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【研究ノート】アメリカの中学生がアニメを通して日本語を学ぶコツ

ひょんなご縁から、最近アメリカ人のお子さんに日本語を教えています。
継承語としてではなく、外国語として日本語を教えるのは初めてなのですが、やっぱり「楽しく、面白く、効率的に」はモットーで、こどもの好きをエネルギーに試行錯誤しながら取り組んでいます。

そして、アニメが大好きなアメリカ人の中学生で日本語を学びたいお子さんがいると聞きました。以前からアニメを通して日本語を教えられたらなぁと思っていたので、今回は、アニメで日本語を教えるにはどのような方法があるかリサーチしてみたので、メモしておこうと思います!

1 アニメを日本語学習の教材として使用するメリットデメリット

メリット:動機付けの力が高いこと!
メリットはそれは何よりも、動機づけ!アニメの面白さにハマり、日本語をもっと学んでみたい!という入り口が既に素晴らしい。

アメリカでは日本のアニメの人気はすごいです!長女が通っている中学校でも鬼滅から始まり、Haikyuu、ワンピース、斉木楠雄のΨ難、呪術廻戦などなど。アニメにハマっているアメリカの中学生の多いこと!

動きも音声もあり、イメージと共に語彙も豊富。おまけに日本の文化的な要素も垣間見ることができる。楽しく、飽きずに、日本語のインプットを映像と音声と共にできるという点が、アニメを使って日本語を学ぶ最大のメリットだと思います。

デメリット:学習とどう繋げるか
デメリットは何と言っても、日本語の学習を全くしたことがない学習者に取ると、内容の面白さの理解から、「言葉」の理解の面白さにつなぐその方法にあると思います。

実際今私が日本語を教え始めた生徒さんは「おしり探偵」や「かいけつゾロリ」が大好きなので、それらを教材にして進めたいのですが、いきなりは入れないこと実感中です。最低でもひらがな、カタカナ、基本的な日本語の文法、そして語彙をどこかで楽しく集中的に積み重ね、ある程度日本語のルールや語彙を増やしてから出ないと、大好きなお尻探偵が硬い勉強になってしまい面白みがなくなってしまう気がするからです。

2 アニメを使った日本語学習法に関する研究


そこで何かいい方法はないかと少しリサーチしていると、こんなにもアニメが人気でアニメをきっかけに日本語を学びたい人がいるにも関わらずその手法はあまりまだ研究されていないとのこと!?けど、全くないわけではなく、英語日本語いろいろ調べている中で面白いと思ったのはこちら、

矢崎満夫、2009年、「アニメを素材とした日本語学習活動『アニメで日本語』の開発ー「アニマシオン」のティーチング・ストラテジーに着目してー」静岡大学国際交流センター紀要 第3号、P27-42

いろんな論文の中でなぜこの論文が目にとまったかというとこう書かれていたからです。

初等・中等教育機関で学ぶ学習者の教育目標や発達段階を考えた場合、文系表現や語彙、日本文化などの教えるべき学習項目のインプットに重点を置くよりも、もっと仲間(学習者)同士のコミュニケーションの楽しさを味わえる様な活動を取り入れていくことが必要である。

矢崎,2009,P28

そうなのです。アニメが大好きで大学生や大人になって日本語を学ぶ場合とアニメ好きの小・中学生で学ぶ最大の違いは、思春期まっただ中という点ではないかと思っています。この点を外してしまうと、「お勉強」になってしまいアニメの面白さが失われてしまうように感じていたので、この論文はその点にも配慮されているので面白そう!と感じ読み進めることにしました。

アニメを通して、学習者同士のコミュニケーションの楽しさを味わう活動とは何か???

とっても気になります!

3 コミュニケーションの楽しさが味えるアニメ学習法とは???

具体的な方法論に入る前に、矢崎の教育の捉え方が面白かったのでメモしておきます。

矢崎は教育活動をただ教え、学ぶ営み以上に、

 全ての人間が持って生まれたその命・魂を生き生きと躍動させること、生命力・活力を吹き込み、心身を活性化させること 

矢崎,2009,P28

と捉えている点です。このコンセプトは「アニマシオン」という用語がある様です。
「楽しい!面白い!もっと知りたい!」という喜びは、人間が豊かに成長していくのに欠かせないもので、そして学びにもエネルギーを与えてくれるものというのは、アニメに限らずすごく共感できます。

スペインのM.サルトはこのコンセプトを読書術を教える方法として応用しました。そのM.サルトの方法を日本語学習に応用したのが矢崎の開発した『アニメで日本語』です。

具体的には、『千と千尋の神隠し』を題材に、例えば、

①この人の名前は?アクティビティ
アニメの主な登場人物の絵とひらがな、カタカナで書かれた名前を組み合わせる。自分で書いてみる。発表する時に「これは・・・です」という表現を練習する。

② これは誰の言葉?
登場人物の印象的なセリフを聞いて、それが誰の言葉かをみんなで当て合う活動。

③ 誰が、何を?
アニメの画面は見ないで、音声だけをきき、「ここに誰がいるか」「何をしているか」を日本語で説明する活動。

④クイズ大作戦
チームに分かれ、それぞれのチームがストーリーや登場人物についてのクイズを日本語で作り、正解を競い合うもの。

などの問いを中心に、仲間同士のコミュニケーションを喚起しながら日本語学習に繋げていくという方法です。


4. 矢崎の『アニメで日本語』を使って初めて日本語に接する中学生向けにアレンジしてみる

さて、矢崎の方法を読み、参考になる点はたくさんあるものの、ひらがなもカタカナもまだ知らない、日本語超初心者の私の生徒さんにはまだ難しい点が多いと感じました。

また、『アニメで日本語』の問いかけは、本を読むための力を引き出す活動から応用されているためか、日本語を自立して学ぶための技術が引き出されていくかという点はまだしっくりこない部分があります。

日本語を学習するための力を子供達から引き出すための体系的なメソッドは何か。
日本語を自立して学習していく技術をどのように蓄積していけるか。
それを「作戦」という形で発達段階に合わせて体験できる活動は何か。
について、深めていきたいと思いました。

それらを深めつつ、
今できることとしては、
まず🎵キーンコーンカーンコン🎶のチャイムから始まり、
「起立、気をつけ、礼、着席」
のRitualを行い、

自己紹介や挨拶などの簡単な日本語、
助詞や日本語の文章の作りの簡単な説明、
楽しく面白くひらがな・カタカナ・漢字の学習を進めつつ、
(この時の練習例として山崎のティーチングストラテジーを活用。例えば、ひらがな・カタカナ・漢字はアニメの登場人物のものを使用する。自己紹介や挨拶などもアニメネタをバンバン入れる。)

そして、アニメをみて、
ロールプレイできそうな部分を選び、生徒に演じてもらう。
それも心を込めて演じ切る!ということを通して「会話力」を楽しく身につけていけるのではないかと思いました。

5. まとめ:アニメでドラマ!

これをまとめている横でアメリカの中学校に通っている長女がぼそっと、「そもそもアニメが大好きであれば、アニメを通して日本語を学ばなくても、日本語を学ぶモチベーションは高いから普通に教えるのでいいと思うよ」と。

確かにおっしゃる通りです!そう考えるとアニメは日本語学習を続けるモチベーションを保たせてくれるだけでもう十分な役割を果たしてくれていることに気づかされます。

それも進めつつ、もし、アニメを使って日本語を初心者に教えることがあったら、私はこのように進めていこうと思います。

☝️日本語学習の基本的なステップを軸に、アニメの内容もネタや例にふんだんに使う。
☝️実際にアニメをみて、状況や文脈を理解した上で、アニメのキャラクターになりきって生徒のレベルに合ったセリフの練習を仲間と思いっきりする。

これだったら、どんなレベルにも応用できる!

今教えている子も文法の練習などでもっともっと彼女の大好きな『おしり探偵』ネタを使っていこうと思いました!

興味を持った言葉が聞き取れる様になったら、それを自分で調べられる様になると、自立した学習者に更に近づいていくんじゃないかと思いました。


参考文献
矢崎満夫、2009年、「アニメを素材とした日本語学習活動『アニメで日本語』の開発ー「アニマシオン」のティーチング・ストラテジーに着目してー」静岡大学国際交流センター紀要 第3号、P27-42


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