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あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-13〈後編〉【#あんクリ製作委員会】

「ありがとねユウちゃん。本当に助かった」

「今日は配達も終わってるし問題ない。
無事に送り届けてあげられて良かったよ」

配達で使っているワゴン車で女の子を送り届けてあげられないかとユウちゃんに連絡すると、快く引き受けてくれたため、女の子の体調が良くなった頃合いを見計らって来てもらった。

知らない男性と2人では不安だろうと私も付き添い、女の子がお家の中に入るのを見届けて商店街に戻って来た。

「それにしても、こんなに暑いんだし部活動のやり方ももう少し考えた方がいいと思うんだよね。
熱中症で救急搬送される人が例年より多いってニュースでもやってたし」

「そうだな……。夏はどのスポーツも大会が多いから致し方ない部分もあるのかもしれないけど、命より大事なものなんてねぇしな」

「本当だよね。
私も中学生の頃、部活中に熱中症になって早退したことあったけど、辛かったもんな〜」

フラフラしながら帰った私を見たおばあちゃんが、血相を変えて駆け寄ってきたのを覚えている。

あんなに慌てた様子のおばあちゃん、それまで見たことなかったな……。

・・・

暑い。
どうにか気を張っていないと、今にも倒れてしまいそうだ。

部活中に熱中症になってしまった私は、早退して家へと歩いていた。

保健室で少し休んでから帰りたいのが本音だったものの、夏休みで保健室の先生がいないからと帰されてしまったのだ。

時刻は14時過ぎ。
暑さが1日のピークを迎える中、ふらふらとする足をどうにか進める。

家ってこんなに遠かったっけ。
歩いても歩いても着く気がしない。

———ああ、やっといろり庵の暖簾が見えた。
やっと体を休めることができる……。

ドアを開けて中に入ると、店内は冷房が効いていて、体から熱が引いていくのを感じた。

「おかえり、あすか
………あんた、顔が真っ赤じゃないか!早くそこに座りな!」

焼き台の前に立っていたおばあちゃんが、私を見るなり慌てた様子で駆け寄った。

「何でそんなフラフラな状態でこんな暑い時間に帰って来たんだい!?」

「夏休みで保健室の先生がいなくて、1人で寝かせておいて何かあったら困るからって顧問の先生が……」

「全く、融通の効かない教師だこと。
スポーツドリンクを持って来るから飲みな。
一気に飲むんじゃなくて、少しずつだよ」

サッと厨房に戻ったおばあちゃんは、テキパキと用意してくれた。
私が飲み始めたのを視線の端で確認すると、今度は足早におばあちゃんの部屋に入る。
ピッ、という音がかすかに聞こえたかと思うと、 

「私の部屋の冷房をつけておいたから、飲み終わったら着替えて横になりな。店が終わるまで寝てていいから」

そう言って厨房に戻った。

スポーツドリンクを言われた通りゆっくり飲みつつ、厨房に立つおばあちゃんの後ろ姿を見る。
そのままぼんやりと見続けていたら、不意にこちらを向いたおばあちゃんと目が合った。

「………帰り道で倒れたりせず、無事に帰って来てくれて良かったよ」

「熱中症は命に関わる病気だからね」

そう話すおばあちゃんの声は、少しだけ震えていた。

***

「ふじえさんが命に関わる病気って言うと、すげぇ説得力があるよな。
夏の厨房は特に暑いだろうし、しっかり対策しながらずっとやってたんだろうなぁ」

「スポーツドリンクが冷蔵庫にあったのも、熱中症対策でストックしてたからだと思う。
私が知ってる限り、おばあちゃんが熱中症になったところは見たことがないから、本当に気をつけて毎年過ごしてたんだと私も思うよ」

———あの日、熱中症で帰って来ておばあちゃんに介抱してもらった私は、気づけばあの日のおばあちゃんのように女の子を介抱する立場になったのか。

おばあちゃんのいない、いろり庵で。

思わぬところで時間の流れを感じながら、ユウちゃんと2人、昼の青さが残った夜空を見上げた。

***

前後編でお送りした13話は「熱中症」がテーマでした。

これまでの昔の思い出を取り入れたお話は、ユウちゃんやハルくんも登場するものばかりだったので、ふじえさんとあすかさん2人だけの思い出も書けたらいいなと元々考えていました。

今回、それが実現できて良かったなと思っています✨

ちなみに、暑さがピークの時間帯に熱中症状態で帰されていたあすかさんですが、実はわたしの実体験だったりします(実際の状況通りに書いたわけではないのですが…)

まだまだ暑い日が続くので、熱中症には十分気をつけて過ごしましょうね…!

最後までお読みいただき、ありがとうございました☺️


*「あんこちゃんとクリームくん」作品集

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