【#あんクリ製作委員会】あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-7<前編>
お店のキッチンに大量に置かれたかぼちゃを前に、私は思わずため息をついた。
———タケダのおばあちゃんから、宅配でかぼちゃが2箱も届いたのは、閉店時間が近づいて締め作業を進めていた時だった。
「友人からたくさんもらったので、あすかちゃんもどうぞ」と直筆のメモも添えられていた。
かぼちゃで作れる料理、何があったかな。煮つけに味噌汁、あとは……サラダとか?
いずれにしても一人でこの量を食べるのは到底無理だし、冷蔵庫がかぼちゃ料理で埋め尽くされてしまう。
………ユウちゃんのところにでも持っていこう。あの子ならきっと美味しい料理に変身させるはず。
かぼちゃを数個ビニール袋に詰め、両手に持って店を出ようとしたその時。
「きゃあ!」
私は、ドアの前に立っていた人物に気づかず、危うくぶつかりそうになってしまった。
「!? ごめんなさい、大丈夫ですか………
……って、紗希子さん!」
私の目の前に立っていたのは、商店街で新たにこども食堂をオープンした紗希子さんだった。
***
「ごめんなさいね、突然お邪魔しちゃって」
店のイートインスペースに座って話し始める紗希子さんは、40代とは思えないほど若々しく、おっとりとした雰囲気の可愛らしい女の人だ。
3ヶ月ほど前にオープンしたこども食堂では、オーガニックをコンセプトに、体に優しく、ボリュームも程良くある食事を用意している。
若い頃に海外を放浪していたこともあるらしく、どこかの国の民族料理をアレンジしたものが出てくることもあるとか。
栄養も愛情もたっぷり詰まった紗希子さんのご飯は、子どもたちから大人気だ。
「いえ、全然大丈夫ですよ!
……それで、何かあったんですか?」
「あぁ、そうそう!今日はね、ちょっとあすかちゃんに相談があって。
実は、31日のハロウィンの日に、うちでイベントをしようと思ってるんだけど、あすかちゃんに何か甘いものを用意してもらえないかなーって。」
「あすかちゃんも忙しいと思うから、もちろんいつものあんこやクリームのたい焼きでも全然ありがたいんだけど、欲を言うと……
何か、この季節に合ったお菓子を用意してくれるともっと嬉しいかなぁ」
この季節に合ったお菓子。
………これは、あの大量のかぼちゃを美味しく食べてもらうためのチャンスなのでは。
「それなら、ついさっきかぼちゃがたくさん届いたので、それを使って作ってみますね!
ちゃんとしたものが用意できるかは分からないけど……」
「ありがとう!とっても助かる~!
あすかちゃんのたい焼きは子どもたちからすごく人気があるから、きっとみんな喜ぶわ」
私もあすかちゃんのお菓子楽しみにしてるわね、紗希子さんはそう言うと、ニコニコと嬉しそうに店を後にした。
***
「いろり庵のあすかさん」7話は、前後編に分かれます!
こども食堂を運営する紗希子さんのイベントに、新作を持って参加することになったあすかさん。
しれっと登場した新キャラの女性によって、いろり庵にも新しい風が——?
その結末は、後編で明らかになります✨
最後までお読み頂き、ありがとうございました☺
*「あんこちゃんとクリームくん」作品集
https://note.com/anemone_94/m/m8318bcd35cb5
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