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溢れた涙は、一条の光

図書館で利用者登録を終えたわたしが、真っ先にしたこと。

それは、カウンターの近くにあった検索機でずっと読みたかった本があるか探すことだった。

タイトルを打ち込んで、検索ボタンを押す。

———あった。
小島環さん「泣き娘」

ここから本の紹介をしていきますが、
ネタバレはありませんのでご安心ください。


***

舞台は、史上初の女帝である武則天が治める中国、唐の時代。
今も続く伝統なのかは定かではないが、当時の中国では、葬儀においては泣くことが最大の弔いとされていた。

遺族は、故人が眠る棺を囲んで突っ伏し、5日もの間泣き続ける。
3日目までは死者が蘇る可能性があるため、5日間たっぷり泣き続けなければならないというのが習わしだった。

………だけど、故人に対して良い思い出を持った遺族ばかりとは限らない。
故人の生前の振る舞いによっては、泣こうとしても泣けない可能性も大いにある。

そこで重用されるのが、主人公の 泪飛るいひが務める「泣き娘」こと「哭女こくじょ」だ。
哭女がそれぞれの故人に合わせた歌を歌いながら涙を流すのにつられ、泣く参列者が増えると、故人に箔がつき、「良い葬儀だった」と評されることとなる。

………けれど、哭女とて人間だ。
葬儀の度に都合よく泣くことができる哭女は実のところほとんどおらず、彼女たちでさえ泣くふり・・をしているのが実情。

そんな中、泪飛だけは、誰の葬儀であっても必ず本当に泣くのである。
綺麗な声で歌いながらポロポロと涙を流す姿は人々の胸を打つものがあり、彼女はNo.1の哭女として多忙な日々を送っていた。

***

そんな泪飛には、絶対に知られてはならない秘密があった。
——「哭女」というからには、この仕事を務めるのは当然ながら少女である。

しかし泪飛、実は少年・・なのだ。
母親譲りの美貌と透き通った声を武器に、少女を装って哭女の仕事をしているのである。

全ては、亡くなった両親に代わって幼い妹と弟を育てるため。
わずか13歳にして、泪飛こと燕飛えんぴは、一家の大黒柱を担っているのだ。

………けれど、先程も書いた通り、燕飛は13歳の少年だ。
言わずもがな彼は成長期の最中さなかにあり、その身体は日々大人へと近づいている。

それはつまり、いつかは少女のふりをすることができなくなるということであり、哭女の仕事を辞めざるを得ない日がくるということ。
自分が働かなければ家族は路頭に迷ってしまう、かと言ってその先の生計を立てるあてがあるわけでもない。

先行きの見えない不安を抱えながら、燕飛は来る日も来る日も働いていた。

———そんな彼の運命は、かつて官吏だった青年、青蘭せいらんとの出会いによってがらりと変わることになる。

青蘭と出会い、日々を重ねた先に、燕飛が掴んだ未来とは———。

———このお話は、燕飛が哭女の仕事を通して成長していく過程を描いた物語であり、
仕事先で様々な人と出会う中で露呈するある人物たちの死の謎に迫るミステリーであり、
実際に存在していた唐という時代を舞台に、多様な面から中国の歴史に触れることができる歴史小説だとわたしは思う。

どの側面から見ても読み応えたっぷりで、大ボリュームな1冊だ。

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