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【#あんクリ製作委員会】あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-11.5

冬馬とうまさ~、あんたも今年で32でしょ?そろそろ結婚とか考えた方がいいんじゃないの?」

洗い物をしつつ、息子の聡太そうたと動画を見ている弟に話しかけると、彼はため息をつきつつ答えた。

「結婚も何も、相手がいないんじゃどーにもならねーだろ」

「え? あんた今彼女いないの?」

「いねぇよ!悪かったな!」

「じゃあ、好きな子とかは?そういう子もいないわけ?」

「…………それは……」

突然口ごもる様子を見て、私は一つの確信を得る。
相変わらず、弟は嘘をつくのが下手くそだ。

「冬馬」

「何」

「その話詳しく」

「…………あーもう……分かったよ……」

もっととうちゃんと遊びたい、とごねる聡太を、早く寝ないとサンタさん来ないよ、と脅して部屋に行くよう促すと、あぐらをかいて座っていた弟をダイニングテーブルに引っ張り出した。

よーし、お姉様がじっくり話を聞いてあげようじゃないの。

***

「ここがいろり庵か……」

弟が気になっている女の子は会社の元後輩で、お祖母様から継いだたい焼き屋さんを一人で切り盛りしているらしい。
会社に所属していた頃は有望株だったと冬馬は言っていたけど、いったいどんな子がやっているのだろう。

「ママ、早く入ろうよ~」

「そうだね、寒いし入ろっか」

ドアを開けて店内に入ると、出迎えたのは質素な感じの女の子だった。

「いらっしゃいませ、こんにちは~」

長い黒髪は後ろで一つにまとめただけだし、化粧っ気もあまりない。
だけど、肌がきめ細やかで綺麗な和風美人といった雰囲気の子だ。

………ふーん、冬馬の好みはこういう子なのか。

「ご注文はお決まりですか?」

「聡太、あんこのたい焼きとクリームのたい焼き、どっちがいい?」

「クリーム!」

「じゃあ、あんこ2つとクリーム1つください」

「店内でお召し上がりでしょうか?」

「あんこは1つ持ち帰りで、残りは店内で食べます」

「かしこまりました。450円頂戴します」

トレーから小銭を受け取る手にはところどころ赤切れができていて、忙しい日々を過ごす様子が垣間見えた気がした。

……きっと、会社を辞めてから必死でお祖母様が残したお店を守ってきたんだろうな。

「ありがとうございます。
お席までお持ちしますので、おかけになってお待ちください」

会計を終えた彼女は、私の目を見てふわりと微笑むと、店の奥へと歩いて行った。

***

「お待たせ致しました、こちらのお茶と一緒にお召し上がりください。
僕はオレンジジュースで良かったかな?」

「オレンジジュースすきー!」

「すみません、ありがとうございます」

元気いっぱいに答える聡太に、彼女はにこやかに微笑む。

「お持ち帰りのたい焼きはこちらに置いておきますね。ごゆっくりどうぞ」

焼きたてのたい焼きを手に取ると、温もりがじわっと冷えた手に伝わって、寒い日に温かい湯船に浸かった時みたいに心がほぐれていくのを感じる。
一口かじると、あんこの優しくて繊細な甘さが口いっぱいに広がった。

「聡太、あんこもちょっと食べてみる?」

「食べる!」

「ママにもクリームのたい焼きちょっとだけちょうだい」

聡太にあんこのたい焼きを渡すと、クリームのたい焼きも一口食べてみる。
濃厚な卵の風味の中にバニラビーンズがほんのり香って、とても美味しい。

「ママ、たい焼きおいしいね!」

ニコニコと嬉しそうに笑う聡太を見て、私も思わず頬が緩む。

「ね、美味しいね。今度はパパも一緒に食べに来ようね」

とうちゃんも一緒に来ようよ、という聡太の言葉に、今度は違う意味で頬が緩みそうになった。

何も言わずにここに連れて来たら、弟はどんな顔をするだろう。
今夜、聡一郎旦那さんと作戦会議でもしようか。


***

久々の更新にしていきなり新キャラ目線の11.5話は、梅澤先輩のお姉さんが主役でした!

しれっと先輩のフルネームが明らかになったところで、この間ダイジェスト編に相関図を載せたばかりではありますが、この後最新の人物相関図もアップしようと思います🙇🏻‍♂️

ちなみに、このお話を書きかけていたのは実は去年の11月末頃だったので、あんクリの世界はまだクリスマス前だったりします😂

最後までお読みいただき、ありがとうございました✨


*「あんこちゃんとクリームくん」作品集


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