまた来るからね。
帰りがけに部屋に寄り、声をかける。
もうわたしの後を追うことはない彼女はコナンのDVDを観る定位置から動かず、ママまたね、さよーなら。と言うだけだ。
子離れしていないのはわたしの方だ。
みーちゃんは知らぬ間に、ちょっとづつおとなになっているのだ。
帰り道、台風の影響で急に土砂降りになった。
ワイパーを最速で動かしながら、わたしもじんわり溢れる涙を拭った。


またね。
みーちゃん。

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